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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
25/40

25

 部室に残るらしい部長や副部長と別れ、外に出る。

 外はまだ明るい。

「まさか、あれほどいい反応するなんて思いませんでしたね」

 舞耶が苦笑し、夏音は困惑するような表情を浮かべた。

「最後の調査になっちゃうみたいだし、ひどいことしたかも」

 思ったより深刻に捉えているらしい夏音に、舞耶は慌てたように声を上げる。

「でも、部長もあの本の内容に目星付けてたみたいだし、調査するのが早まっただけですよ!」

「まぁ、俺もそう思う」と頷く俺と舞耶に、「ありがとう。そう思っておくね」と夏音が微笑む。

「結果はともかく、部長としても、満足いく調査になると思います!」

 そう力強く頷いた舞耶に、夏音が笑う。

 校門前で、「お疲れさまでした!」と、夏音を励ますためか普段以上に元気な挨拶をする舞耶と別れ、夏音と二人で歩く。

「本当のこと、言わなくていいのかな?」

 やはりまだ吹っ切れてはいない様子の夏音が尋ねてくる。

「部長のあの様子だと、今更伝える方が酷かも知れない」

 冗談めかした俺の言葉に、夏音が「そうかもね」と笑う。

「亨にも伝えておくか」とメッセージを送る。

「お前の捏造記事のせいで、部長が実地調査の対象を決めた」

 亨からすぐに「何それ面白そう。いつから?」と返信された。

「準備が済み次第連絡される」

「明日の午後お前の家行くわ」

 亨に「了解」と返し、スマホを仕舞った俺を、夏音が見る。

「明日の午後、俺の家に来るらしい」

「そうなんだ。久しぶりに、私も行っていい?」と尋ねる夏音に頷く。

「舞耶ちゃんもいいよね?」と言いながら、返事を待つこともなくスマホを操作する夏音に苦笑する。断るつもりもないが。

 夏音はスマホを仕舞いながら「舞耶ちゃんも来るって」と笑い、俺は肩を竦めた。悪戯のことを気に病まないのであれば、まぁ良いか。

「それじゃ、また明日ね」と笑う夏音と別れ、家に帰る。


 翌朝、リビングに降りると、週末のため仕事が休みの母さんが映画を見ていた。

 母さんは映画に集中しているのか、何の反応も返さない。以前見たことのある映画だったが、時間軸がバラバラに構成されているために難解な内容だったのを覚えている。

 朝食を摂っていると、映画のスタッフロールが始まった。

「貴水はこの映画見たことある?」と尋ねてきた母さんに頷くと、「オープニングが時間的には最後ってことでいいんだよね?」と質問を重ねられ、再度頷く。

 食事を終え、片付けを済ませる。

「今日は部活ないの?」と尋ねてきた母さんに頷いて、「午後から亨たちが来る」と言うと、「亨ちゃんの他は? 私も知ってる子?」と、また質問を重ねられる。

「夏音と部活の後輩」と答えると、「亨ちゃんにも夏音ちゃんにも会うのは久しぶりね」と笑う。亨は母さんのいない時を見計らうようによく来ているが、確かに夏音が来るのは久しぶりのことだ。

 難解な映画に疲れたのか、シンプルなアクション映画を選んだ母さんに付き合って映画を観ているうちに、昼を迎えた。

 昼食を終えてしばらくすると、インターホンが鳴らされる。

 玄関に向かうと、母さんが付いてくる。

 ドアを開くと、俺が何か言うよりも早く、母さんが「いらっしゃい」と笑顔で声を上げる。

「暑かったでしょ? 早く上がってね」と迎え入れる母さんに、三人は家に入った。

「夏音ちゃんも亨ちゃんも、久しぶりね! 夏音ちゃんはますますキレイになって!」と笑い、亨を見てから若干の間をおいて「亨ちゃんは元気そうで!」と大きく頷いた。

 亨は「ども」と苦笑し、夏音は「琴美(ことみ)ちゃんも相変わらずキレイで羨ましいです」と笑う。人の母親をちゃん付けで呼ぶな。

「夏音ちゃんはいい子ねぇ」と笑った母さんは、「こちらのカワイイ子は?」と舞耶に笑顔を向ける。

「後輩の星野舞耶だ」と伝えると、舞耶はやや緊張した面持ちで「初めまして!」と頭を下げ、「お土産です!」と紙袋を手渡す。

「ご丁寧にありがとう」と笑う母さんに、夏音が「私からも」と同じく紙袋を手渡す。

 母さんは「舞耶ちゃんも夏音ちゃんも、そんなこと気にしなくていいのに」と笑いながら受け取ると、「ね、亨ちゃん」と亨を見る。亨は「すんません」と愛想笑いを浮かべた。

「この子ったら、学校のことは全然話してくれなくて。こんな美少女に囲まれて学校生活送ってたなんて知らなかったわぁ」

「しかも、オカ研の副部長は学校でもトップレベルの美人なんですよ」と笑う夏音に、母さんが「まぁ!」と驚いたように声を上げ、「凄いわねぇ」といやらしい笑顔で俺を見る。

 この二人と一緒にいたらどうなるか分かったものではない。

「亨、舞耶、俺の部屋に行こう」と促すと、亨は苦笑しつつ、舞耶は緊張の面持ちのまま頷いた。

 さっさと二階に向かった亨に俺が続き、舞耶は「失礼します」と母さんに会釈をして俺の後ろに付く。夏音が「私も行くって」と笑い、それに続いた。

 母さんは「お菓子持っていくからね」とリビングに戻っていった。

 部屋に着き、背の低いテーブルを囲んで座る。

「相変わらずだな」と亨が苦笑し、舞耶は「先輩のお母さまですよね? 若くてキレイな人ですね」と言いながらも、やや困惑したような表情を浮かべる。無理もない。

「ね。二十代って言っても、通じるんじゃないかな」と夏音が笑う。

「夏休みの調査の件だが」

 話題を変える俺に、亨が「俺の記事を調査対象にするんだって?」と尋ねてくる。

 頷いて、「次からは学校近くの森で実地調査をすることになりそうだ」と答える。

 亨は「まさか、そこまで反応してくれるとはな」と笑う。

「しかも、部長は夏休みで引退するらしい」

「最後の調査が俺の記事とは、光栄だな」

 声を上げて笑う亨に、夏音が「まさか最後になるとは思わなかったんだけどね」と呟く。

「竜宮なんか見つかるわけないんだから、気にすることもないだろ」

「それは、そうかもだけど」

 その時、ドアがノックされた。返事をする間もなくドアは開かれ、「お菓子持ってきたよ」と、トレーを持った母さんが笑顔で入ってくる。

「おもたせでごめんなさいね」と、微笑みを浮かべて、夏音と舞耶の前に紅茶とケーキを並べる。

 更には「お邪魔するわね」と腰を下ろしながら、自分の前に紅茶とケーキを置く。

「俺らの分は?」と尋ねる亨に、「亨ちゃんと貴水はリビングで映画でも見てなさい。私たちは女子会するから」と手で払う。

 抵抗する気もない俺は「行くか」と立ち上がって、苦笑する亨と共にリビングに向かった。

 言われた通り、映画など観て過ごしているうちに、日が暮れた。

 母さんが「夏音ちゃんたち帰るから送っていきなさい」とリビングに顔を出す。

 玄関には帰り支度を済ませた夏音と舞耶が立っていた。

「二人とも、また来てね」と笑う母さんに、二人が笑顔で頷く。俺の部屋でどのような会話がなされたのか分かったものではないが、舞耶も懐柔されたらしい。

 苦笑する亨とともに、全員で家を出る。

 母さんのおかげか、機嫌よく歩く夏音と舞耶を送って、家に戻った。

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