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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
23/40

23

 休憩を終え、閲覧室に戻ってそれぞれ読書を続ける。

 夏音は別の本を探しに行くと言って閲覧室を出て行ったが、それほど時間をかけずに戻ってくる。まだ七不思議の作成を続けるつもりなのか、オカルト全般の本の他に、物語作成の入門書らしい本が机の上に重ねられた。

 俺は郷土資料の一冊を読み終えて机に置く。いつの間にかオカルトの本を読んでいた舞耶が顔を上げた。

「貴水先輩は、世界が五分前に創造されたばかりだって証拠が見つかったらどう思いますか?」

 周囲を気にしてか、声を抑えた舞耶の質問に、何を言っているのかと困惑する。

 亨は手にした雑誌を眺めながら「証拠が見つかるわけないだろ」と苦笑した。顔を上げて「有名な思考実験だろ?」と確認するように言うが、俺は首を振る。妙なことを知っている奴だ。

「世界が五分前に創造されたとして、それより前の痕跡とか記憶とかは?」

「それも存在する状態で、五分前に創造されたってことだな」と亨が頷き、「創造されたってのは別に一分前でも一秒前でもいいけど」と続けた。

 なるほど、と頷く。それであれば確かに、その話を肯定する証拠も、否定する証拠も存在できないだろう。

「どういうことですか?」といまいち納得できない様子の舞耶が尋ねてきた。

「世界が連続して存在するものだという証明は出来ないと言えばいいのか?」

 亨は「そういうことだな」と頷くが、舞耶はむしろ混乱したように「夏音先輩、助けてください」と、物語作成の入門書を開いたまま俺たちを眺めていたらしい夏音に尋ねる。

 夏音は「貴水も亨も、優しさが足りないんだから」と笑い、「規模を小さくしたら分かりやすいかな?」と続けて、考えごとをするように視線を動かす。

「私たち四人が、今の状態のまま、今生まれたものとしても、矛盾はないよね?」

 夏音の言葉に、舞耶はしばらく黙って考えるそぶりを見せる。

「本当は、私も夏音先輩も貴水先輩も会ったこともないのに、それぞれに、仲が良い記憶を持った状態で生まれるっていうことですか?」

 夏音が「そういうこと」と微笑み、舞耶は「何となくわかりました」と頷く。

「そうだったら、結果としては何も違わないとしても、何となく寂しいですね」

 舞耶の呟くような言葉に、夏音は「そうだね」と微笑して頷いた。

「何も違わないんだから、寂しいも何もないだろ?」と笑う亨に、舞耶は「どちら様ですか? 私の記憶にはないみたいなんですけど」と笑顔を見せる。

 亨は短く笑うと、「ただの思考実験だからな。普通に世界は連続してるだろうよ」と肩を竦める。

 確率的な話にしかならないだろうが、急に世界ができるよりは、連続した変化の上に現在があると考えた方が幾らかマシなのだろうか。

「それにしても」と亨は訝しむような表情を浮かべ、「オカルトの本から、なんでそんな話が出てきたんだ?」と舞耶に尋ねた。

 舞耶は「この本によるとですね」と手にした本を軽く持ち上げる。

「昔の写真にスマホを持っている人がいるっていうのが、証拠かもしれないってことらしいです」

 亨は鼻を鳴らし、「タイムトラベラーって解釈だと面白みがないから、別の角度のネタを引っ張ってきたんだろうな」と肩を竦めた。

「世界が今の状態で作られたとしても、それを分かることなんて出来ませんもんね?」

 舞耶の質問に頷く。

「分かるとしたら、世界を作った神様的な存在だけだな」と亨が笑う。やや声量が大きかったため周囲の顰蹙を買ってしまい、全員で頭を下げる。

 その後は日が沈むまで黙々と読書を続けた。既に念頭にもなかったが、竜宮に関する新たな情報を得ることはなかった。

 持って来た本を返し、夏音と舞耶はそれぞれ数冊の本を借りて、俺たちは図書館を後にした。

 日が沈んだばかりの外はまだ明るく、暑い。

「七不思議は何か思いついたのか?」

 歩きながら夏音に尋ねると、「考えるのは楽しいんだけど、私には向いてないのかも」と笑いながら首を振る。

「人体模型の話と夏音先輩の話で四つですよね」

 舞耶の言葉に「あと三つかぁ」と夏音が呟く。

「六つあれば、七つ目は存在そのものが知られていない的な設定で逃げられるんじゃないか?」と亨が笑い、夏音が「それいいね!」と頷いた。

「七不思議の裏には共通する何かがある、みたいな方が面白いですよね」

「私もその方が面白いと思って考えてるんだけど」と夏音は頷き、「まずはその共通する何かから作った方がいいかな?」と尋ねてくる。

「俺に聞くな」と苦笑を返すと、「貴水ももうちょっと協力してくれてもいいんじゃない?」と夏音が笑う。

「副部長に聞いてみるのが早いんじゃないか?」

 夏音は俺の答えに呆れたように肩を竦める。

「分かってないなぁ。光紗先輩に聞いたらインチキになっちゃうじゃない」

 何を言っているの俺には分かりかねるが、何かしらこだわりがあるのだろう。舞耶と亨も同意するように頷いている。副部長に対する謎の共通認識に思わず苦笑する。

「ま、いっか。夏休みはまだまだあるんだし、課題の一つだと思って、ゆっくり考えるよ」と夏音は笑った。

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