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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
22/40

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 亨や夏音と別れ、舞耶と共に再び郷土資料のコーナーを探す。

「何か発見がありそうな本、ありますかね?」

 書架に並んだ背表紙を眺める舞耶が尋ねてくるが、「正直、見つからないだろうな」と苦笑する。

「ですよね」と同じく苦笑する舞耶が「こういうのは部長も見てないかもですね」と伝承とは関連の薄そうな、この辺りの成り立ちについての本を抜き取った。

 俺も適当な本を何冊か見繕うと、揃って閲覧室に向かう。

 閲覧室には既に夏音と亨が戻っており、それぞれが読書に耽っていた。

 夏音の前には学校の怪談や七不思議についての本が積み重ねられている。題材が題材なだけに、ほとんどが児童書のようだ。亨は昼までと同じく雑誌を持って来たようだが、今は夏音の前に積まれていたであろう一冊を読んでいる。

 俺と舞耶が席に着くと、二人は顔を上げた。

「気になることって、それか?」と尋ねる俺に、夏音が頷いて「七不思議がないなら、作ればいいんだよね」と笑う。

 七不思議を作るための資料として読んでいるということか。思わず苦笑する。

「作ったところで、どうやって広めるんだ?」

「そこはほら、オカ研なんだから、活動の一環として、ね?」

 作る方に集中し過ぎて、広める方には考えが及ばなかったのだろうか。いくら何でも無理があるだろうと肩を竦める。

「部長はその手の話には興味ないし、協力もしてくれないだろうな」

「でも、光紗先輩なら興味持ってくれるんじゃない?」

「黒魔女先輩なら、上手いことやってくれそうな気もするな」と亨が笑う。確かに、副部長なら何とかしてくれそうだとも思うが。

「まぁ、好きにしてくれ」と苦笑する。

 舞耶が「止めなくていいんですか?」と囁いてきたが、いずれにしても遊びのような活動なので、止めることもないだろうと頷きを返す。

 俺は持って来た本を開き、読み進めることにした。

 二時間以上は経っただろうか、読み終えた本を置くと、夏音も顔を上げた。持って来た本のほとんどを読み終えたらしい。

「ちょっと休憩しない?」と夏音が声をかけ、舞耶と亨は頷いた。

 飲み物を用意して、何脚かのソファが置かれたロビーに集まり、腰を下ろす。

「竜宮の方は、何か見つかった?」と尋ねてきた夏音に、「結局普通に読書しただけだ」と首を振ると、舞耶が「私もです。途中からは竜宮は気にしないで読書してました」と笑う。

「そっちは?」と尋ねる俺に、夏音が「いくつかは思い付いたよ」と頷き、スマホを取り出した。メモでも取っていたのだろう。

「まずは、美術室の肖像画が少しずつ描きかわっていくっていう話」

「地味だな」と亨が笑うと、夏音は「こういうのはストーリー性が重要なんだから」と首を振る。

「で、どんなストーリーがあるんだ?」とさして興味を持ったようにも見えない亨が尋ねる。

「非業の死を遂げた美術部員が、実は誰かに殺されていて、その肖像画は徐々に犯人の顔に変わっていくの」

 雰囲気を出すためか、低い声で語る夏音に、亨は「ありがちだな」と肩を竦めた。同感だ。

 反応が悪いことを予想していなかったのか、夏音はやや驚いたように「舞耶ちゃんもそう思う?」と尋ねる。

 舞耶は困ったように笑いながら、小さく頷いた。夏音は「そっかぁ」と呟く。

 夏音は気を取り直すように「これは保留として、次ね」と声を上げた。

「音楽室のピアノが、夜になると音楽を奏でるっていう話」

 むしろ先ほどよりもありがちな話に、俺と舞耶は苦笑し、亨は「さっきのよりひどいな」と笑うが、夏音は俺たちを見回すと、自信ありげな笑みを浮かべた。

「またストーリーがあるのか?」と亨が肩を竦めて尋ねる。

「実はピアノは別の世界に繋がってて、音が聞こえた人はそっちに連れていかれちゃうの」

 やはり皆揃って苦笑する。

「聞いた奴が連れていかれるんなら、どこからその話が出てくるんだよ」と亨が溜息を吐く。

「これもイマイチ? 難しいなぁ」と夏音が笑う。

「それで全部か?」と尋ねると、夏音は「じゃあ、最後ね」と首を振り、「一番自信ないんだけど」と呟く。

「屋上に、笑う女子生徒の霊が現れるっていう話」

 またストーリーでも話し出すかと、皆何も言わず数秒も待ったが、夏音は何も言わない。

「終わりか?」と亨が尋ねると、夏音が「これ以上思い浮かばなくて」と笑う。

「まぁ、変な設定がない分、今までの中では一番マシだな」と亨が笑い、俺と舞耶も頷く。

「屋上で笑うっていうのが、意味深な感じですよね」

 舞耶の言葉に、「そういうものかな? やっぱり難しいなぁ」と夏音が笑った。

 夏音はスマホをしばらく操作し、「宗吾先輩から返信来てたよ。家庭の事情だって」と言いながら仕舞う。

「へぇ」と頷いた亨は「結構な家だからなぁ」と続けた。

 部長の家のことを知らなかったらしい舞耶が「そうなんですか?」と驚いたように声を上げ、俺たちは頷く。本人は触れたがらない話ではある。

「言われてみれば、なんとなくそんな気もしますね」と舞耶は頷いた。

「舞耶ちゃんは、この辺りで行方不明になった小学生の話って覚えてない? 一週間後に見つかったんだけど」

 夏音の質問に、舞耶が「なんとなく覚えているような」と呟く。

「その小学生が、宗吾先輩ってわけだな」と亨が含み笑いをし、舞耶が訝しむように亨を見る。

「行方不明になったのは竜宮に行ったせいだと、部長は考えているらしい」と苦笑する。

 困惑したような表情の舞耶に、「部長がそう考えているってこと以上の事実も情報もないぞ」と亨が笑い、俺と夏音は苦笑して頷く。

「だから部長は竜宮を信じてるんですか」

 舞耶は納得してはいないような表情で呟いた。

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