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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
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 ようやく亨が戻ってきた。先ほど持って行った本の他に、一枚の紙を手にしている。

「何をしていたんだ?」と八つ当たりに睨むと、亨は「何かあったのか?」と笑いつつ、机に紙を置いた。

 見ると、竜宮で薬を教わる話を改変し、古い新聞の取材記事らしい体裁にしたものが印刷されていた。

「亨が作ったの?」と尋ねる夏音に、亨は「そんなコーナーがあったからな」と頷く。

「学校の近くをモデルにしたから肝心の海が出てこないけど、元ネタでもそんな話もあったし、大丈夫だろ」

 そう言って笑う亨に苦笑し、改めて文章を読む。確かに、この辺りを連想させる要素が幾つか見られる。

「無駄に凝ってますね」と舞耶が呟く。舞耶の言葉通り、記事の文体や、使用されている漢字もそれらしくなっている。暇な奴だ。

「それっぽい文章作るのは苦労したわ」と亨は首を回す。

「もっと有意義なことで苦労してください」と呟いた舞耶に、「俺もそうしたいとは思うんだけどね」と亨が笑う。

 紙を見ながら「これをどうするつもりだ?」と尋ねると、亨は笑いながら「宗吾先輩に見せたら信じるかなって」と答える。

 なんとなく予想はついていたが、その通りだった。

「部長も似た話は知っているだろうし、さすがに信じないだろう」

 俺が苦笑すると、亨は「だよな」と呟き、やや考えるそぶりを見せる。

「あの鞄にでも入れとけば、直接渡すよりは信憑性あるんじゃないか?」

 代々のオカ研部長に受け継がれる鞄を思い出したのだろう。いかにも曰くありげなので、亨の言うことも分からないではない。

「誰が入れるんだ?」と尋ねると、亨は笑いながら俺に紙を差し出す。

「俺は加担しないぞ」と首を振ると、「じゃあ私が」と夏音が紙を受け取った。亨と夏音は邪悪な笑みを浮かべて頷きあう。

 昔からこの手のことでは共鳴する二人なので、止めるだけ無駄だなと溜息を吐く。

 舞耶が「ホントに無害なんですか? 部長には害がありそうなんですけど」と苦笑して俺を見る。俺も苦笑を返した。

 亨が伸びをしながら「頭使ったら腹が減ったな。昼はどうするんだ?」と声を上げる。

「ここの食堂でいいんじゃないですか?」

 尋ねる舞耶にそれぞれが頷く。

 持って来た本を元の場所に戻し、館内にある食堂に向かった。

 食堂も混雑していたが、辛うじて四人分の席を確保し、券売機に並ぶ。

「ここで食べるの初めてなんですけど、食べたことありますか?」

 舞耶の質問に全員が首を振る。

「何が美味しいですかね?」と周囲を見回す舞耶に、亨が「舞耶ちゃんは食い意地張ってるね」と笑う。

「食事の機会は限られてるんですから、美味しい物を食べるべきなんです」と胸を張る舞耶の乱暴な論理に苦笑する。

「夏音を見てみろよ。その機会の三分の一はきつねうどんで消費してるぞ」と亨が声を上げて笑い、夏音は「美味しいんだからいいよね?」と舞耶に笑顔を向けた。

「健康にも気を使ってくださいね」と舞耶はやや引きつった笑みを返す。

 夏音は「またその話? 健康なんだから大丈夫」と笑い、「ホントですか?」と舞耶が俺を見る。

「まぁ、今のところは」と苦笑して頷く。実際、夏音が体調を崩したところは記憶にない。見た目は華奢な割に、俺や亨よりも健康なくらいだ。

「それならいいですけど」と納得しきれない様子の舞耶が呟く。

 ようやく券売機の順番が回ってきた。俺と亨はラーメンを、夏音はいつものに追加で野菜サラダを選んだ。

「舞耶ちゃんに心配かけさせたくないからね」と夏音が笑い、舞耶は満足気に微笑む。

 舞耶はラーメンに加え、「本日のランチ」とあったコロッケ定食を選んだ。

「舞耶ちゃんは舞耶ちゃんで、健康に気を使った方がいいんじゃないか?」と亨が笑うが、舞耶は黙殺した。

 出来上がった料理を受け取り、食事を始める。

「予想より美味しいです」

 ラーメンを一口食べた舞耶が笑う。確かに値段を考えれば充分すぎる味といえる。

「舞耶ちゃんと付き合えば安上がりでいいね」と笑う亨に、「セクハラですよ。最低ですね」と笑顔の舞耶が冷たく言葉を発した。

「亨がごめんね。舞耶ちゃんがカワイイから意地悪したくなっちゃうの」と夏音が笑う。

「夏音先輩に免じて、今回は大目に見てあげます」と舞耶が頷き、亨は「ありがとうございまーす」と感情のこもらない感謝を告げた。

 いち早く食事を終えた亨が「午後からはどうするんだ?」と尋ねてきた。

「午前と同じだな。郷土史の確認だ」

「真面目だねぇ」と亨は笑い、「ま、久しぶりに図書館来たせいか結構楽しいし、ここで過ごす分には文句ないな」と続けた。

「私はちょっと気になること思い出したから、別の本探すね」

 夏音の言葉に頷く。実際のところ、それほど真面目に取り組む活動でもないし、特に咎めることもない。「不真面目だねぇ」と亨が笑った。

「私は貴水先輩に付いていきます!」

 舞耶が力強く頷いて俺を見る。「健気だねぇ」と笑う亨を舞耶が睨んだ。

 程なくして全員が食事を終え、食器の片付けを済ませると、食堂を後にした。

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