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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
20/40

20

 数日が過ぎ、夏休みを迎えた。

 図書館の開館に合わせた活動となるため、普段より時間には余裕ができる。

 支度を済ませて図書館に向かう。外は相変わらず暑くて嫌になるが、去年の不毛な活動を思えば、冷房の効いた図書館での活動などそれだけで有意義なものだろうと足取りも軽くなる。

 開館から数分も経っていない図書館に入る。夏休み初日ということもあってか様々な世代が集まり、それなりに混雑しているようだ。

 エントランスには、夏音と舞耶が揃っているのが見えた。俺に気付いた二人と挨拶を交わす。

「部長は?」と聞くと、二人は、見ていない、と揃って首を振った。

 その時、三人のスマホからメッセージの通知音が鳴った。それぞれがスマホを取り出して確認する。

「すまない。急用が入った。今日は参加できない」という部長のメッセージだった。

 俺たちは顔を見合わせる。

「部長が部活に参加しないほどの用って何でしょうね?」

「いくら部長でもそれくらいあるだろう」と笑うが、部長の熱意を考えると、気にならないではない。

「聞いてみるね」と、夏音がスマホを操作する。「何かあったんですか?」と夏音からのメッセージが表示されたが、しばらく待っても部長に読まれることはなかった。

「部長の用事はともかくとして、予定通り郷土史でも見るか」

 部長が居なくとも、やることは変わらないだろう。二人は頷いた。

 図書館を歩きながら、舞耶が周囲を見回す。

「ここに来るのも久しぶりです」

「だよね。私も来るのは久しぶり」

 確かに、学校近くにあるというのに、俺も図書館に来るのは数年ぶりかもしれない。

「最近は電子書籍もあるしな」

 いつの間に来たのか、背後から会話に加わりながら、亨が並んだ。「来たのか」と苦笑する俺に、笑顔で軽く片手を上げる。

 夏休みの予定を伝えた時には「暇な時には行くかもな」と煮え切らない答えを返していたが、暇なのだろう。

「宗吾先輩は?」と尋ねる亨に、「今日は急用で不参加だ」と答えると、「珍しいこともあるもんだ」とやや驚いた様子を見せる。

「亨先輩は暇なんですか? 部員じゃないんだから来なくていいんですよ?」

 目の笑わない笑顔の舞耶に、「住民として、たまには図書館使ってやろうと思ってな」と亨が笑う。

「ま、俺は適当な本でも見繕って、席取っとくわ」と亨は片手を挙げて離れていった。

「せっかく、三人になると思ったのに」と呟く舞耶に、夏音が「夏休みなんだから、そんな機会沢山あるよ」と笑う。

「ホントですね? なかったら作ってくださいね!」と夏音を見る舞耶に、「もちろん」と夏音が頷く。俺の意思は無視されるらしい。

 郷土の資料が集められたコーナーに着いた。結構な量があるため、ある程度は的を絞ったほうがよいだろう。

「どういうのから見ていくのがいいですか?」

「まずは、伝承とか民話の類が集められたのからでいいだろう」

 舞耶の質問に、書架に並ぶ背表紙を眺めながら答える。それでもかなりの数がありそうだ。

 それぞれ目についた本を何冊か持って閲覧室に向かう。広い机が幾つか並んでおり、座席はある程度使用されている。

 亨は既に席に着いて雑誌を広げていた。俺たちに気付くと、軽く手を挙げる。

 四人で集まるように座り、それぞれ読書を始める。

 竜宮に関連しそうな文章はそれほどあるわけではないが、読み始めてしまうと、関係ないであろう部分まで何となく読んでしまう。

 持って来た本の一冊を読み終え、机の上に置く。

「何か参考になりそうなのありましたか?」

「竜宮に関する典型的な話は幾つかあったが、それだけだな」

 声をやや抑えた舞耶の質問に答えると、舞耶が「私もそうです」と頷く。

「細かいところが違うだけの、薬を教わる話が幾つもあって、ちょっと面白かったですけど」

「私のもそうだった」と夏音が控えめに笑う。

 俺の読んだものも同様だった。同じ話を基礎にしているのだろう。

「そんなに似たような話ばっかりあるのか?」と尋ねる亨に、先ほど読んだ本を開いて目次を示す。

「俺が読んだのだけでも、その辺のは大体同じだったな」

 亨は「へぇ」とページを捲ると「ちょっと借りてくわ」と本を手に、何かを企むような笑みを浮かべて閲覧室を出ていった。

「何しに行ったんでしょうね? すごくいやらしい顔でしたけど」

 俺は苦笑して肩を竦める。

「どうせ、またどうしようもないことするんでしょ」と夏音が笑う。

「止めないんですか?」と舞耶が苦笑するが、「害があるようなことはしない奴だから」と笑って頷く。

「そうですか。なんか羨ましいですね。理解し合ってるって感じで」と呟く舞耶に、「長い付き合いだからな」と苦笑する。

「私も亨も、貴水とはほとんど生まれた時から一緒にいるもんね」と夏音が笑う。

「私も一緒が良かったです」と舞耶は夏音を見る。

「これからがあるんだから」

 夏音は微笑みながら舞耶の頭を撫でる。異様なほど仲の良い二人に、こちらが気恥ずかしさを覚えて、持ってきた本の一冊を開いて目を落とす。

「貴水先輩もお願いします」

 舞耶と夏音が俺を見るが、さすがに衆人環視の中、頭を撫でるのは無理だ。苦笑して首を振る。

「貴水」と夏音が俺を睨むが、無理なものは無理だ。亨を留めるべきだったと後悔を覚える。

「照れ屋だから。ごめんね」

「いいんです。いつかしてもらいますから」

 仲睦まじくも勝手なやり取りを繰り広げる二人を気にしないように努めて、その後も資料を読み続けたが、やはりこれといって新しい発見はないまま、昼になった。

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