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回生の果て  作者: 壊れた靴
日常
19/40

19

 食事を終えても、昼休みが終わるまでは幾らかの時間があった。

 ピークは過ぎたとはいえ、未だ食堂は多くの生徒で混雑している。

「教室に戻るか」と席を立ち、揃って食堂を後にする。いつも通り舞耶も付いてくるらしい。

 教室に向かって歩きながら、舞耶が「そういえば」と声を上げた。

「オカ研は夏休みって何するんですか?」

「今のところ何も聞いていないが、普段と変わらないと思う」

 俺の答えに、舞耶は「部長次第ってことですね」と笑い、「去年はどうだったんですか?」と続けた。

 苦笑した俺に、「去年のあれって結局何を目的に歩いてたんだっけ?」と亨が笑う。

「郷土史で竜宮に向かうことになる場面に似た風景がないか探したんだよね」

 夏音の答えに頷く。いくら何でも無理があるだろう、と当時も何度も思ったものだ。

「それで、それらしい場所があったらその周辺も探索するの」と続けた夏音に、「そうだった」と亨が笑う。

「結局何かあったんですか?」と尋ねる舞耶に、「全く」と首を振る。「ですよね」と舞耶が苦笑した。

「健康的だったよね」と夏音が笑い、「いわゆるオカ研らしくはないけどな」と亨が続いた。

「オカ研らしいと言えば、黒魔女先輩は何してたんだ? 去年の夏休みは見た覚えないぞ」

 俺と夏音は顔を見合わせ、さぁ、と首を傾げた。亨は「おいおい」と苦笑し、「七不思議でも探してんのかね」と呟いた。

 その時、背後から「七不思議に興味あるのぉ?」と、ゆっくりと間延びした声が響いた。

 一斉に振り返る。いつもの改造制服を身に纏った副部長が立っていた。

「光紗先輩、驚かせないでください!」と夏音が笑う。副部長は「ごめんねぇ」と感情のこもらない声を返した。

 亨は苦笑しながらも、「この学校って七不思議あるんすか?」と尋ねると、副部長はゆっくりと頷いた。

「『動く人体模型』っていうんだけどぉ」

 あまりにもありがちで、内容を聞くまでもないように思う。

「そうねぇ。せめて実際に起こってくれればいいんだけどぉ」

 心を読んだかのような副部長の言葉にやや恐怖を覚える。

「他にはどんなのがあるんですか?」と尋ねる夏音に、副部長は「これ以外にはなさそうなのよねぇ」と呟いた。副部長が言うのなら、実際にないのだろうとも思える。

「これだけ科学の発展した時代じゃ、七不思議にも居場所はないってことかね」と亨は肩を竦めた。

「そうかもねぇ」と頷いた副部長は、「それじゃぁねぇ」と振り返るとその場を後にした。

「この学校の一番の不思議は黒魔女先輩だな」

 亨の言葉に、それぞれが笑って頷いた。


 午後の授業を終えた。

 亨は「俺は遊んでから帰るわ。またな」と教室を出て行った。

 夏音と共に教室を出て、部室に向かう。

 隣に並んだ夏音が笑顔を向ける。

「貴水も口では色々言うけど、オカ研気に入ってるよね?」

「まぁ、あれで居心地は悪くないからな」

 苦笑しつつ答えた俺に、「それだけじゃないでしょ? 素直じゃないよね」と夏音が笑う。

「どういう意味だ?」

 俺がオカ研に居続ける理由に気付いているのかと動揺したが、「竜宮があると思ってるんでしょ?」と笑う夏音に、安堵の溜息を漏らす。

「本当にあると思っているのは部長だけだろう」

 俺の答えに夏音は声を上げて笑った。

「でも、あったらいいなとは思うよね」

 苦笑して頷く。

 夏音は満足気に微笑み、前を向いた。

 その横顔に、出会った時から漠然と抱いている、いつか彼女が消えてしまうような不安が強まっていく。

「どうかした?」と尋ねる夏音に「なんでもない」と首を振る。こんなことを夏音や亨に言ったが最後、年単位でからかわれることになるだろう。夏音はそれ以上気にする様子もなく、再び前を向いた。

 部室の前に着いた。夏音は部室の扉を開けながら「お疲れ様です!」と中に入っていき、俺も続く。

 部室には既に全員が揃っていた。顧問の姿はないが、いつも通りである。

 いつものように、舞耶と夏音に挟まれて座る。対面では副部長が読書を続けている。

 部長は立ち上がると、皆を見回して声を上げる。

「皆、揃ったようだな。では、今日は夏休みの活動について決めていこう」

「竜宮を探すのは決まってるんですよね?」

 舞耶の言葉に部長は「それは勿論」と頷くが、苦々しい表情を見せる。

「だが、今は手掛かりとなる情報がないのだ」

 正直なところ、俺が入部した時から、傍から見て手掛かりと呼べるようなものはなかったが。

「そこで、今年は初心に返り、資料を当たろうと思う」

「資料っていうと、郷土史とかですか?」と舞耶が尋ねると、部長は「うむ」と大きく頷く。

「思い返せば、貴水君や夏音君が入部してからは、そのような作業は少なかったからな。今まで見えなかった何かが見えることもあるかもしれん」

 もっともらしいことを言ってはいるが、あまり期待できるようには思えない。

「そういうわけだ。夏休みの、少なくとも序盤は、学校近くの図書館での作業が中心になるだろう」

 部長の言葉にそれぞれが頷く。部長の言う図書館はかなり大きく、蔵書も充実している。

「異論はないようだな。では夏休みの方針は以上だ」

 そう言うと部長は腰を下ろした。

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