18
いつも通りの夏の朝を迎えた。
母さんは既に仕事に向かった後だったらしく、その姿はなかった。
朝の支度を終えて、家を出る。
外の暑さには嫌気が差すが、もう少しで夏休みに入ることもあり、多少は前向きな気持ちで学校に向かうことができる。
途中、いつものように亨と合流した。
「おはよーさん!」
いつも通り、朝から快活な亨の声に軽く苦笑しつつ「おはよう」と返す。
ほぼ同時に、背後から亨に劣らないほどの元気な声が響く。
「おはよー!」
もう一人の幼馴染である、結夏音が駆けるように俺たちに追いつくと、俺を中央に並んで歩く。
それぞれ挨拶を返すと、「もう少しで夏休みだね!」と夏音は笑顔を見せた。
「今年の夏休みもオカ研は何かするのか?」
亨の質問に、「貴水も、今のところ何も聞いてないよね?」と尋ねる夏音に頷く。
「去年みたいなことはないといいんだが」と、高校一年の悲惨な夏休みを思い出す。
夏音は「そう? 結構楽しかったよね?」と笑い、亨も頷く。俺からすると信じられない。
「なんかするんだったら連絡くれよ」と笑う亨に、苦笑して頷く。
学校に着き、昇降口から教室に向かおうとしたところで、「貴水先輩! 夏音先輩!」と声をかけられた。見ると、笑顔の舞耶が立っている。
「おはようございます!」
「おはよう。舞耶ちゃん」
夏音が笑顔で挨拶を返し、俺たちも夏音に続く。
舞耶は亨を押しのけるように駆け寄り、俺と夏音に並ぶ。
亨は大人しく場所を譲りながら、「相変わらず二人に付きまとってるね!」と笑う。
「オカ研の後輩なんだから、当たり前ですよね」と笑顔のままの舞耶が冷たい声で返す。
笑ったままの亨が「三年の先輩方には行かないのか?」と尋ねるが、舞耶は黙殺した。
「先輩方は今日も食堂ですよね?」
夏音は笑って頷く。俺も亨も大抵は弁当だが、夏音に付き合って食堂で食べることが多い。
「舞耶ちゃんも一緒に食べるよね?」と夏音が質問を返すと、舞耶が「もちろんです!」と頷く。
「いつも言ってるけど、友達は大切にしろよ?」と笑う亨に、舞耶は「お気遣いありがとうございます」と会釈し、「亨先輩こそ、お二人以外ともっと仲良くした方が良いですよ?」と笑顔で続けた。
笑顔で睨み合う二人を見て夏音が「相変わらず、仲がいいね」と笑う。
「亨先輩がお二人から離れてくれると、もっと良くなると思います」と舞耶が笑うと、「俺も、舞耶ちゃんが後輩らしくしてくれたら、もっと仲良くやれるんだけど」と亨が笑う。
夏音が声を上げて笑い、俺は苦笑する。どうして俺の周りにはこう元気な奴ばかりなんだ。
俺たちの教室の前に着いたところで「それじゃ、お昼休みに食堂で会いましょう」と離れていった舞耶を見送り、教室に入る。
いつも通りの教室で、何人かと挨拶を交わしながら席に向かう。
程なくして、教室に志津田が入ってくると、生徒たちは自席に着く。
志津田は教壇に立って生徒たちを見回して頷いた。
「おはようございます!」
いつも通り暑苦しい程に健康的な志津田の挨拶に、教室の生徒が挨拶を返す。
「今日の連絡事項は特になし! 皆、夏休み前だからと浮かれすぎないように!」
再び、志津田は生徒一人一人を見るように見回し、日直を促して立礼をさせると、教室を後にした。
午前の授業を終え、亨や夏音と共に食堂に向かう。食堂の入り口では舞耶が待っており、俺たちを見つけると「お疲れ様です!」と笑顔で駆け寄ってきた。
食堂に入る。いつも通り混雑はしているが、幾つかの空席は見つかる。
「それじゃ、俺は席取っておくから。貴水は俺の分の水だけよろしく」と、亨は返事も待たずに四人分の空席を確保して腰を下ろした。
苦笑しつつ「水だけ持っていくから」と二人を券売機に向かわせ、四人分の水を持って亨の元に戻る。
席に着くと、亨が水を受け取りながら「今日の二人は何を選ぶと思う?」と尋ねてくる。
「夏音は確定だろう」と笑うと、亨も「だよな」と笑う。
「じゃあ舞耶ちゃんは? 俺はカツカレー大盛りだと思う」と笑う亨に、「カツ丼大盛り」と返す。
それほど待つこともなく、二人がトレーを手に戻ってきた。夏音はいつも通りきつねうどんを、舞耶は大盛りであろうカツ丼を乗せている。
舞耶は「外れたかぁ」と大げさに悔しがる亨を一瞥し、「貴水先輩は当たりですか?」と尋ねてきた。苦笑して頷くと、何故か舞耶が誇らしげな顔をした。
二人も席に着き、揃って「いただきます」と食事を始める。
「いつものことだけど、夏音はどれだけきつねうどん好きなんだよ? それ以外食べたことないんじゃないか?」
亨の言葉に夏音は「そうかも」と笑う。俺もこの食堂でそれ以外を食べる夏音は思い当たらない。
「栄養バランスには気をつけろよ?」と笑う亨に、夏音は「亨こそ、バランス悪いんじゃない?」と亨の茶色い弁当を見て笑う。
「この中なら貴水先輩のが一番バランス良さそうですよね」と舞耶が俺の弁当を見ながら言う。
「遊び心が足りないんだよな」と笑う亨に、夏音が「そうそう」と頷く。普段の食事に遊び心も何もないだろう、とは思うが、二人を相手にするのも面倒なので、苦笑するに留める。
その後も何かと騒々しい三人と、食事を続けた。




