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回生の果て  作者: 壊れた靴
七不思議
15/40

15

 それから数日もしないうちに、『夜に鳴るピアノ』の調査日時の連絡がされた。午前0時に集合という、部活動というには非常識な時間である。

 舞耶の参加には全員が反対したため、本人は乗り気だったが諦めてもらうこととなり、亨にも調査日時を知らせると、即座に参加の連絡が返ってきた。

 集合場所である、学校近くの路上に亨と共に着いた時には既に全員が揃っていた。それぞれ挨拶を交わすと、副部長と部長が先頭に立ち、その後ろに三人が並ぶ形で学校に向かって歩き出す。

「こんな時間にこの人数で集まるってのも、相当怪しいな」と笑う亨に、苦笑して頷く。

「俺も亨も、そういうことにはうるさくない親だが、由人はこんな時間に出歩いて大丈夫なのか?」

「一人暮らしなので大丈夫です」と微笑する由人に、由人一人が転校してきた理由が気にならないではなかったが、聞くようなことでもないか、と頷きを返す。

「そりゃ羨ましいな」と亨は笑い、俺も「確かにな」と笑う。

 普段の通学路を大きく迂回して学校の正門を避け、部室棟に近い場所から学校の敷地内に入る。

「セキュリティとか大丈夫なんすか?」と尋ねる亨に、副部長は「心配しないで大丈夫よぉ」と返した。こういう時には非常に頼もしく思える。

 副部長はそのままオカ研の部室に近付き、窓を開くと、靴だけを室内に放り込み、続いて自身も音を立てずに進入した。残された俺たちもそれに倣って部室に入る。

 室内は暗く、ほとんど何も見えない。副部長を除いたそれぞれが懐中電灯を取り出してライトを点ける。普段見慣れた部室も、特に室内に転がるいかがわしい品々のために、異様な雰囲気に思えるが、それでも無事に校内に入れたことの安堵が大きい。

 いつの間にか室内履きを履いた副部長は、「それじゃぁ、音楽室に向かうわねぇ」と部室を後にし、俺たちは靴を履くこともなく後を追う。

 誘導灯の緑色の光のみが見える廊下は、普段とは全く違う印象ではある。

「夜の学校はやっぱ雰囲気あるよな」と楽しそうな亨に「そうだな」と苦笑する。

 音楽室の前に着いても、何の音も聴こえてこない。亨は「ピアノは鳴ってなさそうすね」と呟くが、副部長は何の反応も返さず、音楽室の扉を開くと中に入っていき、俺たちも続く。

 室内は静まり返っており、部屋の中ほどに進み、奥に見えるグランドピアノを照らしてみても何の変哲もない。

「条件とか儀式とかあるんすか?」と、亨は壁に掛けられた音楽家の肖像画を照らして眺めながら言う。

 不意にピアノの音が聴こえてきた。七不思議のイメージには程遠い、明るくアップテンポな曲だった。

 誰の曲かも分からないが、聴き覚えがあった。曲調のためもあるだろうが、恐怖はなく、懐かしさに似た感情を覚える。

「何処から鳴っている?」

 部長は囁くように言ってピアノを照らすが、変わった様子もない。

 亨は訝しむように「なんか聴こえてるんすか?」と尋ねるが、部長は「聴こえないのか?」と質問を返す。亨が頷くと、部長は待てをするように亨に手の平を向けた。

 十数秒もした頃、聴こえてきた時と同じように、不意に鳴りやんだ。

 部長は手を下ろし、「ピアノの音が聴こえた者はいるか?」と俺たちを見回す。俺と由人が頷き、亨と副部長は首を振った。

「幻聴か? それにしては鮮明だったが」

 部長は呟きながらピアノの前に立つと、音量を抑えながらも、先程聴いた曲の主旋律のみを奏でた。そんな技能も持ち合わせているらしい。

「この曲か?」と尋ねる部長に、俺と由人は再度頷く。

 亨が驚いたように「ホントにその曲すか?」と声を上げる。

「夏休みに入ってから発表された、例のアイドルの新曲すよ?」とスマホを操作し、音楽を再生した。確かに主旋律は一致する。

 亨は「流行に敏感な七不思議っすね」と笑う。

 部長は「であれば、この件も何者かによる悪戯だろう」と、納得したように頷いている。

「なんで三人だけに聴こえたんすか?」

 部長は鼻を鳴らした。

「指向性スピーカーでも使っているのだろう」

 言いながら天井や壁を照らすが、当然、そのような物は見当たらない。三人の立ち位置はバラバラだったので、部長の考えにはかなり無理がある気がする。亨も俺と同様の感想を抱いたらしく、肩を竦めた。

「霊感ってやつじゃないすか?」と亨が笑い、部長は「下らん」と一蹴した。確かに、霊の仕業とするには違和感がありすぎる現象ではあったが、部長の心霊否定も筋金入りと言える。

「その曲に聞き覚えはあったのぉ?」

 副部長が三人を見回して尋ねる。部長と由人は首を振った。

「俺には聞き覚えがある曲でした」と答えると、副部長は「ふぅん」と頷いた。

「そりゃ、人気アイドルの新曲なんだから、聞き覚えくらいあるだろ?」

 亨の言葉に、「いや、最近聴いたわけではない」と首を振る。

「例の違和感だか既視感だかか」と亨は肩を竦めた。

「それじゃぁ、『夜に鳴るピアノ』もこれで終わりねぇ」

 半ば予想していたことだが、やはり真相を究明するつもりはないらしい。亨も苦笑しただけで特に何も言わない。

 副部長はそのまま音楽室を後にし、俺たちも続く。

 廊下に出た所で、亨が由人に尋ねる。

「由人も聴こえたんだよな? 思うところとかないのか?」

「そうですね」と少し考えるそぶりを見せ、「とても良い曲だな、と」と続けた。

 冗談のつもりもないようだが、そう言って微笑む由人に、亨と俺は顔を見合わせて笑った。想像していた以上に逞しい奴だ。

 部室に戻ると、「先に出ててねぇ」と告げた副部長に従って窓から屋外に出る。そのまま部室で過ごすつもりかと危惧したが、すぐに副部長も地面に降りた。

 学校を離れ、集合場所に戻る。

「それでは、今日の活動はこれまでだな。お疲れ様。充分に気をつけて帰るように」

「お疲れ様ぁ。明日は午後から部室に集まってねぇ」

 それぞれ挨拶を返して帰路に就く。

 家に着いた瞬間、緊張から解放されたせいか、ひどい眠気に襲われた。

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