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回生の果て  作者: 壊れた靴
七不思議
14/40

14

 その夜、眠っていた俺は夢によって目覚めさせられた。

 小学生にもならない頃の俺と亨、同じ年頃の少女が一緒に遊ぶという他愛もない夢だったが、その少女に懐かしさを覚えた。

 寝る前まで副部長から渡された肖像画を見ていたせいだろうか、少女にはどことなくそれに似た面影があったように思う。

 亨なら何か憶えているだろうか、とスマホに手を伸ばす。日付はとうに変わっていた。まだ起きているだろうか。

「子供の頃、俺たちと仲の良い女の子っていたか?」とメッセージを送る。

 それほど間を置かずに「特別仲の良いって子はいなかったと思う」「どうかしたか?」と返ってきた。

「誰かいたような気がしただけだ。すまん」

 しばらくして「明日お前の家に行っていいか?」と送られてきた。「問題ない」の返事に「午後になったら行くわ」と返ってきた。

 スマホを手放して寝直す。幸い、それから朝を迎えるまで起きるようなことはなかった。

 階段を降りてリビングに入る。何かの映画を観ていた母さんに今日が週末だったことを思い出した。

「おはよう。朝ご飯なら自分で用意してね」と画面から目を離さない母さんに挨拶を返し、朝の支度を進める。

 俺が朝食を終えた頃、映画はスタッフロールに入った。中年男性が時間を操作する道具を手に入れるが、最後にはそれを捨て、平凡だが幸せな日常に戻る、というような内容だった。

「今日は部活ないの?」と尋ねてきた母さんに頷いて、「午後から亨が来る」と言うと、母さんは「会うのは久々ね」と不敵に笑った。亨が家に来るのはよくあることだが、意図的に母さんの居ないタイミングを狙っている。

 夢に現れた少女の手がかりがないかと、「子供の頃の写真ってないよな」と確認するが、「うちは写真に残す習慣がないからね」と返ってきた。「どうかした?」と返す母さんに「何でもない」と首を振る。それ以上は特に気にする様子もなく、次に見るのであろう映画を探し始めた。

 自室に戻って夏休みの課題を進めるうちに、昼を迎えた。昼食を終えてしばらくすると、インターホンが鳴らされた。

 インターホンには亨だけでなく、由人と舞耶の姿もあった。玄関に向かうと、母さんもついてくる。

 母さんはドアを開くと、由人に驚いたのか、「いらっしゃい」と言ったままの不自然な笑顔で、僅かな時間硬直した。その隙に、亨が「お邪魔しまーす」と、素早く俺と母さんの脇を抜けて二階に向かう。このために由人や舞耶を呼んだのではないだろうか。

「二人も貴水のお友達?」とやや余所行きの態度で尋ねる母さんに、由人は微笑んで、舞耶は緊張した面持ちで頷く。

「どっちもオカ研の部員で、同じクラスの鳳由人と、1年の星野摩耶だ」と言うと、母さんは頷いて「由人くんと舞耶ちゃんね。暑かったでしょ? 上がってね」と声をかける。

 二人は「お邪魔します」と廊下に上がった。由人が「初めまして」と微笑みながら頭を下げ、手にした紙袋を「ささやかですが」と母さんに差し出す。母さんは「ご丁寧に」と妙に畏まって受け取った。

 舞耶は「初めまして!」と勢いよく頭を下げ、「お土産です!」と紙袋を差し出した。母さんは「ありがとう」と受け取り、「貴水にこんな可愛い後輩がいたなんて知らなかったわぁ」と微笑む。

「俺は二人を案内するから」と二人と母さんの間に割り込む。母さんは名残惜しそうに二人を見ながら、「お菓子持っていくからね」とリビングに戻っていった。

 苦笑しながら、「付いてきてくれ」と二人を俺の部屋に案内する。

 部屋では亨が俺のPCでゲームに興じていた。俺たちに気づくと中断して「お疲れ」と笑う。

「人を呼ぶなら許可をとれ」と苦笑すると、亨は「いや、お前の母ちゃんいるかもって気付いたのが起きてからだったからさ」と悪びれることなく笑った。

「ひょっとして先輩は私たちが来ること知らなかったんですか?」

 困惑したような舞耶と由人に「悪いのは亨だ。二人とも来てもらって問題ない」と笑う。

 多少は安心した様子の二人に腰を下ろすよう勧める。亨もPCを離れ、四人で背の低いテーブルを囲む。

「先輩のお母さまですか? すごく若くてキレイな人ですね」

 舞耶の言葉に、「黙ってればな」と亨が呟き、俺は苦笑する。

 その時、ドアがノックされた。返事をする間もなくドアは開かれ、「お邪魔します」と、トレーを持った母さんが笑顔で入ってくる。

「おもたせでごめんなさいね」と、微笑みを浮かべて、由人と舞耶の前に紅茶とケーキを並べ、俺と亨の前には麦茶と煎餅の大袋を置く。袋の封は切られていた。

 俺と亨は苦笑し、由人と舞耶は困惑したような表情で視線を彷徨わせる。

 母さんは「冗談よぉ」と声を上げて笑い、わざわざ廊下に戻って別のトレーを持って来ると、俺と亨の前にも由人たちと同じものを置いた。

「今日は部活動の相談?」と腰を下ろしそうになった母さんを何とか部屋の外に追い出して、ドアを閉める。

「お茶目なお母さまですね」とやや引き攣った笑みを浮かべる舞耶に、「相変わらずだな」と呟いた亨と共に苦笑する。

 早くも菓子を食べ終えた亨は、「昨日の件だけどさ」と立ち上がると、PCの前に戻る。改めて見ると、PCには亨のスマホが繋がっていた。

 亨は「家にあった写真全部コピーしといた」とスマホを仕舞う。俺たちが子供の頃、事あるごとに亨の親に写真を撮られていたことを思い出した。

「やっぱそんな子いなかったと思うんだよな」

 言いながら、亨は画像を次々と確認していく。

「なんのことですか?」と尋ねてきた舞耶に、「子供の頃に仲の良い女の子がいたような気がして、亨に聞いてみたんだ」と返すと、「初恋の子、とかですか?」と軽く睨むように俺を見る。

「いや、例の肖像画に似てると思って、気になったんだ」

「カワイイ子だったんですね」と舞耶は尚も俺を睨み、由人まで「何か思い出せることはないのでしょうか?」と尋ねてきた。

「亨の言うように、記憶違いか何かだろう」と苦笑して首を振る。

「遊んだ時間が短くても、印象に残るってこともありますけどね」と言いながらも、一応は納得したらしく、舞耶は表情をやわらげた。

「そんなことより」と舞耶は立ち上がり、「先輩の小さい頃の写真ですよね!?」と亨を突き飛ばす勢いで座席を奪う。

 亨は笑いながらも大人しく席を譲り、テーブルに戻ってくると、置き去りにされた煎餅を取り出して一口齧った。

「それにしても、何で急にあんなこと聞いてきたんだ?」

「夢に出てきたんだ。例の肖像画を見たせいだとは思うが」

「副部長から渡された絵だからな。何かが宿っていてもおかしくはないな」

 そう言って笑う亨に、「確かにな」と笑って頷く。

 舞耶は時々奇声を上げながら画面に集中している。PCにはいつの間にか舞耶のスマホが繋げられていた。

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