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回生の果て  作者: 壊れた靴
七不思議
13/40

13

 廊下に出た所で、志津田と鉢合わせた。志津田は特に驚いた様子も見せず「またお前らか」と淡々と声を発する。

「例の森で竜宮は探さなくていいのか?」

 一応は顧問らしく、活動内容は把握しているようだ。

「竜宮については今は出来ることがないらしいので、今日からこの学校の七不思議の調査を始めたところです」

 俺の答えに、志津田は一瞬困惑したような表情を浮かべたが、すぐに「そうか」と頷きを返した。

「あの泰原がよく七不思議の調査などしようとしたものだな」

 言葉のわりに、特に何の感情も感じさせない志津田に「副部長が主導しています」と答えると、「眞城か」と僅かに顔をしかめた。

「先生は七不思議について知ってることないすか?」

 亨の質問に、志津田はやや間をおいて「さぁな」と首を振った。

「七不思議でも何でもいいが、迷惑になるような行動はとるなよ。眞城にも伝えておけ」

 そう言うと、志津田はその場を後にした。誰の迷惑になるのか言わない辺りが実にらしい。

 志津田の姿が完全に見えなくなってから、舞耶が口を開く。

「何か知ってそうじゃなかったですか?」

 頷きを返す。志津田の態度には、何となくそう感じさせるところがあった。

「知ってるけど言えないとか、言いたくない事情でもあるんですかね?」

「七不思議についてなんか、話すのが面倒だからああ答えただけだろ?」と亨が笑う。確かに、志津田ならそうするかも知れないと苦笑した。

「志津田先生はこの学校で長いんでしょうか?」

 由人の質問に亨と顔を見合わせる。亨は「さぁ?」と肩を竦めた。

「俺も知らないな。前の部長が1年の時からオカ件の顧問だったらしいから、少なくとも3年はいるだろうが」

「そうですか」と頷く由人に、亨が「今度聞いてみるわ」と笑い、由人も微笑した。

 部室に戻ると、部長と副部長が「お疲れ様」と俺たちを迎えた。部長はスケッチブックに鉛筆で何かを描いていたらしく、その作業に戻り、副部長はいつものように読書に戻った。

「志津田先生に会ったんですけど、七不思議のこと、何か知ってるみたいでしたよ」

 舞耶の言葉に副部長が顔を上げ「そうなのよねぇ。色々知ってるみたいなんだけどぉ」と答えると、舞耶は質問を続けた。

「副部長は何か聞いたことあるんですか?」

「聞いてみたんだけどぉ、何も教えてくれなくてぇ」

 副部長の言葉に志津田の伝言を思い出したが、言うだけ無駄だろうと黙っておくことにした。

 部長は鉛筆を持つ手を止めて、広げたスケッチブックを机の上に置いた。

 見ると『描きかわる肖像』の左右それぞれを線対称にした、二枚の肖像画だった。

 多少は見慣れたためか先ほどよりはマシだが、やはり右側を対称にした肖像には、何かを忘れているような違和感を覚える。

「こんなすぐに描けちゃったんですか!? しかもちょっと見ただけなのに!」

 舞耶が驚きを露わにしたが、部長は舞耶の発言を気に留める様子も見せず「見覚えのある顔か?」と全員を見回して尋ねる。亨が肖像画を見ながら声を上げた。

「左側って、あのアイドルじゃないか?」

 舞耶は「そういえば」とスマホを取り出して操作すると、「そっくりですね」とスマホを机の上に置いた。

 画面にはあるアイドルの顔が映っている。確かに、左側の顔は彼女のそれを描いたものに思える。

「有名なのか?」と部長が尋ねると、「知らない人の方が少ないと思います」と舞耶が苦笑した。

「お前が既視感って言うのも当然だな」と笑う亨に「左側は全然気にならなかった」と首を振る。

 亨は「じゃあ、こっちか」と右側を対称にした肖像画を見つめるが、しばらくして「分からん」と肩を竦めた。

「実際の顔は左右対称ってわけじゃないですしね」

 舞耶も右側の顔を見つめながら言うと、諦めたように「私も全然分からないです」と顔を上げ、スマホを手に取って眺める。

「でも、あの絵って、すごく新しいものってことですよね」

 舞耶の言葉に俺と亨は頷くが、他は何の反応も示さなかった。それぞれがどこか浮世離れしている三人はこのアイドルを知らないのだろう。舞耶は小さく溜息を吐いて続ける。

「この人って、デビューしたのが去年なんですよ」

 自分で言いながら、不審な点に気付いたらしい。「おかしくないですか?」と声を上げた。

「なんでそんな最近のものが七不思議になるんですか?」

 舞耶は副部長に「本当にこの絵のことなんですか?」と怪訝そうに尋ねるが、副部長は「ありがとぉ」と、珍しく微笑を見せた。肖像画のアイドルに劣らない程整った容貌に、却って妙な凄みを覚える。

 質問は無視されたも同然だが、舞耶も副部長の微笑に圧倒されたのか、それ以上尋ねる気もないらしい。

「次は『夜に鳴るピアノ』ねぇ」

 副部長は独り言のように、次の調査対象を告げた。

「ベタっすね。時間とか条件とか、分かってるんすか?」

「何となくはねぇ」と答える副部長に、亨は「録音とかじゃ駄目なんすか?」と質問を重ね、副部長は頷きを返した。

「調査する日が決まったら連絡するからぁ、それまで活動はお休みねぇ」

「そういうことだ。今日の活動もここまでとしておこう。お疲れ様」

 諦念すら感じられる無表情な部長にそれぞれ挨拶を返し、席を立つ。

 部室を出ようとしたところで、副部長に呼び止められた。副部長は机上に広げられたままのスケッチブックから右側の肖像画を切り取ると、「何か気付いたら教えてねぇ」と俺に手渡す。

 何と答えたものか分からず、「はぁ」と曖昧に頷いて受け取るのみだった。

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