26-30
26脚
春が来てもぼくには来ないこともある
犬が歩いても棒には当たらず
知人とわかっていても知らないふりをする
寂しくはない
じぶんにはまだ二つも脚がある
27バーコード
バーコードの黒線が足りてない
足りない理由はお金じゃないし心でもない
黒線はどこへ行ってしまったのか
知ってはいるけど
教えてあげない
28神聖な樹
原初の樹木の
枝の先にある葉の
葉脈は絡みあっていた
激しく乱れ
陽の光にを浴びて
恥ずかしげもなく
透けている
枝についた沢山の蕾は美しい花となり熟れて
神聖な果物となり
アダムとイブの口に入る
やがて
子どもたちが生まれて
育ち
彼らは神聖な気持ちを手に入れた
そして
樹の葉脈を乱れたものとして
その神樹を斧で叩き割った
神聖な果物を手に入れられなくなった子どもたちは
じぶんたちが乱れる外なくなり
蛇は笑う
悪意は善意の表裏でしかない
悪魔は天使の真の姿でしかない
神様は人間の鏡でしかない
人は都合良く考える欲にまみれた聖人でしかない
青い脈と赤い脈が絡みあう人の形をした心は
蛇であった
人の情火ではいつも蛇が笑ってる
29早朝の鳥
早朝
鳥が鳴いている
暗いうちから起きていたじぶんには
やっとかと感じるが
それはこちらの都合であって
鳥の都合ではちょうどいい時刻なんだろう
小鳥は元気だ
鳩は呑気だ
カラスは鷹揚だ
雀は見なくなった
街の谷間にまだ人がまばらなこの時間
何故だかわからないけど
空気がきれいな匂いがする
30閑古鳥
閑古鳥が鳴いている
いや本当にはそんなものはおらず
何も鳴いてはいないが
店の中はがらんとしている
人はいる
店の主人が
閑古鳥が羽をバタバタさせると
店の主人は無視する
いつものことだ
放置するにかぎる
店内を飛び回る閑古鳥をよそに
店の主人は仕込みをすすめる
じつは彼には密かに思っていることがある
それは閑古鳥といつか話してみたいということ
何故この店を気に入っているのか
この店のどこが好きなのか
じぶんのことをどう思っているのか
などなど聞いてみたいことが山ほどある
閑古鳥の方はどうだろう
もう長い付き合いだから
同じことを考えているのではないか
店の主人は閑古鳥を見つめる
閑古鳥も店の主人を見つめる
お互いがお互いを認知し合って
それはとても素晴らしいことで
美しくすらある
閑古鳥が鳴いた
明るく温かい鳴き声が店に響き渡る
そして
この店の料理は
高いし恐ろしくまずい