7. 花の国 ファンクラブ会員からのお誘い
フリージア神官長はどう反応するのかと不安に思いながら次の言葉を待っていた。
「なるほど…君が聖女の壁と言われてるレグルスか。まさかマントの購入者まで調べあげているとわね。だが、今はそれよりも…隻眼聖女様だ!」
レグルスと一触即発な雰囲気を醸し出していたかと思ったら、いつの間にか私の隣に移動して手を握られてしまいました。
え…と、転移魔法使いましたか?鮮やかすぎて魔法の痕跡も見えませんね。この人はかなり優秀な魔法使いでもあるみたいです。
「お初にお目にかかります。フリージアと申します。有名な隻眼聖女様にお会いできた喜びに震えております」
天を仰ぎ自分に陶酔したような表情のフリージア神官長。これはあれだ…前世でも居たけど推しに会えた喜びで周りが見えなくなって暴走するタイプの人。見た目がイケメンだけに残念イケメン感が半端なく漂っている。
前世でも仲間にこのタイプの人がいたのでその人の顔を思い出して懐かしい気持ちになっちゃったよ。
オタク仲間のみんなどうしてるのかな。
「アイオラ様、妄想の世界にいる場合ではないですよ」
コソッと耳元で囁かれ現実に戻る。そうだ、今はこの人から離れる事を考えないといけないんだった。私は握られた手を振りほどきながら笑顔を作る。
「あ~、初めましてフリージア様。今の私は聖女ではなく、ただの一般人ですから普通にしてください」
考えてみれば私は偽物の聖女と言われて緑の国を追放されたのだから、聖女ではもうないんだよね。一般人で通せばいけるんじゃない?
「何を仰いますか!あのバカの言うことは何一つ信用出来ません。貴女様のお力の素晴らしさは私どもがよく知っています」
他国の王子をバカと言ってますが大丈夫ですか?いくら教会関係者でも知られるとまずいのではないでしょうか。
「フリージア様は神官長ですがもう一つ肩書きがありまして…花の国の第5王子でもあります」
はあ!?王子!?
慌ててレグルスを見ると首を縦にふり頷いている。
王子で神官長?
「王子と言っても兄達が優秀なので、私は好きなことをさせてもらっているのです」
確かに見た目だけで言うと、気品があるし王族と言われても納得できる。…けど、そんなお偉い人が私のマントを着ているのは何故?
「あ~、隣国に貴女様を差し出すとかをご心配されているなら、絶対にそんなことはしませんから安心してください。あのバカには渡しません!」
私が黙って考え込んでいたのを心配していると思ったのですね。まあ、確かにその心配をしていたのですが…。
「ありがとうございます」
「私は貴女様のファンクラブの会員ですから、これくらいは当たり前ですよ」
「ファンクラブ?」
「アイオラ様にはお知らせしていませんでしたが、アイオラ様のファンクラブというのが各国にあるらしいですよ。緑の国の教会が月に一回発行する隻眼聖女本等を購入している人達です」
知りませんけど?本人が全く知らないなんてありなの?
「因みに僕もインタビューを受けた事があります」
自慢げにいうレグルス。それって違う気がするんだけど…。
「まさかご本人がご存知無かったのですか?」
フリージア殿下が驚いていますが、私はもっと驚いています。
「隻眼聖女様グッズ等の売り上げを隻眼聖女様にお渡しするという話は嘘だったのですね!…許せぬ!!!」
何それ!?私のグッズ?そんなものまであったの?
「売り上げは教会の建て直しや幹部達のボーナスになってましたからね。隻眼聖女様に届くことはありえませんね」
さらりと話すレグルスに殺意を覚えます。知ってて黙ってたのね。
「毎月決まった金額しか渡してませんでしたからね。王城で働く侍女達よりも安い金額だったので僕も驚きましたよ~」
笑って言ってますが笑うところではないですよ。私は益々貴方への殺意が高まってるのですが気がついてますか?
「もしや、このマントもなのか!?」
「いえ、それはご本人が直接売りに行っていますので大丈夫です」
「そうか…。それなら良かった」
2人は険悪な空気から和やかな空気へと変化していますが私の怒りは収まりそうもありません。
「全部嘘だったの?教会の建て直し?私のいた教会はボロボロだったわよ。ボーナス?新しい服を買うお金もないと言われて自分で破れた服を縫っていたのよ…。誰…誰なの私に嘘をついていたのは誰よー!!!」
だんだんと声が大きくなり気がついたら周りから注目されていた。だって、腹が立つよね。仕方ないよね。
「アイオラ様落ち着いて下さいね…。ほら、美味しい花飴ですよ」
レグルスが綺麗な色の食用花を飴で固めた花飴を私の口に入れてきた。うっ…美味しい。
「こんなぁ飴を入れてもぉ怒りは収まらなぁい」
飴が大きすぎて話しにくい。
「私も何回も訴えたのですが改善してはもらえませんでした。あの国は何もかも腐っていたのですよ。だから、アイオラ様が国外追放になるのを黙って受け入れて一緒についてきたのです」
ムムッ…。最後に良い話しをもってくるとは卑怯です。
「緑の国はそこまで酷かったのですね。そうだ!行くあてがないのならこの国にずっと滞在していただけませんか?」
「「え!?」」
「私としてはその方が嬉しいのですがいかがでしょうか?」
瞳をキラキラとさせてフリージア殿下がまた手を握ってきました。
花の国に永住?悪い話ではないけど…どうしよう。