5. 花の国 危機回避
「レグルス、アイオラ様をしっかりお守りするのよ。貴方も身体に気をつけてね。それからくれぐれもあの約束を守ってね。絶対に星の国には行かないでね…」
「わかっています。大丈夫ですから」
今朝早くにレグルスママに叩き起こされ、今はお母様と別れの挨拶中です。…あれ?ママとお母様だとややこしいかな。一旦中断だね。
まあ、何があったかと説明すると昨日の噂話を聞いたレグルスが緑の国から追っ手がくるかもしれないから実家を出て他国に行こうと言われたのです。
もう少しここに居たかったな。家族の暖かさというのを今世では味わった事が無かったからね。施設のシスターとかも家族といえばそうなのかもしれないけど…。
「さあ、いつまでも膨れっ面していないで出発しますよ」
「わかってます。お母様、お世話になりました。お身体に気をつけて下さいね。それからこれを使ってください」
私は秘かに用意しておいた魔道具をお母様に渡した。
「これは…フクロウの置物ですか?」
そう、見かけはただの置物に見えますよね。
ですが…。
「実はこれ、フクロウの右の羽を手前に引くと私達と会話ができて、しかもこのフクロウの目に映った映像が相手に見えるという優れものです。名付けて、フクフォン!」
モデルは前世の電話ですが花の国にはあのデザインが合わないような気がしてフクロウの形にしてみました。
お母様もレグルスも驚いています。徹夜して作ったかいがありました。チート能力に感謝だよ。
「また、変なものを作るために徹夜されたのですか?途中で寝ても今日は背負いませんよ!」
レグルスママが怒です。しかし、私のフクフォンを変なものだなんて…こんなに可愛いのに!
それに、私的に徹夜は前世の職業で慣れているからそんなに辛く感じないんだよね。逆に興奮気味なくらい。だからレグルスに背負ってもらうことは絶対に無い!
…たぶん。
「何を言っているのレグルス。こんなに素晴らしいものを私の為に作って下さったのだから感謝しなければいけないわ」
お母様はフクフォンを大事そうに撫でてくれている。いや~、お母様はわかっていらっしゃる。詳しい使い方を紙に記しておいたのでそれをお母様に手渡した。
「アイオラ様もお元気で…。是非、また来てくださいね」
「はい!」
お母様はうっすらと瞳に涙を溜めながらも私達の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
「素敵なお母様だね」
「ありがとうございます。自慢の母です」
珍しく照れ臭そうな表情を見せたレグルス。本当はもっといたかったよね。
「ねぇ、私は一人旅でも大丈夫だよ。レグルスはここに残る?」
前世では一人旅もよくしていたし、今もチート能力&聖女の能力があるからそんなに困ることも無いと思うんだよね。レグルスが居なくなると寂しくはなると思うけど、私の勝手で連れ回すのは良くないよね。
「アイオラ様は私がお嫌いですか?」
「え?嫌いじゃないよ。いつも私のお世話ばっかりしてもらっているから申し訳ないなと思ったの…」
「私は好きでアイオラ様のお世話をしているので気を遣わないで下さい。それに…私も調べたいことがあるのでこの旅は私にとっても必要なのです」
いつになく真剣な表情だけど、何を調べたいのかな?聞いちゃいけない感じがするから聞かないけどね。そういえばお母様も「星の国には行かないでね」とか言ってたしな。何かあるのは間違いないよね。
ここは気持ちを切り替えよう。
「そっか。じゃあ、これからもお世話をお願いします!」
「仕方ないからお願いされますよ。ほら、急ぎますよ」
照れくさいのか、赤くなった顔を見せないように早足で先に歩いて行ってしまった。
朝早いからか通りは人通りは少なく静かだ。すぐに馬車に乗ることもできたのでこれでひと安心かな。
昨日見た屋台村も、朝早いからか営業しているお店もほとんど無く静かで変な感じだ。カラフルな街の中心部も通り抜けて花の国の端の村に到着したのは日が沈みかけた時間だった。
「今日はこの村に泊まりましょう。明日も早朝に出発しますよ」
宿屋をすぐに見つけて部屋に入ってすぐにに言われた。因みに部屋は一緒でベッドは別のツインです。護衛の為には同じ部屋が良いとレグルスに押しきられました。
"ホーホー""ホーホ"
「フクロウの鳴き声?」
レグルスが窓を開けて外の様子を見た。…って、違う!これはフクフォンの音だ!
私はフクフォンを懐から取り出して左の羽を手前に引いた。あっ、受信は左の羽なんです。
「あら?つながった…のかしら音がしなくなったわ。アイオラ様聞こえてますか?見えていますか?」
壁に写し出されたのは今朝別れたばかりのレグルスのお母様。
「はい、聞こえてますよ。お母様も聞こえてますか?」
試しにかけてくれたのかな?
「通じて良かったです。実は先程、緑の国の使いの者だという人がやって来てアイオラ様の行き先を知らないかと聞かれたんです。心配になったのでフクフォンを使わせてもらいましたが…大丈夫ですか?」
ギリギリセーフ!私を連れ戻すという噂話は本当だった。レグルスを見ると表情が厳しくなっていた。
「はい。私達は大丈夫ですよ。お母様は何もされていませんか?」
「はい。私は何も知らないとしか言わなかったので聞いても仕方ないと思われたのかと思います」
手荒なことをされなくて良かった。
「ですが…このフクフォンは凄いですね。アイオラ様のお声がすぐ横で話をしているかの様によく聞こえます。それに映像も綺麗です。アイオラ様のお力は本当に素晴らしいのですね」
お母様がべた褒めしてくれるので背中がむず痒くなってきちゃった。
「本来ならアイオラ様を守る騎士の身内がこんなお願いをするのはいけないことだと思いますが、レグルスをどうかよろしくお願いします。アイオラ様と一緒ならもしかして…」
最後に何かを言うのを止めて途中で終わっているんだけど、お母様はそれ以上は何も言わなかった。
「大丈夫ですよ。レグルスは私の大事な相棒なので助け合いながら旅をしてきます。必ず元気な姿でお母様の元に帰しますからね」
「ありがとうございます…」
「母さん…」
画面には泣き崩れているお母様の姿が写っている。挨拶をしてフクフォンを切った。
やっぱりレグルスには人には言いづらい秘密があるみたいだよね。いつか話してくれる日がくるかな…。
そして、私もいつか自分は転生者だとレグルスに言うことができるかな…。