22. 空の国 わからない方が幸せということもある
次の朝、私達が宿を出た後に兵士らしい格好をした人が私達の泊まっていた宿に入って行くのが見えた。嫌な予感がしてレグルスと顔を見合わせた。
「嫌な予感が当たってしまったみたいですね」
昨日、レグルスがフラグをたてるからだよ!
私達はモコとキュートを抱えて走り出した。今見つかっては面倒なことに巻き込まれるのが確定しちゃうよ。それは楽しくないので避けたい。
…が、扉が勢い良く開いた音が聞こえた後、人が走っている足音まで聞こえてきて私達は焦った。
どうしよう…。このままだと捕まっちゃうかも!?
"チッ、しかたねえな…"
モコが舌打ちして何かをつぶいやいた途端にキュートが慌てて声をかけてきた。
"ご主人様、レグルス様とお兄様に抱きついて下さい!早く!"
え?レグルスに抱きつく?その言葉に戸惑いながらもレグルスを見ると…。
「浮いてる!」
レグルスの足元が地面から少し浮いていた。
あっ、そうか!モコの能力の浮遊の力だ!モコに触れていないとダメなんだったかな。今はレグルスがモコを抱いているから私はレグルスに抱きつかないといけないということか。
思いきってレグルスに抱きつくと、私の体もふわりと浮かびそのまま路地に入ると急激に上にと体が浮かび上がり最後は家の屋根の上に到着した。屋根に足がついたらすぐにレグルスから離れる。べつにドキドキなんかしてませんよ。
下を見下ろすと兵士らしき人が私達を探して走り回っているのが見えた。
"本当は飛んで逃げることもできるが、人目につくから今はここで隠れる方が良いだろ"
モコ…口は悪いけど考えてるね。おじ様改め思春期くんと呼ぼうか?私がそんな事を考えていた時、レグルスは一人でモコの能力に感動していたらしく…。
「これはモコの力ですか。凄いですね」
レグルスはモコの頭を激しく撫でているが撫でられている本人は物凄い悪態をついている。
"止めろ!男に撫でられても嬉しくない!"
とか言いつつ尻尾は嬉しそうに振っているよ思春期モコくん。やっぱりこういう時は何を言っているかわからない方が幸せだよね。まさかこんな悪態をついているなんてレグルスは思っていないだろうな。
"ご主人様、このまま屋根づたいに移動して脱出しましょう。お兄様!頑張って下さい"
そんなやり取りのなか、キュートちゃんの激励がモコに飛んだ。うん、中々のしっかり者ですね。
"しかたねえな。次はどこに行くんだ?"
何だかんだ言って妹のキュートに弱いモコは妹の願いを断らないんですよね。本当にこの二匹を私に下さったのは感謝しますが、厄介ごとには巻き込まないで欲しかったわ。…って、そうじゃなくて今は次の行き先を言わないといけないんだった。
「レグルス、次はどこに行くんだった?」
「次も地上に戻らず空にある国にしようと話していましたが、この状況だと他の空にある国も安全ではなくなりそうですね…」
「それってどう言うこと?」
レグルスが詳しく説明してくれたのは、空に浮かぶ国はいくつかあるらしいのだけど、それら全ては親族が王様になっているところが多いらしい。つまり全て兄弟!驚きです。
今いる空の国は別名、青の空と呼ばれていて次に行こうとしていた月の国はこの国の王様の弟さんが王様らしい。
これは危険かもね。…ということで屋根の上で緊急会議が始まりました。
「じゃあ、地上に戻る?」
「それも追手がいるかもしれませんよね」
私の元婚約者であるバカ王子はまだ私を探しているのかな?
「でも、この国の王族の方が優秀でしょ?あのバカ王子の方が逃げやすいんじゃないかな」
「…確かにそうですね。では、地上の国に移りましょう。ここからだと…そうだ!精霊の国に行きましょう!」
「精霊の国?」
聞いたことはあるけどその国って誰でも行ける国じゃないって言っていたような気がするんだけど記憶違いかな。
「精霊の国って誰でも行けるの?」
「大丈夫です。私の知り合いが精霊の国にいるのでなんとか行けると思います。あそこならバカ王子もこの国の王族関係者も入ることはできません」
そうなんだ。それなら安心かも。モコも聞こえていたらしく"決まったなら行くぞ"とレグルスの体を浮かせ始めたので、また慌ててレグルスに抱きついた。因みにキュートちゃんは抱き潰しそうなので鞄の中に入ってもらいました。
姿が見えないように注意しながら、屋根から屋根へと飛び移って行きなんとか飛竜乗り場近くの森まで来ましたが…。
「ここは兵士だらけで駄目ですね。別のルートを探しましょう」
飛竜乗り場にはたくさんの兵士の姿があり、私達を探しているみたいだ。「黒いマントを着ている二人組をみなかったか?」と聞き込んでいる。
"お兄様ならこの国からお二人を地上に下ろすことも可能ですよ"
「え!モコってそこまで優秀なの?」
屋根くらいまで体を浮かせた後は飛んでは下りての繰り返しだったから持続力が無いのかと思っていたんだけど違ってたみたい。
「何て言っているのですか?」
私が驚いた声を出したのでレグルスも気になるみたいです。
「モコの能力でこの国から出られるみたい」
「素晴らしい!そこまで能力があるのですね」
レグルスはまたまた感激してモコを激しく撫でていますが肝心の本人は…。
"だから止めろって言ってんだろうが!男にベタベタ触られても気持ち悪いだけだ!やめろ!!!"
「撫でられて嬉しいんですね。ずっと鳴いてますね」
嫌がるモコとは反対にレグルスはご満悦の様子だ。うん、やっぱモコの言葉はわからない方が幸せだよ。レグルスに翻訳機を作って欲しいと言われていたけどあれは出来ないと断ろう。それがお互いの為だよ。
そう、誓いながら空の国を下りていった。




