17. 空の国 作っちゃいました
「アイオラ様、朝ですよ!起きてください」
椅子に座ったまま寝てしまっていた私をレグルスが揺さぶってくる。2時間前くらいまで作業していたからまだ寝かせて欲しいよ。
「もう少し寝かせて…」
「遅くまで起きていたのはわかっていましたが…ほどほどにしてくださいよ。それに今回のこれは何ですか?呪いの人形ですか?」
伏せていた顔を起こしてレグルスを睨む。
「これは"にんぎょう"とか"ぬいぐるみ"と呼ぶ物です!呪いの物てはありません!好きな人などに似せて作るのです」
ふん!と鼻息荒く説明をした。眠気もすっかり覚めちゃったよ。私の愛しのぬい(ぬいぐるみ)様を呪物と一緒にするなんて考えられません。
「好きな人ですか…。このにんぎょう?ですか、アイオラ様と同じような眼帯をつけてますけど貴女自身ではないのですね」
フフフッ…よくぞ聞いてくれました。
「この人は私の憧れの人です。その人を思い出しながら作りました」
もちろん私が作ったのは○宗様です!眼帯や着物まで細かい所までこだわって作りました。我ながら良い出来だと思っています。
「変わった服装をしていますね。どこの国の服装なのですか?」
ギクッ!そこは聞かないでほしかったんですけど、何て答えようかな。
「え~と、それは…私のデザインよ。直接お会いした事が無いからこんなお洋服がお似合いになるんじゃないかと思って作ってみたの。変わっているかしら…」
苦しい言い訳だけど仕方ないわよね。でもこのぬい様がないと私の活動がはかどらないのよ。眼帯仲間が見つからないのならせめてぬい様で仲間を作りたい!溢れ出るオタク魂を止める事はできないのよ!
目を泳がせながら立ち上がり身支度を整える。レグルスは私の作ったぬい様を手に持ち細かい所まで見ているようだ。
一針一針に心を込めて作ったので細かい所まで丁寧に仕上がっているから見てもらっても宜しくてよ!
「そう言えば昨日おっしゃっていたガイドブックとはどんな物なのですか?これではないのですよね」
あっ、そうか!この異世界にはガイドブックという言葉が無いから説明をしないとわからないのか。いや、だけどぬい様についてはスルーするつもりなのね。
「…ガイドブックって各国を訪れた時に必ず見た方が良い場所とか食べ物とかお店とかを絵や言葉にして紹介する本等のことを言うの。それがあれば初めて行く国でも楽しめるでしょ」
レグルスは「なるほど…」と頷きながら何かを考えている。残念なのは異世界ではまだ写真が無いんだよね。なぜが飛び越して動画を撮れる魔道具はあるんだよ。何でも動画があれば静止画はいらないだろう?だってさ。わかってないよね。写真には写真の良さがあるのにね。
「アイオラ様はそのガイドブックを作ってどうされるのですか?」
「旅の資金にしようかと思ってるの。魔獣から採れる魔石を売るのも良いけど他にも収入源があった方が良いかなと思ったのだけど…売れないかな?」
もしかして、異世界の人達はガイドブックなんて必要ない派だったりするのかな。前世でも行き当たりばったりが楽しいからガイドブックなんかいらないと言う友人もいたな~。もしかしてそっち?
「どうでしょうか…。私は面白いアイデアだと思いますが他の人達はわかりませんね。どうでしょう、いきなり本にするのではなく掲示板に貼り出す紙のような物で作って試してみませんか?」
それ良いかも!前世のイメージだと観光案内所とかに置いてある手書きの地方案内ペーパーみたいなやつ!それなら費用も抑えられそうだし手間もそんなにかからないかも。
「レグルス冴えてる!それでいこう!」
「ではまず手始めに空中庭園のことについて調べてみますか?それから昨日のフワリンなどのことも書かれますか」
「そうですね。協力をお願いします」
そうと決まれば後は準備をするのみ。紙を沢山用意してペンとお金と勿論ぬい様も忘れずに!心は○宗様との旅行のつもりでお出かけしたいと思います。心も荷物も準備万端です。
「宿で朝食を食べてから出発しましょう」
朝食!楽しみだな~。昨日食べたフワパンとかが出てくるのかな。あれは美味しかったから続いても食べることができる。などと考えながら食堂に向かうと数人の人達がすでに朝食を食べているのが見えた。
「また真っ白だ」
お皿の上にのっているのは真っ白なパンと真っ白なオムレツみたいな物に白いクリームがかかっている食べ物だった。いや、本当に真っ白が好きすぎだよね。
「あ、おはようございます。こちらどうぞ。朝食をすぐ持ってきますね」
声をかけてくれたのは昨日の男性ではなく若い女性です。昨日の男性と顔立ちと雰囲気が似ているので妹さんかなと思いつつ言われた席に着きます。
席についてから周りを観察してみると、どうやら朝食に種類はなく一種類だけみたい。皆が同じメニューを食べています。
「アイオラ様…透明な液体がお口からまた出てますよ」
うっ…いけないいけない。美味しそうな匂いにつられて私のお口がまた緩んでしまいました。
「お待たせしました。宿の名物のホワメレです」
先程席に案内してくれた女性が元気良く朝食を運んできてくれた。だけど聞きなれない言葉が気になった。
「ホワメレ?」
「はい。うちの宿の名物で卵のメレンゲで野菜を包んで焼いたものに牛乳のソースをかけた料理なんです。美味しいですよ」
私は説明を聞きながら確信をしていた。
やっぱりオムレツもどきなんだ!前世でも卵白をメレンゲしてふんわり焼くオムレツがあったよ。たしか…ヨーロッパのどこかの国の名物になってたんだよね。本場では食べたことが無かったけど、まさか異世界で食べられるなんて感激。
一口くちにいれると…。うわぁ~、蕩ける!無くなる!スパイシーだけど野菜の旨味もあって牛乳のソースにもコンソメぽい味がついていて美味しいです。白いパンは少し甘くしてあってこのお料理と合います。朝から幸せ~。
「アイオラ様、その透明な液体はいつになったら止まりますか?」
「へ?」
レグルスの冷たい視線が口元からテーブルへと移っていく。テーブルを見ると私の液体の跡がある!
誰か至急私に口から透明な液体が落ちない方法を教えて下さ~い!




