桃から生まれたぬいぐるみの鬼退治
「冬童話2023」参加作品です。
桃から出て来たぬいぐるみが鬼退治をする愉快なお話です。
漫談風にしてお届けいたします。どうぞ。
むかーし、むかーし。
むっかーーしの、ことなんですけどぉ、
たぶんね……昭和かな?
ぱっと見の雰囲気で言うと。
どんぶらこー、どんぶらこー。
と、
大きな桃が川から流れてきます。で、おばあさんが見つけるわけですよ。
なんじゃこらー!! みたいな。
で、パカーッですよ。包丁で割ります。
ん? ところで、
こんな人気のない山んなかの川辺でいったい何やってたんだ?
このおばあさん?
まいいや。
おばあさんが包丁で桃を割るとですね、出てきます。
もう汁まみれで。
ベットベトになったぬいぐるみですよ。
もちろんクマのぬいぐるみ。
クマでベットベトだから、おばあさんは「プーサン」と名付けました。
で、これどうすんのって話ですよね。持って帰んのかっておばあさんは考えるんだけど、でもあんまり目立ちたくはない様子なんですね。
だからとりあえず桃を食えるだけ食っといて、後はもう荷物はぬいぐるみも含めて全部川に捨てることにしました。
包丁は念入りに拭いてから捨てますよ。
「さよなら」って言いながら。「さよなら、プーサンくん……」てね。
はいそれで、プーサンくんの方なんですけども。まあ、ゆうても、ぬいぐるみですからね。
生き物ではないですから、川をただ流れるしかないわけです。
あっ、
良いところにサルがやって来ましたね。木の枝にぶら下がってキィキィ言ってますよ。
ええの見つけたー!
みたいなね。
タタタタッと、川原に降りて行って、手を伸ばして見事にプーサンくんをキャッチしました。
ラッキー♪ てな感じで。
で、ベロベロ舐めてますね。桃の汁が美味しくて仕方ないんでしょうね。もう、舐めまわしてますよ。ぬいぐるみを、全身くまなく、夢中で舐めてます。
そんで、もう味しないなってなると、ポイッですよね。あっさり川に投げ捨てると、お尻をかきながら森の方に帰って行っちゃいました。
これあれですね。ちょっとキレイになっちゃって、よく見るとこいつ、クマじゃないですね。イヌですね。耳がイヌっぽいもん。
ぬいぐるみはクマの方がよく売れるますからね、売れ残っちゃった子なのかもしれませんね。そう思うと、このぬいぐるみにも色々あったのかもしれないですね。
そうこう言ってるうちに、だいぶ川を進みましたよ。流れが緩やかな所に出ました。
おっ、男の子が来ましたよ。
ご丁寧に『鈴木 太郎』ていう名札を胸に付けてますよ。住所と電話番号もマジックで書いてありますね。10才ぐらいかな、この辺物騒だから気をつけてほしいけどね……
おや、この子生意気にもAPEのリュック持ってますよ。カッコ良いなあ。
あでも、ダサいストラップ付けてるなあ。あれ何のやつだろ?
あ、鳥のキジですね。
ダサいなあ。でも年相応か。
お土産屋で売ってますよね、こういうキンキラのやつ。こういうの子供は好きですよねー。
「わあ! クマしゃんだ!」
見つけましたね。太郎くん、木の枝を持ってきて川を流れるぬいぐるみを取りに行きます。
上手い事こっち側に寄せて、よし! ゲットしました。
「なんだ……イヌっころか……」
そう、よく見るとイヌなんですよ。
ガッカリ気味に首を傾げて悩んでますけど、なんだかんだで「まいっかー」と言って、リュックに入れて持って帰ることにしました。
てくてくと歩いて行って、お家の前までたどり着きました。
「た~だいま~」
と、太郎くんがお家に入ると、
ドタドタドタッ、と奥からお母さんが慌てて玄関までやって来ました。
「アンターッ! こんな遅くまで、どこほっつき歩いてたのッ!」
うわあ……お母さん、もうカンカンですよ……。怖いなあ。
もはや〝鬼〟ですね。
「ぼくもう、高学年だよ! 一人でも大丈夫だよ!」
お、太郎くん言い返しましたね。
頑張れ少年! 頑張ってもらわないと、この小説のタイトルを回収できないんですよ。
「ヤッカマシイワーッ! 言う事聞かないとー、もう! お年玉はナシよッ!」
これは強烈な一撃ですわな。
お母さん怖いなあ。
「……うわああん……あああん。ごめんな、ひっく、ごめんなしゃああぃ」
あーあっ……、泣いちゃったね……
「んもう。ほら……、早くお風呂入っちゃいなさい」
「だあああ……ぎょめんだじゃああい……」
負けですね。でもこれは仕方ない。
お母さんハ心配だったんでしょうね。この辺は何かと物騒だからね。
太郎くんが無事で何よりですよ。ほんと、それが一番。
はい。ということで、
良い子は一人で危ない所で遊んじゃダメですよっていうお話でした。
めでたし、めでたし。
それじゃ、さよーならー・・・
「ちょっとお! 何よこの汚いクマのぬいぐるみはー!?」
「あばあああ、ぎょめんだじゃああい……」
(おしまい)
ありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか。




