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第60話 秘密会議 二

初心者マーク付きの作者です。

暖かい目でご覧ください。

 

「――というのがこれまでの経緯。ここまでは大丈夫かな」


 レイドヴィルの説明に円卓の全員が頷き、それを確認したレイドヴィルもまた頷きを返す。

 これまで任務に就いていた騎士達は当然として、ニアもしっかりと資料に目を通していたようだ。

 そのニアは、沈鬱な表情で紙に目を落としている。


「アンナちゃんがこんなことに巻き込まれているだなんて……。本人は気付いているのでしょうか」


「いや、特にそういう素振りは無かったね。今が平和だからという点を加味しても、少し警戒心が足りなさ過ぎるね。それも彼女の美徳だけど、アンナはもっと自分の価値を自覚した方が良い」


「レイドヴィル様がこんなにも評価なさるとは。アンナ嬢とはそれ程に優秀な人物なのですか?」


 騎士の一人が出した質問に、レイドヴィルが首を振る。


「優秀なんてものじゃないよ。情報に目を通しただけでも相当だったけど、実際目にすると分かる。彼女は方向性こそ違えど僕と同じレベルの異常だ。この年齢で既にナリアさんと同程度の魔術出力。これで知識と技術を学べれば、王国最高の治癒術師が入れ替わるよ。確実にね」


「なんと……!そこまでとは……」


「あれなら王国の弱体化を望む帝国が欲しがるのも頷ける。資料にはあとで修正を加えておくよ。それから国にも報告を。『竜の牙』を潰した後も警戒を怠らないように伝えないと」


「承知しました。それともう一つ、今日の成果についてもご報告しておきます」


「ああ、頼むよ」


 頷いた騎士が部下に指示を出し、持って来させたのはここベールドミナの地図だった。

 それは街の全体像ではなく、レイドヴィルとニアにとっては非常に見覚えのある地形で――


「これは……学園の周りの地図ですか?」


「うむ。ニア嬢の言う通りこれはアルケミア学園から学園寮までの周辺を描いた地図です。そしてこれが……」


 指さした五ヶ所には赤字で丸が付けられており、それらは全てついさっきの帰りにも通った、通学路を見渡せる位置ばかりであった。


「今回『竜の牙』と思われる連中がアンナ嬢誘拐を企てていた場所になります」


「こんなに……」


 騎士の報告に、ニアが驚きの声を漏らす。

 これは帰りのメンバーでレイドヴィルとニアしか知らない事であったが、今日の放課後の帰り道、裏では『竜の牙』によるアンナ襲撃計画が動いていたのだ。

 潜伏場所は五ヶ所、そして各地点に五人ずつの計二十五人。

 その殆どが王国で調達されたならず者達でこそあったものの、『竜の牙』、ひいては帝国がどれだけアンナという一個人を重要視しているかが良く分かる力の入れようだ。

 しかし、それも全て失敗に終わった。

 事前に銀翼騎士団(シルバーナイツ)に察知され、更には返り討ちに遭ってしまったからだ。

 だが如何に銀翼騎士団(シルバーナイツ)と言えども、神出鬼没の犯罪者集団の動向を常に掴んでいる訳では無い。

 もしも把握していれば、既にこの問題は解決しているだろう。

 そこで今回の襲撃を予想したのが、他でもないレイドヴィルである。

 曰く「目的が誘拐ならそう何回も回数を掛けていられない。既に入国から二ヶ月、彼等程経験と実力のある組織なら、偵察がてら一度目の刺客を送り込んで来る筈だ」と。

 今回は、そんなレイドヴィルの予想が見事に的中した形だ。

 しかしレイドヴィル発案のアンナ警護計画は、本来は一週間から二週間を目安とした長期的な作戦だったのだが……


「まさか初日で掛かるとは思わなかったよね」


「本当ですよ。今日は配置の確認がてらと思っていたのに。いえ、気を抜いていた訳ではないのですがね」


「あたしも驚きました。レイドヴィル様には事前に指示のジェスチャーについてお話しして頂いてたんですけど、いきなりすぎてボロが出ちゃったかもです」


「この失敗は次に生かそう。幸い気付いたのはシアだけみたいだし、彼女は特別勘が良いから」


 ニアの言うジェスチャーとは、レイドヴィルがシア達との会話の中で見せていた仕草の事で、予め決めていたパターンによって待機している騎士達に指示を送るというもの。

 レイドヴィルは監視の視線に気づき次第、ジェスチャーを通して指示を出し作戦を遂行していたのだ。

 確かにニアは会話の途中不自然な挙動を見せる事はあったが、レイドヴィルはそこまで問題視していない。

 襲撃されているという事実はそれだけで精神の負担になるだろうし、ボロが出たと言っても、違和感に気付いていたのはレイドヴィルの見る限りバレンシアだけだ。

 その証拠に、ザック達も違和感は抱いていなかった。

 ニアは元々、レイドヴィルの学園でのサポート役として教育を受けてきたメイドなのであって、潜入や諜報を専門とする人員として育てられてきたのではない。

 教育の過程でローゼルからそれに類する技術を学んでこそいたが、やはり実践レベルには届かない。

 適材適所という言葉があるように、レイドヴィルにはレイドヴィルの、ニアにはニアの適所というものがある。


「それで、作戦の成果としては?」


「はい。結果は五ヶ所全てで襲撃を阻止。欠員は無く、完全な勝利と言って良いでしょう」


「そうだね」


「敵組織の内訳としましては、『竜の牙』構成員と思われる二名を確保。ならず者二十三名の内十名は確保し、残りは死亡しました。現在構成員二名を尋問中です」


「うん、完璧な結果だ」


 思い描いていた通りの最善の結果に、レイドヴィルが唇を緩ませる。


「何を仰います。これもレイドヴィル様の予測あっての結果ではありませんか。我々一同、レイドヴィル様のような主君に仕えられる事を嬉しく思っております」


「……それ、母上の前でも言えるの?」


「や、確かに現当主であらせられる母君も立派な主君ではございますが。しかし、母君の前で同じ台詞を言っても喜ばれるお姿しか見えませぬな……」


「それは……うん、そうかもしれない」


 苦笑する二人の脳裏に浮かぶのは、満面の笑みでレイドヴィルの成長を喜ぶ母親の顔だった。

 レイドヴィルの母、アルシリーナ・フォード・シルベスターは生粋の親バカだ。

 上級貴族には珍しく、己の子を自らの手で育てようと考えるような、どちらかと言えば身分の高くない人間に似た価値観を持つ女性。

 銀翼騎士団(シルバーナイツ)団長としての多忙さから、アルシリーナの願いこそ叶わなかったものの、その愛は確かにレイドヴィルに届いていた。

 幼少の頃は兎も角、今はそう思う。

 だからこそ、レイドヴィルは騎士達の忠誠に応える為に、今回の任務を成功させようと決意を新たにするのだ。


「じゃあ僕からも簡単だけど報告を。学園でのアンナの様子はローゼルが事前に調べた情報と変わらない。人見知りから学園内の友人は殆ど無し。でも同じSクラスには話せる人物が少数だけどいるから、孤立している感じではないね。僕も学外演習の班で同じになったし、これから距離を縮めていくつもりだから、追加で分かった事があればまた報告するよ。何かアンナに関して質問はあるかな?」


 レイドヴィルの言葉に手を挙げたのは、まだ若い騎士だった。

 若いと言ってもレイドヴィルやニアよりも年上若輩の身でありながらこうして臆さずに質問を出せるのは、騎士達の新人教育が行き届いている証左だ。


「アンナ様の護衛に王国は動かないのでしょうか?アンナ様程の人材であれば、正騎士団との共同任務になってもおかしくはないと思うのですが」


「国は正騎士団を動かすつもりは無いみたいだ。あっちは数で上回ってるけど、要人警護はどちらかと言えば僕達の方が得意だからね。正騎士団は今も『竜の牙』の捜索で忙しいだろうし、僕達が少数精鋭で陰から護衛する形で継続する事になる」


「成程……ありがとうございます」


 納得した様子の騎士を見て、レイドヴィルが微笑む。

 その後も幾つかの質問に答えて、ベールドミナ支部初の秘密会議は幕を閉じた。


「それじゃあ捕らえた構成員から話を聞き出せたら報告頼むよ。特に残りの『竜の牙』の潜伏先についての情報は急ぎでね。まあ望み薄だろうけど」


「はっ、承知しました」


「それから、アンナの護衛に回す人員は二人か三人に削減を。連続で狙われる事は無いだろうから、残りは通常任務の方に回してくれて構わない。勿論警戒は怠らないようにだけど」


「畏まりました。それではレイドヴィル様、ニア嬢。ご足労頂きありがとうございました」


「うん、皆もお疲れ様。ニア、行こうか」


「はい、お疲れさまでした」


 一糸乱れぬ敬礼をする騎士達に別れの言葉を言い、レイドヴィルとニアは地下会議室を後にした。

 再び来た道を戻り喫茶店の様子を見たが、先程と変わらず客の一人も来てはいない。

 相も変わらず、暇そうに立ち尽くすジャンドの姿が見えるだけだ。

 と、そのジャンドが二人に気付き手を挙げる。


「お。無事終わったみたいっすね」


「ああ。用も済んだし僕達はそろそろ帰らせてもらうよ」


「もうお帰りっすか?どうせなら飯でも食ってってくださいよ。ご馳走しやすよ」


「悪いね。帰ったら友人とご飯を食べる約束があるんだ。後でお腹に入らなくなってもあれだし、また今度にさせてもらうよ」


「……坊ちゃんの腹に飯が入らないとか何の冗談すか」


 健啖家という言葉すら生温いレイドヴィルの冗談にツッコミつつ、無理に引き留めるつもりはないらしいジャンドが店の外まで見送りに来る。

 外は空は暗くなったもののまだ暖色が目立ち、季節が春になった事が目に見えて分かった。

 この所、多忙で季節を感じる暇も無かったレイドヴィルには、こうした事でも少しだけ感慨深い気分になる。


「それじゃ、また来るよ」


「コーヒーありがとうございました。とっても美味しかったです」


「どもっす!次来た時は今度こそご馳走させてくだせぇ。経費で落ちるんでお気軽に」


「そういうからくりか。分かった、また今度」


 軽く手を振ったレイドヴィルが歩き出し、そのやや後ろに控えるようにしてニアが歩き出す。


「…………」


「…………」


 二人の間に会話はない。

 今日一日の授業と先の会議で疲労も溜まり、その足取りはゆっくりとしたものだ。

 散歩をするには丁度の心地良い暖かさの中、二人は学園へと続く並木道を通りながら帰路につく。

 それから五分程歩いた所で、ニアが口を開いた。


「あの……」


「ん?」


「アンナちゃんの護衛を減らす件、本当に良かったの?」


 そう問うニアの表情はレイドヴィル改めヴィルの顔色を窺うような、不安そうなものだった。

 恐らくは喫茶店に入ってすぐの会話で、ヴィルの機嫌を損ねたと勘違いし気まずかったのだろう。

 帰りの道中で会話が無かったのも頷ける、とヴィルは納得しつつも、そんな顔をする必要は無いと言い聞かせるように、優しく微笑みかける。

 元より気にする事など何も無いのだ。

 人が人を心配するのは当たり前の事で、正しいのはヴィルでは無くニアの方なのだから。

 ただそれで道を変えるかと問われれば、それは否とヴィルは答えるだろうが。


「ああ、問題無いよ。『竜の牙』程手慣れた組織ならまず連続して狙ったりはしないからね。失敗が続けば当然標的も警戒する。暫く間隔を空けて来る筈だよ」


 余計な不安を与えないよう、ヴィルは殊更に声色明るく言葉を掛ける。

 それにニアも安心したのか、強張っていた顔は普段の柔らかいものに戻っていた。


「その言い方、ヴィルには次の襲撃の予想が付いてるって事?」


「そうだね。僕が相手の立場ならここ、っていう見当自体は。今はそれに対してどう対抗するかを考えてる段階だね」


「それって、いつか聞いても?」


「勿論。――アルケミア学園の学外演習だよ」


 見当と言うにはあまりにも確信に近いヴィルの言葉に、ニアはその首を傾げたのだった。


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