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第32話 模擬戦 二

初心者マーク付きの作者です。

暖かい目でご覧ください。


「それじゃあ夜の件はお願いするとして、さっきの話の続きだ。第四試合はローラ・フレイスとリリア・フォン・ヴォルゲナフについて。ローラ・フレイスについてだけど、彼女はSクラスでも相当特殊な部類に入る魔術師なんだ」


「精霊魔術、だよね。あたしも書類を見た時びっくりしたもん」


「そうその通り。正確には疑似精霊魔術と言う。これは既に世界から消え去ってしまった精霊を人工的に生み出し、短時間の間その疑似精霊を使役する魔術だ。適正属性以外の精霊も生み出せる上に、術師の力量次第で精霊の強さも性質も自由自在。魔力消費が比較的激しいくらいしか欠点らしい欠点が無い、使えさえすれば魔術師数人分の働きも可能な魔術だよ」


「聞くだに強そうだけど、そもそも魔術適性を持つ人自体が少ないんでしょ?ローラさんは確か精霊信仰の巫女の家系だったから、それも関係あったりするのかな」


「血で受け継がれた可能性もあるだろうね。僕やシアなんかがその例だよ」


 何か気になる事があったのか、今行われている第六試合の様子に気を取られちらと見つつ、ヴィルは気を取り直して続きを話す。


「えーと……次はリリア・フォン・ヴォルゲナフについてだったね。ヴォルゲナフ伯爵家は王国史から見ても、シルベスターと同じくらいの時期から王国史に名の上がる由緒ある名家で、リリアは光属性魔術を得意とする魔術師の典型だね。明るい性格と愛らしい容姿が相まって、仕える者達からも慕われているらしい」


「リリアちゃんなら話したことあるよ。話してて面白いしちっちゃ……可愛いよね!」


 本人が聞けば不服だと訴えたであろう発言もあったが、あくまでも褒める意図でのものなので許して欲しい。

 と、そこでニアの視線が、時折闘技場の中央へ向けられているのに気付く。

 ……その気持ちは大変によく分かる。


「あぁーと……ニアも気になってたり?」


「なってたりするね。ていうかあれは誰でも気になるよね」


「確かに」


 ヴィルとニアの視線の先では、今も模擬戦の第六試合が行われているのだが――


「フハハハハハ!我が魔眼の威力、その身をもって知るがいいッ!!」


「くっ!こんなふざけた相手に負けるだなんて……!」


 ヴィルがこれから説明しようと思っていた一人である、フェリシス・フォン・クトライアが対戦相手に圧倒されていた。

 それについてはまだ良い、良いのだが、その相手というのが問題だ。

 先程から漆黒だの久遠だのと、厨二病ワードを言い放つ黒髪の少女。

 所々紫の混じった黒髪を振り乱し、実に様々なポージングを取りつつフェリシスを追い詰めている。

 童顔の彼女の最も目立つ点は、発言は勿論の事だがその眼だろう。

 右目が黄色、左目が紫色のオッドアイ、両の瞳に魔眼のクォントを携えたその少女の名こそ――


「――クロゥ・フォン・ヴォルゲナフ。ヴォルゲナフ分家の末妹にしてリリア・フォン・ヴォルゲナフの従姉妹に当たる人物。王国……いや、歴史的に見ても二人といない、驚異的な確率の元に生まれた奇才だよ」


「両目が魔眼なんて聞いたことないんだけど、過去にはいなかったの?」


「記録の限りではいなかったね。そもそもクォントを授かる確率自体がかなり奇跡に近いんだ。その奇跡の中で更に天から二物を授かったなんて、僕も最初ローゼルから聞いたときは耳を疑ったよ」


「ヴィルがそう言うならそうなんだね……じゃあどうしてああいう言動をするようになったのか聞いても?」


「ごめん、流石にそこまでは何とも。ただ魔眼についての情報はあって右目が魔力吸収、左目が魔術破壊だって。前者は自身の魔力と引き換えに対象の魔力を失わせるもので、後者は自身の知りうる魔法陣を破壊するものらしいよ。あとついでに強烈なキャラのせいで忘れてたけど、フェリシス・フォン・クトライアはマーガレッタと行動を共にする事が多い水魔術師だ。ニアが次の第七試合で戦うマーガレッタ・フォン・アルドリスクの取り巻きと言えば分かりやすいかな」


「――マーガレッタ、あの時の性悪ね」


「ああ、彼女の得意魔術は……」


 ヴィルがそう言いかけた所で、ニアが手を突き出し制止する。

 話し始めれば、ヴィルがマーガレッタの戦い方や弱点についても言及してしまうかもしれないと思ったのだろう。

 どうやらアドバイス無しの、自分の実力のままに戦いたいらしい。

 それを察して言うのを止め、微笑んで一言、一人の友人として言葉を送る。


「――ニア、頑張って」


「もっちろん!あのグルグル髪引っ張りまわしてやるわ!」


 そう言って意気揚々と歩き出すニア。

 その足取りはとても軽く、緊張もしていないようだ。

 だが……


「……よりによってマーガレッタか」


 口の中だけで呟き、友人のくじ運の無さを嘆く。

 マーガレッタ・フォン・アルドリスク――ヴィルが今回の模擬戦で、最も当たりたくないと考えていた相手の一人。

 これが二対二の戦いならばまだどうにかなったのだが、一対一の模擬戦ではある程度電気対策を出来るヴィルであっても、マーガレッタに勝つ可能性は限りなく低い。

 無論それはヴィルがマーガレッタであった場合に選ぶ最適解を、マーガレッタが選べればという話ではあるが。

 ――『雷麗』マーガレッタの本領は、一対複数にこそある。

 オリジナル魔術『避雷身』、そして『被雷身』。

『避雷身』は主に自身と味方に付与する防御用の魔術で、文字通り体外からの電撃を遮断する効果がある。

 通常雷物理魔術師が自爆を避ける為、魔力障壁にリソースを割きながら戦うのに対して、マーガレッタの場合は一度『避雷身』を発動するだけで、魔力リソースの殆どを攻撃に回す事が可能になるのだ。

 実質的に一度の防御だけで自身の魔術に巻き込まれる心配が無くなるというのは、雷物理魔術を使う上で大きなアドバンテージとなる。

 対して『被雷身』は攻撃用魔術。

 相手に誘電性を付与する事で、雑に雷を放っても対象へと収束し、一定の効果を得られる優れもの。

 この二つの魔術をもってすれば、例え相手が自分よりも格上の相手でも、半ば自爆のような形で一方的に蹂躙する事が出来る。

 遠距離攻撃手段を殆ど持たないヴィルにとっては、相性最悪の相手。

 そして本来後方支援が役目のニアにとっても、それは同じ事と言える。


「さあ、ニアはどう対抗する」


 第六試合を制したクロゥの独特な哄笑を聞きながら、ヴィルは考え得る限りのニアが打つ手を予想し、頭の中に並べていくのだった。


 ―――――


 思索に耽るヴィルからやや離れた観客席、バレンシアとヴァルフォイルの二人が座って模擬戦を観戦していた。

 バレンシアは姿勢よく、ヴァルフォイルは肘掛に肘を乗せ不満げに。

 対照的な二人だが、たった今まで同じ感情を抱いていた。

 それは、


「何と言うか……独特なのね、彼女」


「……クロゥとか言ってたか?強さは認めるがなんだありゃ」


 クロゥとフェリシスの模擬戦を見た感想、困惑だった。

 闘技場中に謎の笑い声を響かせながら退場していく彼女は、誰がどう見ても変人である。

 しかしクロゥの強さもまた本物であり、そこはバレンシアも認める所。

 闇魔術と剣を併用した変幻自在な戦い方は、真似をしようとは思わないが、相手にすると厄介だと感じさせる強さがあった。

 ……戦い方も厄介だが性格も厄介、当たりたくない相手である。


「次はニアの出る第七試合ね。相手はマーガレッタだけど、ヴァルフォイルはどう思う?」


「…………」


「ヴァルフォイル?」


「……あ?あぁ悪ぃ、聞いてなかった」


 不機嫌そうにどこか遠くを見ていたヴァルフォイルに、バレンシアがため息をつく。

 ヴァルフォイルはこの模擬戦が始まって、バレンシアの隣に当然の権利のように座ってからこの有様だった。


「どうしたのヴァルフォイル。さっきからずっと上の空よ?一体何を……」


 ヴァルフォイルの視線を辿って同じように見ると、丁度バレンシア達の座る席の対岸の辺りに、ヴィルとその隣に少女が座り楽しげに話していた。

 あれを見て何を不機嫌になる事があるのか。


「ヴィルと……あれはレヴィアね。二人がどうかした?」


「……アイツ、さっきはニアとかいう女といやがったな」


「それがどうしたというの。はっきり言いなさい」


「…………」


 厳しい口調で追い詰めるも、ヴァルフォイルはムスっとした表情のまま答えない。

 基本的にヴァルフォイルは、強者と気に入った相手にしか興味を持たない男だ。

 ヴィルは紛れもない強者だが、確実に気に入った相手ではない。

 だとすれば……もしや。


「もしかしてあなた、最近私がヴィル達と付き合っているからって嫉妬してるんじゃないでしょうね」


「チッ…………」


 またもやだんまりを決め込むヴァルフォイルだが、長年付き合いのあるバレンシアからすれば考えずとも分かるもの。

 もう何度目かも分からない溜め息を吐きながら、冷めた眼つきでヴァルフォイルを見る。


「本当に呆れた。だからあなたはいつまでも子供なのよ。別に私が誰と友人になろうとあなたに咎められる謂れはないし、私が誰かと友達になったとしてもあなたと友人でなくなる訳でもない。最近大人しくしてたかと思えば、全く……」


 頭痛を堪えるように手を当てるバレンシアを見て、ようやくヴァルフォイルが重い口を開いた。


「ニアと一緒にいたかと思えば今『面食い』といて、シアとも仲良さそうに話してやがる。気に入らねぇよ」


「はあ、やっぱりそれが原因じゃない」


「うるせぇ」


 ヴァルフォイルは子供の頃から本当に変わらない。

 昔からバレンシアがパーティーで男の子に話しかけられれば、その相手を睨みつけていた。

 子供の頃ならばそれも愛嬌だったが、もう飲酒も出来る歳で独占欲を出されては敵わない。

 拗ねる子供のようになってしまったヴァルフォイルを横目に、再び反対側を見る。

 そこには相変わらず楽しそうに話すヴィルとレヴィアの姿がある。

 確かレヴィアからの告白は断られたものの、友人として関係を築いていたのだったか。


「一応言っておくと私とヴィルは何ともないし、ニアだってそういう関係じゃないし、レヴィアだってそう。彼は誠実な人間よ。ヴァルフォイルの考えているような事は無いわ」


「……シア、ほんとにあの野郎を信用していいのかよ」


「ヴァルフォイル、いい加減に……」


「そうじゃねぇ、純粋にあそこまで実力を隠してたアイツぁ!絶対にただもんじゃぁねぇんだよ!試験の時のオレは素人だって言ったんだぞ?ちょっとでも鍛えてりゃすぐに分かるオレがだ!普通に生活してりゃそんな隠蔽技術いらねぇ、育たねぇんだよ!なのにアイツは完璧に隠してやがった!」


「ちょ、ちょっと、落ち着いて!…………そうね」


 必死の形相で訴えかけるヴァルフォイルに、バレンシアにも一考の余地が生まれる。

 ヴィルが何か裏組織のようなものに関与している姿は想像もできないが、素性を調査するくらいなら何という事はない。


「……分かった。そこまで言うのなら今度の休みに家の者に調べさせる。けど、それで何も出なかったら諦めて頂戴」


「……あぁ、それでいい」


 ちっともそれで良くなさそうな表情をしているが、ヴィルの過去についてはバレンシアも元々興味があったのだ。

 バレンシアがヴィルから聞かされた過去は触り程度、物心ついた時にはニアと一緒にいたという事。

 今の孤児院であれだけの実力を身につけたという事だけ。

 かなり情報が少ないが、あまり人の過去を詮索するのは良くないと思い、それ以上聞く事をしなかった。

 だがヴァルフォイルがここまで警戒するという事は、或いは何かあるのかもしれない。

 何か出れば儲けものくらいに思って、バレンシアは家に手紙を出す事を決めた。


「両者位置について。――第七試合、開始!」


「「『御天に誓う(フィーリア・リレイル)』!」」


 マーガレッタ・フォン・アルドリスク対ニア・クラントの模擬戦、第七試合が、始まる。


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