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第192話 ダンスパーティー 一

新キャラ祭りで大変だぁ

 

「今夜のパーティーは限られた人だけが呼ばれると聞いていたのだけれど、案外多いのね」


「そうだね。帝国側の人間は殆ど全員参加、王国側は貴族とその息子や娘なんかも参加するみたいだから、人数的にはかなり多くなってるんだと思う。こんな機会でもないと帝国との繋がりは出来ないだろうし、それを抜きにしても他の滅多に会えないような貴族と交流出来る良い機会だから、ここを逃したくないんだろうね」


 眼下、会場で大勢の参加者達が歓談する様子を見て、ヴィルとバレンシアが話している。

 ヴィルの貢献の甲斐あって、バレンシアもクレアも何とか機嫌を取り戻し、一行は会場の外でダンスパーティーが始まる時を待っていた。

 ヴァルフォイルとザックはクラスメイトの視線やダメ出しで針の筵だったが、こればっかりはヴィルにも手を差し伸べる事は出来ない、自業自得として甘んじて受け入れてもらおう。

 二人の側にはヴァルフォイル、カストール、クラーラ、マーガレッタ、フェローの姿があり、男女の違いはあれど、もれなく全員がタキシード姿であった。


「良し、これで揃ったな」


 そこへSクラスを受け持つ担任として、交流会各所で責任者を務めているグラシエルがやって来た。

 不敵な笑みを化粧で飾り、刺繍の凝った黒いドレスを女性らしさに富んだ身体に纏い、背中には相変わらず凄まじい質量を誇る頭髪存在しているが、今日は場に合わせて綺麗に纏められている。

 その後ろには、アステローゼ率いる帝国の生徒達の姿があった。

 彼女達は総勢七名、Sクラスから選ばれた生徒の数と同じであり、こちらは全員がパーティー用のドレスに身を包んでいた。

 この十四人は二校から選ばれ、ダンスパーティーの開幕に伴って最初に踊る七組であり、それぞれ異なる学園の生徒同士で踊る事となっている。

 しかしここで問題となってくるのが、帝国側が女学院であるのに対し、王国側が共学にも拘わらず男子生徒の数が足りないのだ。

 こればかりは時代年代の問題でもあるが、しかし対処は必要である。

 そこで誰が言ったか女子生徒に男装をさせて、男性パートを踊って貰う事で解決しようという意見が出、しかもそれが可決されたのだ。

 男装が決定された事に伴って、それならば人数を合わせるついでに開幕に踊る生徒を家柄的に華やかなものにしようと、代表のヴィルを除いて貴族で固めた結果、今のような人選に決定していた。


「それでは各自ペアを組んでくれ。あまり時間も無いから急いでな」


 グラシエルの号令で、それぞれペアが組まれていく。

 何やら賑やかな様子だが、ペアの決まっているヴィルにとっては少々寂しい時間である。

 好奇心旺盛なヴィルとしては、可能な限り多くの生徒から帝国についての情報を仕入れたい所。

 王国貴族としての義務ではなく純粋な興味の問題だが、これを逃せばそう機会も無いのだ、自分で選んだ役目とはいえ惜しいものは惜しい。


「おや、(わたくし)ではご不満かしら?」


「これはアステローゼ様」


 悪戯っぽく目を細めながら、ヴィルの踊る相手であるアステローゼが話し掛けてくる。

 今回アステローゼは帝国の主役という事で、目が醒めるようなド派手な深紅のドレスでパーティーに参加していた。

 ドレスに、指輪に、ネックレスに、イヤリングにそれぞれ大きな宝石があしらわれており、照明の光が反射してきらきらと輝いている。

 遠慮や謙遜を一切考慮しない、他を排して目立つその姿は帝国らしい装いだ。


「不満だなどと、とんでもございません。こうしてアステローゼ様の手を取り、開幕のダンスを共にするなど正に望外の喜び。光栄の念を抱きこそすれ、不満などあろう筈がございません」


「ええ、そうでしょうとも。とはいえ私というパートナーを横にして表情を陰らせるとは、帝国であれば罪ありと首を刎ねられかねない不敬ですわよ?」


「これは申し訳ありません。アステローゼ様のあまりの美貌に見惚れてしまいまして、少々放心してしまいました」


「何ともその場しのぎな発言ですが……まあ許しましょう。出任せでも溜飲が下がりましたもの」


 勝ち誇った笑みを浮かべて背後を振り返るアステローゼ。

 ヴィルがその視線を辿ると、丁度バレンシアがさっと顔を背ける所だった。

 首を傾げるヴィルの耳に、会場から重なる拍手の音が届く。

 疑問は解消されぬまま、スタッフの案内で入場が始まる。


「それではアステローゼ様、お手を拝借しても?」


「ええ、喜んで」


 ヴィルの差し出した掌に乗せられたアステローゼの手は驚く程に細く、そして意外にも温かかった。

 会場への扉が開くと共に大勢の拍手に迎えられ、ヴィルとアステローゼを先頭に七組のペアが会場入りする。

 それを見た参加者達はその美貌に感嘆を、その男装に歓声を、その存在感に息を呑み、男性又は男性役のパートナーに手を預け、ゆっくりと階段を降りていく。

 そうして七組が会場の真ん中に揃ったところで静寂が満ちる。

 ペア同士が向かい合い、両の手を合わせて開始の合図をじっと待つ。

 そして、


「~~~~♪」


 ピアノの旋律が走ると同時、一つ目のステップが弧を描く。

 ステップが始まった瞬間、まるで時間の流れが変わったかのようだった。

 高らかに鳴り響くピアノに続きバイオリンが重なると、踊る十四人の影が一斉に揺れる。

 絹とサテンがふわりと踊り、宝石の煌めきが天井のシャンデリアと競うように瞬き、観客達の視線は一斉にその中心へと吸い寄せられる。

 ヴィルとアステローゼは軽やかに旋回した。

 アステローゼのドレスの裾が大きく広がり、さながら紅蓮の華が咲き誇る軌道を描く。

 その動きには一切の無駄や硬さが無く、貴族舞踏としての優雅さを極めていた。

 他の生徒達もまた練習の成果を遺憾無く発揮し、人の目を引く華々しい踊りを披露してみせる。

 回転し、前進し、後退し、立ち位置を入れ替え――

 全ての動作が一連の流れとして繋がり、まるで七組の舞踏が一つの巨大な星図を描いているかのようにも見える。

 星々が起動を滑り、交差し、遠ざかり、また重なる。

 次第に音楽が終わりへと向かい、フィナーレ前の盛り上がりを見せていく。

 それぞれのペアが最後の動作へと姿勢を整え、アステローゼも身を翻してヴィルの腕の中に納まると、ヴィルはその細腰を確かに支え、くるりと一回転。

 そしてピアノの最後の音が鳴り終わると同時に、七組は同時に動きを止め、恭しく一礼。

 一拍遅れて、嵐のような拍手と歓声が会場を埋め尽くした。

 それは最早単なる舞踏に非ず――まさしく、両国の未来が紡がれていく象徴であった。


 ―――――


「あァ、腹減った」


 ヴァルフォイルは一人、料理の盛られた皿を持って会場を歩いていた。

 開幕の義務も終わり、直後は数人からダンスの誘いを受けたが、それももう限界だ。

 元よりパーティーの類いは苦手だし、女性の扱いは慣れないし、何より腹が減る。

 今回のパーティーも大量の料理が用意されていたが、例に漏れず中々減る気配が無い。

 余裕のある貴族程食事にがっつかない為、ヴァルフォイルのような貪欲な者が好きな料理を取れるのは良いが、目立つ所で食べていようものならすぐさまダンスの誘いが来て、落ち着いて食事もとれやしない。

 故にヴァルフォイルは一人で静かに食事が出来る、そんな場所を探していたのだが、


「お」


 カーテンで遮られた窓の外、テラス。

 よく酔いの回った者が夜風に当たっている所を見るが、今回はカーテンが幸いしてか人の数が少ない。

 一人だけ先客が居るがそこまで狭い空間でもない、許してくれるだろう。

 そう判断したヴァルフォイルは極力物音を立てないよう扉を開け、カーテンを閉めた上でテラスへ出た。

 先客から見て反対側へと陣取り、ようやく食事にありつけるという所だったのだが……


「む……」


「あん?」


 先客に話し掛けられたヴァルフォイルは、渋々といった様子で返答しつつ世闇に目を凝らす。

 夜闇に紛れる紺青色の髪、きつく釣り上がった眉、どこか迷惑そうにヴァルフォイルを見る目……ふと気付く。

 その人物は偶然にも、その先客は開幕でヴァルフォイルと踊った帝国の生徒だったのだ。


「むぐ……」


「あー……おう、偶然だな」


 面倒な事になった、それがヴァルフォイルの素直な気持ちだった。

 折角気ままに空腹を満たせると思っていたのに、相手が元パートナーとなれば気乗りせずとも多少は会話しなければならないだろう。

 帝国語もそこまで得意では無いしどうしたものかと悩んでいると、ふと相手の手に骨付き肉が握られている事に気が付いた。

 更に反対の手にはヴァルフォイルと同じ皿があり、そこにはヴァルフォイルに負けず劣らずの量の料理が盛られているではないか。

 もしやと、ヴァルフォイルの脳裏に一つの考えが浮かぶ。


「もしかして、あんたも飯食いに来たのかよ」


 こくり、と元パートナーが頷いた。

 やはりと思いつつ、何故言葉で返事をしないのかと怪訝に思っていると、その口元がもごもごと動かされている事に気付く。

 何の事は無い、彼女は最初から口一杯に骨付き肉を頬張っていたのだ。

 思わずヴァルフォイルの口から笑い声が漏れる。


「何が、愉快だ?」


 咀嚼し、嚥下した元パートナーがヴァルフォイルを睨みつける。

 その王国語はややぎこちないものであり、ヴァルフォイルと同じで異国の言葉に不慣れな事がすぐに分かった。

 親近感、それがヴァルフォイルの胸に去来した感情を、最も的確に表す言葉だっただろう。


「いや、悪ぃ。別にバカにするつもりぁなかったんだ。ただ一緒っつか、似てたんだなって思ってよ。踊りが終わってから気付くのも何なんだが」


 そう言ってヴァルフォイルは、自分の持っている皿を持ち上げて見せる。

 それを見た元パートナーはこくりと頷き、再び骨付き肉に齧り付いた。

 ヴァルフォイルは苦笑しつつ、自分も食事に集中しようと皿から料理を取る。

 ただ二人無言で食事をとる、奇妙な時間がしばらく流れた。

 しかし、料理も食べ進めていればいつかは無くなるもの、先客の元パートナーの皿がいち早く空になり、料理を補充しようとテラスから出て行こうとする。

 と、そこで何を思ったか、ヴァルフォイルは口の中の料理を急いで飲み込み、元パートナーを呼び止めた。


「ちょっと待ってくれや!」


「?」


「あー……『あんたの、名前は?』」


「……レオノーラ。レオノーラ・ヴォール・レーヴェンハルト」


「その名前、覚えたぜ。オレはヴァルフォイル・リベロ・フォン・バーガンディー。交流戦、楽しみにしてんぜ、レオノーラ」


『ヴァルフォイル……良いだろう。次は戦場にて相見えよう』


 互いに異なる言語での宣戦布告、或いは言葉の正確な意味すら伝わっていないかもしれない問答。

 だがそれで良かった、きっと言葉はいらないから。

 その後、二人はお代わりを確保した後に再度バルコニーで相対する事になるのだが、無粋を語るのはここまでにしておくとしよう。


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