第137話 天才博士と銀聖三星 四
いきいき書いてたら8000字を超えてしまいました、ご了承ください
初心者マーク付きの作者です
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実験が終わって数時間、闘技場には百人を超える騎士達が集まっていた。
全員が純白の騎士服に身を包み、それぞれの得物を持って集合する姿は壮観で、漲る闘志はこれから戦場に赴くのかと錯覚してしまう程である。
しかしそれもあながち間違いでは無い、彼ら彼女らが集う中心、実験器具が運び出され空白となった闘技場の中心にはレイドヴィルが居り、彼を取り囲むように円形に騎士達が待機していたからだ。
クレジーナの提案を受け、やるなら善は急げとニアが動き、非番で丁度訓練を行っていた騎士達に自由参加という形で軽く声を掛けた結果がこれである。
皆一様に久し振りにレイドヴィルと顔を合わせたい気持ちと、魔術具の補助ありとはいえ全盛期の力を取り戻したというレイドヴィルと手合わせをしたい気持ちで模擬戦へと参加していた。
訓練後で疲労も相当なものだろうに、それでもこうして善意で参加してくれたのはレイドヴィルが部下達に慕われているという点も作用していたのだろう。
どっちにしろこれだけの人数が揃ったこの状況は、クレジーナの戦闘データを集めるという目的を十分以上に満たしていた。
「それにしても、こんなにも人が集まるとは完全に想定外でした。分かっていた事ではありますが、随分と慕われておいでなのですね」
「自分で言うのもなんですがそのようです。全く、皆暇なのかい?」
レイドヴィルから呆れた口調でそう問われ、集団の中に笑い声が伝染する。
実際レイドヴィルとしては、任務が無いのならばせめて訓練に集中するか休息に専念するかして欲しいというのが本音だ。
しかしすぐに、向こうも本来ならば続いていた訓練を切り上げて模擬戦を優先してくれたのだと思い返し、レイドヴィルは無くなった訓練の分をこの模擬戦で鍛えてもらおうと考え直す事にした。
ちなみに今はレイドヴィルの傍で会話をしているクレジーナだが、模擬戦が始まる時には闘技場の舞台の外へ出て模擬戦を見守る事になっている。
彼女は魔術師としては未だに現役だが、両足の感覚を失った事で実戦に堪える体では無くなっていた。
「皆様の昼食の時間を奪ってしまっては何ですから、早速始めましょうか。準備はよろしいですか?」
クレジーナの呼びかけにおうやらいつでも行けますよやらの大合唱が起こり、あまりの威勢の良さにレイドヴィルと二人顔を見合わせて苦笑する。
それから予定通りに舞台を離れたクレジーナは、模擬戦の保護術式の準備の為に闘技場に設置された装置を弄りに行った。
それを横目に、レイドヴィルは深呼吸を繰り返し意識を集中させていく。
身に纏う鎧の感覚と地面に横たえられている剣の存在、これらは今のレイドヴィルにとって必須とも言える装備だったが、こうして実戦に持ち込むにはあまりに練度が不足していた。
断鎧はともかくとして問題は意剣だ、模擬戦の人を集める合間に多少練習の時間が取れたとはいえ、やはりまだ四本同時接続は脳に強い負荷が掛かる。
そのただでさえ脳への負担が大きい意剣を、実戦では更に複数の相手に対して、ただ振り回すのではなく剣技として振るわなければならないのだ。
急に腕が四本も増えたかのように錯覚する違和感を前に、どうやって対処していくかが今のレイドヴィルの課題だった。
しかもレイドヴィルが考えなければならない点はもう一つある。
それは『銀聖三星』を使用する以上ヴィルやレイドヴィルの戦い方では無く、騎士『シルバー』としての戦い方を心掛けなければならないという点だ。
レイドヴィルが得意とする戦術は主に無数の流派を組み合わせた、相手に予想と対策を許さない変幻自在の武術、加えてエネルギー操作を用いた三次元的な戦闘である。
勝利に貪欲で手段を選ばない姿勢はあまり騎士らしくないと感じるかもしれないが、能力を封印されている事と、レイドヴィルが最終的に戦わなければならない相手や背うものの重さを考えれば、そうした戦法を取る理由にも頷けるだろう。
しかし『シルバー』は違う、『銀聖三星』を装備し絶対的な力を誇る騎士はそんな戦い方はしない。
それにだ、空中にまで自在に足場を広げる三次元的な戦法を取る人物は希少で、それをそのまま使ったのでは様々な手段で正体を隠そうとする意味が無くなってしまう。
『霧相の面』は使用者の大抵の情報を包み隠してくれるが、完全ではないのだ。
そういう意味では、この模擬戦は『シルバー』にとって初めての戦闘だった。
「それでは皆様、全力で猛る熱情をぶつけ合い有益なデータの提供にご協力をお願いいたしますね?――模擬戦開始!」
「「「「『御天に誓う』!!」」」」
クレジーナの試合開始の合図と共に無数の宣誓が重なり、全員の輪郭が微かにブレて保護術式が掛かる。
『御天に誓う』――奇跡的に現代まで残った魔法の一つであり、対象者の存在位置をずらす事で傷を与える事無く、安全性を確保したまま寸止めという非実戦的な行為を念頭に置かずに模擬戦を行える保護術式。
多少高価ではあるが使用者を選ばないという利便性の高さが評価され、世界中で広く利用されていた。
個人で持つには厳しいお値段だが、騎士団ともなればその費用も容易く賄える。
保護術式が掛かる僅かなタイムラグの後、数人の騎士がほぼ同時にレイドヴィルに仕掛けた。
全員で掛からないのは同士討ちを避ける為、模擬戦開始時点から数十人を相手に全方位を囲まれている状況の不利については、レイドヴィルに不平不満を訴える気は無い。
只のレイドヴィルとしてならともかく、『シルバー』としての彼はその不利を全く問題として考えていなかった。
「意剣起動!」
そのレイドヴィルが模擬戦開始直後に取った行動は意剣の起動だった。
いくら鉄壁の防御力を有しているとは言っても、今の出力では囲まれ攻撃を受け続ければただでは済まない。
レイドヴィルの詠唱に応え、脳に重い負荷を掛けながらも四本の意剣が滑らかに宙に浮かび上がる。
ちなみに三種の防御術式に関しては既に展開済みだった。
――接近してきた騎士達に対し、意剣の横薙ぎを叩き付ける。
「「「――――ッ!!」」」
只の横薙ぎ、されど四本。
ほぼ全方位をカバーする意剣の斬撃は、熟練の騎士達をして受け損ねる可能性を感じさせる威力を有していた。
初動で仕掛けた騎士の半数が動きを止めるか回避行動を取る。
だが残りの半分は止まらなかった、斬撃を飛び越え、或いは掻い潜り、レイドヴィルに迫ってくる。
その内の一人に対してはレイドヴィルが手に持っていた剣をぶつけたが、その他の相手には対処する手段が無い――否、対処の必要それ自体が無かった。
――快音。
レイドヴィルに振るわれた斬撃の数々が、彼の肉体はおろか鎧にさえ触れる事無く寸前で静止している。
それはまさしく防御術式の効果だ。
仕掛けた騎士は少しでも食い込ませようと力を込めるが、剣はそれ以上進まず微動だにしない。
少し前にレイドヴィルの防御は魔力装甲・圧縮空気層・エネルギー分解力場の三種から構成されていると解説したが、それでは説明が不十分だった。
この三種の防御術式は層のようにして折り重なっているのではなく、全く同一の座標に存在しているのだ。
圧縮空気層については説明の必要も無い物質だが、魔力装甲に関してはその名の通り魔力である。
魔力は物質とも重なって存在できるエネルギー、そしてエネルギー分解力場は魔術による効果の領域。
故にこの状況、剣にはレイドヴィルの体表五センチ内に存在する三つの防御術式が同時に作用していた。
その結果動きの止まった騎士達、そんな隙を見逃すレイドヴィルでは無い。
純白の剣が三度振るわれ、急所を抉られた四人が同時に消失する。
レイドヴィルが使用した剣技は、紛れも無く銀翼騎士団の銀華流のものだった。
「防御に問題は無し、と」
既に防御術式の発動に問題が無い事を確認したレイドヴィルだったが、実際に攻撃を受け止められるかどうかには一抹の不安が残っていた。
しかしこの結果を見て最後の不安も解消された、この騎士達の剣撃を受け切れるなら大抵の攻撃は凌げるだろう。
などと悠長に思考する間にも攻撃は止んでいない、彼ら彼女らはそのように甘い教育を受けてはいない。
――騎士達の連携には目を見張るものがあった。
一人目が肉薄しすれ違いざま、鎧を纏っていない足の健を狙ってくる――空気層が阻む。
二人目が顔を狙い目眩ましの魔術を発動、その隙に三人目が大上段からの袈裟斬り――魔力装甲が魔術を防ぎ、閉ざされた視界は『第二視界領域』が代わりを務めて斬撃を手甲で受け、返す剣技が騎士を軽装甲ごと両断する。
四人目、生じた僅かな隙に老齢の騎士が鎧通し(この場合は拳術としてのもの)を背後から見舞う――発生した貫通衝撃は分解力場によって無害化され、騎士は戻って来た意剣の餌食となった。
それ以外にも多くの騎士が仕掛けていたが、その多くが意剣の防御と攻撃により阻まれる。
幅広の刀身を持つ意剣は、面で受けるだけでも相応の防御力を発揮している。
年齢や騎士歴を問わない編成による、相手に反撃の隙を与えない連携は大抵の相手を封殺する。
実際その相手が『シルバー』でさえなければそうなっていただろう。
見知った部下達の成長、数年前とは明確に違う彼ら彼女らに対し、レイドヴィルは心からの賛辞を胸中から送る。
それ以上の言葉は尽くせない、今はそれ以上の雑念を抱く余裕が無い。
「目潰しはダメっす!坊ちゃんには『第二視界領域』がありやすから!魔術隊、構え!」
いつの間に模擬戦に参加していたやら、人垣の奥の方からジャンドの声が響き騎士達の動きが僅かに変化する。
汎用性の高い連携から対レイドヴィルへ特化した動きへ、騎士達が下がった事によりレイドヴィルの周りに空間が空き、そこをすかさず魔術隊が狙う。
そして、
「撃て!」
ジャンドの号令と共に魔術隊の一斉攻撃がレイドヴィルを襲う。
飛来する魔術は多種多様、属性や形の縛りも無く物理非物理もバラバラだ。
レイドヴィルはその能力から高い魔術耐性を持っているが、そのエネルギー分解も同時に複数のエネルギーに対処する事は比較的苦手としている。
故にこの戦法は、レイドヴィルをよく知るジャンドが立てた極めて合理的な作戦であると言えた。
――相手がレイドヴィルであれば。
「やったっすか!?」
魔術の多重直撃が奏でる合奏を聞き、期待交じりの叫び声を上げるジャンド。
しかし現実は無情にジャンドの期待を裏切り、煙幕の中から完全無傷のレイドヴィルが姿を現した。
「うげぇ!?あれだけの魔術を受け切ったんすか!?」
そう驚きを露わにするジャンドの采配は決して悪いものでは無かった、魔術隊の出力もたった一人の相手を葬るには十分過ぎるものだった。
それでも尚レイドヴィルが無傷な理由は単純、レイドヴィルがそれらを上回る能力を有していたというだけだ。
だがこれで攻めが終わったかと問われれば否である。
「――ジャンドさんの作戦が上手くいかないのは分かってたよ」
レイドヴィルの左方、『第二視界領域』の有効範囲をほんの僅かに外れた箇所から声が届く。
レイドヴィルはその声が届くや否や、すかさず騎士の相手をしていた意剣の一本を飛ばすが不発。
音の方向的に声の発生源を割り出した筈のレイドヴィルが眉を顰めるが、その彼の右方から煙幕に紛れて急襲してくる人影があった。
しかし悲しいかな、『第二視界領域』を持つレイドヴィルに奇襲の類は殆ど通用しない。
有効範囲の外側からレイドヴィルの認識を超えた速度で侵入すればその限りでは無いが、彼の思考速度もまた超人、少なくとも魔術で強化された銃弾以上の速度は必須だが、そんな速度を出して移動出来る人物は世界に五人と居ないだろう。
それは奇襲を仕掛けた襲撃者も例外では無く、逆にレイドヴィルの反撃を受ける筈だった。
その寸前の事。
「……ピノー」
レイドヴィルの認識で以てしてもギリギリでしか対処出来ず弾かれた腕、飛来物の弾道を視線で辿れば、そこには憧れの存在に文字通り一矢報い、会心の笑みを浮かべるピノーが居た。
彼女は特異な能力を有する優秀な伝令兵だが、同時に弓矢での支援を得意とする弓兵でもあった。
土属性魔術により腕と弓本体を強化し限界を超えて弦を引き、風属性魔術で矢の飛翔速度を底上げする。
二つの魔術を併用した一撃が、襲撃者への対処を刹那だけ遅らせる。
その刹那が襲撃者の奇襲をレイドヴィルに届かせる。
「はぁっ!」
突き出される五指の揃った右手、レイドヴィルは振り返りつつこれを空気層で受け切れると判断、攻撃を無視し空いた脇腹目掛けカウンターの左拳を叩き込む。
しかし結果は空振り、相手は突き出した右手をレイドヴィルの肩に置き、そのまま右上方へと立体的に逃れる。
肩に掛かる体重は驚く程に軽い、いくら日頃から鍛えているとは言っても襲撃者は右手一本で自身の体重を支えられるような少女では無い為、身体強化と体重操作の複合技だろう。
レイドヴィルがそう思考する頃には避けざまに打った左腕を取られ、背後に回った襲撃者に関節を極められ掛けていた。
掛けてというのは相手の膂力とレイドヴィルの腕力が拮抗していたからだが、人体構造の有利を取られている以上そう長くは持たない。
「ニア、君も居たのか」
「折角だから参加していかないかって聞かれてね。本気のレイドヴィルと戦う機会なんてこの先そうないだろう、し!」
腕を押し込まれ完全に体が密着する位置関係、この近距離であれば第二の視界だけで十分に人物の判定が可能だ。
意外と思われるかもしれないが、レイドヴィルの専属メイドを務めるニアは格闘技、特に護身術に関してはその辺りの騎士よりも数段高いレベルで習得している。
これは有事の際レイドヴィルの盾となる為に学んでいた技術で、師はレイドヴィルと同じ、怖いくらいに何でもこなす前執事長のローゼル。
時には涙すら流しながらローゼルの教えを受けた事により、ニアは短時間であればレイドヴィルと打ち合える程の格闘術を会得するに至っていた。
そしてそれが大人数に加え奇襲という有利状況で始まったものであれば、レイドヴィルを凌駕する事も不可能では無いという訳だ。
拮抗する力に腕を震わせながら、レイドヴィルは納得したように呟く。
「成程。剣すら弾き返す僕の鎧に対して下手な攻撃は通じない。ならばと関節技を選んだのは正解だ。如何に防御術式と言えど人体に不可能な動きを強制されれば意味を成さないからね、そこは感心したよ。けど……」
欠片も焦った様子の無いレイドヴィルに危機感を覚えたのか、ニアが全力で左腕を捻じり上げようとするが僅かに遅い。
――突如レイドヴィルを中心に突風が生じ、腕を極めていたニアを好機と駆け寄って来ていた騎士数人ごと盛大に吹き飛ばした。
「っく、ぁ!」
砲弾と化したニア達が騎士の集団に突き刺さり、複数の苦鳴が上がる。
ニアはともかくとして、体重数十キロは下らない騎士複数名を軽々と吹き飛ばす突風を超えた爆風、それを発生させたのはレイドヴィルの直接の魔術によるものではない。
断鎧を纏ったとはいえエネルギー操作の限界出力は変わらず、今のレイドヴィルにこれだけの運動エネルギーは生み出せない。
その突風の正体はつい先程まで防御をこなしていた防御術式の一つ、圧縮空気層だった。
ここまで来れば理解出来た者も居るだろう、そう――突風は魔術を使ったのではなくその逆、魔術を解除した結果解放された圧縮空気だったのだ。
その証拠に、一旦解除された空気層再構築の為、レイドヴィルの周囲に空気が集まる風の流れが生じている。
圧縮空気層は堅牢な物理防御を果たすと同時に、いざという時には開放する事で周囲を一掃する攻防一体の魔術だったのだ。
それはクレジーナも想定していなかった魔術の副産物であり、レイドヴィルがフェローを参考に魔術を組み立てている際に考案した伏せ札であった。
「――――」
予想を裏切る使い方に大興奮し発狂するクレジーナとは対照的に、レイドヴィルを相手取る騎士達の間には絶望的な空気が漂っている。
物理攻撃は通じず、魔術も通らず、ならばと仕掛けた連携も一蹴された。
ただ一人、敵が倒れ伏す戦場で立つ銀色の騎士。
その姿はかつて騎士達が見た、勇者に相応しい魔術と才能を持ち、敵を圧倒する騎士が憧れた騎士の中の騎士、全盛期のレイドヴィル・フォード・シルベスターの姿と重なって見えた。
「さあ、次はどんな手で来るのかな?」
―――――
それからしばらく、レイドヴィルは時間こそ掛かったものの残った騎士達を掃討し、模擬戦はレイドヴィルの勝利で決着した。
もっともこの結果は意外でも何でもなく、如何に精鋭たる銀翼騎士団の騎士達でも勇者には敵わない。
模擬戦を終え、常時張りつめていた思考を緩めて装備を外していたレイドヴィルの下に、研究員見習いに車椅子を押させつつ、大仰に拍手しながらやってくるクレジーナの姿があった。
「いやぁ~期待以上でございました!圧縮空気層にあんな使い道があっただなんて!断鎧の防御性能も意剣の攻撃性能も申し分ないものでした。わたしは心の底から大満足ですよ!」
「博士がお気に召したようで何よりですよ。僕も『シルバー』として実に有意義な時間を過ごす事が出来ました」
「確かに。以前目を通したレイドヴィル様の戦い方と比べると、まるで別人のように感じられましたね。文面との違いかと思っていましたが、あれは意図したものだったのですか」
驚いた表情を見せるクレジーナに、レイドヴィルは言葉でなく軽い頷きで返す。
この模擬戦、レイドヴィルは『銀聖三星』の実戦実験だけでなく、ある目的を念頭に置いて臨んでいた。
それはレイドヴィルとしてではなく『シルバー』として立ち回る事である。
『シルバー』は生まれながらに強力な防御術式を持ち、自身の防御力に絶対的な自信を持っている、というのはあくまで設定だが、そうした思想は得てして戦略にも表れるものだ。
故にレイドヴィルは努めて地に足をつけ、殆どの攻撃を敢えて受けてから反撃を行うという、普段の機動力の高い彼の戦闘スタイルとは真逆の戦略を取っていた。
後から模擬戦に参加していた騎士達に話を聞いてみても、クレジーナと同じ戦い方が別人のようだったという感想が返って来ていた為、この試みは上手くいったようだ。
と、そんな風に話しているレイドヴィルとクレジーナの下に研究員がやって来る。
どうやら模擬戦でデータ収集をしていた機器の回収作業が終わったようだ。
「それではレイドヴィル様、撤収作業も終わりましたので本日はこれで失礼させて頂きますね。満足にお別れも出来ず申し訳ありませんが、研究所の方でも色々とありまして」
「博士もお忙しいのでしょう、そのくらいの事気にしませんよ」
「そう言って頂けると助かります。今度は是非うちの研究所にいらしてくださいね、歓迎、致しますので」
「……普通に歓迎して下さるのなら」
「うふふふ」
あまりに露骨な流し目に辟易しつつもレイドヴィルは簡単な別れの挨拶を交わし、また何か余計な事を言おうとしたクレジーナを、車椅子を押していた研究員見習いが半ば強制的に退出させる。
視界から消える最後まで文句を言うクレジーナとすました顔でそれを聞き流す見習いの様子を見て苦笑しつつ、レイドヴィルはこちらに頭を下げて去って行く研究員達に手を振って見送った。
「お疲れさまでした、レイドヴィル様」
「ニアも博士の相手ご苦労様。模擬戦の戦い方も良かったよ、また腕を上げたね。今度は二人で真正面からやってみたいな」
「レイドヴィル様に比べればまだまだですよ。それとあれだけの人数が居て敵わなかったんですから、一対一でなんて私には務まりません。……博士の相手よりは疲れないでしょうけど」
「……まあ、僕も博士の相手は疲れたかな。折角だしお茶会でもしようか。僕の持ってきたチョコレートだけじゃ足りないだろうし、屋敷から拝借してさ」
「!直ぐに準備を致します!」
レイドヴィルの言葉に、ニアが嬉しそうに表情を輝かせて屋敷の方へと走っていく。
その変わり身の早さに呆気に取られつつ、レイドヴィルはやや遅れて彼女の後を追う。
『銀聖三星』の実験、これにて終了。
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