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第136話 天才博士と銀聖三星 三

初心者マーク付きの作者です

暖かい目でご覧ください


 次に実験するのは『銀聖三星(トリブズ・ステラ)』の最後の一つ、分類は鎧、その役割は防御力向上。

 魔道拳銃と意剣で攻撃力を強化した分、最後は防御力というのはありきたりな結論だが真理だ。

 ()()()レイドヴィルは攻撃だけでなく防御にも優れた万能だが、現在の能力を半分以下にまで封印された状態では二つを両立する事は不可能である。

 特に防御に関しては深刻で、もし今現在のレイドヴィルが全力の防御力を発揮しようとすれば、エネルギー操作魔術のリソースのほぼ全てを割く必要が出てきてしまう。

 そこで開発されたのがその鎧、断鎧『無縫の天衣(ランクルボリアル)』だ。


「断鎧『無縫の天衣(ランクルボリアル)』は、それ自体が高い防御性能を持つ防具ではありません。レイドヴィル様が得意とする多種多様な武術の動きに対応出来るよう、身体の動きに干渉しない作りと負担の少ない軽装甲を採用しています」


 先程の意剣と同じように再び装備の詳細を説明するクレジーナ。

 しかし今回の説明は実験準備の為の暇潰しでは無く、歴とした初説明である。

 というのも断鎧に関しては開発目的は明確だったのだがそのアプローチが中々定まらず、開発と完成が他の装備に対して遅れていたのだ。

 その結果実験の少し前に辛うじて完成した試作品を手に屋敷を訪れたクレジーナが、事前では無く直前になってレイドヴィルに説明しているという訳だ。

 そうして説明を受けるレイドヴィルの下に、再び研究員達がやって来る。

 今回は鎧、身に着ける代物である為、地面に置くのではなくレイドヴィルに装着させるように差し出してきた。

 レイドヴィルはそれに逆らわず両腕を伸ばし、されるがままに防具を装着していく。

 その間もクレジーナの説明は続く。


「断鎧の真骨頂はそのものの防御力ではなく防御術式の補助、即ちレイドヴィル様のエネルギー操作魔術を用いた魔力装甲・圧縮空気層・エネルギー分解力場の三種の防御と、それに伴う消費魔力の回収を半自動で行う点にあります。この半自動展開は鎧側に刻まれた魔術刻印によるものですから、レイドヴィル様が防御に割かなければならないリソースは四分の一程度にまで低下する試算です」


「その防御術式と魔力回収の術式はそれぞれ独立して展開するのですか?それとも同時で?」


「基本的には同時展開ですが、分けて展開することも可能ですよ。ちなみに断鎧は各部位毎に刻まれている刻印が違いますから、発動したい術式の刻まれた部位に魔力を通す事で全身に術式を展開可能です。同時展開は胸当ての箇所からですね」


「成程……。それならばかなり使い勝手が良さそうですね。機能的で実戦的だ。ちなみに試作品というのはどの辺りが該当するんです?何か機能が欠けてたりするんでしょうか」


「いえ、そういった不備はありません。ただエネルギー操作魔術というエクストラの特異な術式に不安が残るのと、鎧に使用した金属に改良の余地があるというだけですね。前者は今回の実験で修正が可能ですし、後者に関しましても既に当たりが付いているのです。少々特殊な金属のため取り寄せが遅れていますが、それも実戦投入時には間に合う予定ですから、ご懸念には及びません」


「そうですか。それなら一安心です」


 この鎧が完成すれば、レイドヴィルにとっては更なる戦力強化が成される事になる。

 その朗報に安堵した所で、丁度断鎧の装着が完了した。

 見た目に関しては言わずもがなと表するべきか、白を基本に青の線が入った銀翼騎士団(シルバーナイツ)を象徴する配色。

 鎧自体はクレジーナの言っていた通り、レイドヴィルの扱う武術の様々な動きに干渉しないよう軽量になっており、王国正騎士団が使用しているような全身鎧では無く、心臓などの急所を守る最低限の部位で構成されていた。

 事実今しがた簡単に体を動かしてみても、鎧を着けているとは思えない程に動きが軽く違和感が無い。

 これならば十分レイドヴィルの戦闘スタイルについて来られるだろう。


「……うん。着けた感じは問題なさそうです」


「それはよかったです。それでは各種防御術式を展開して頂いてもよろしいでしょうか。刻印の動作に問題がないかどうかは、レイドヴィル様のエネルギー操作魔術を実際に使って頂かないと分からないものですからね。大丈夫、断鎧の方は意剣と違って危険性はありませんから」


「今さらっと意剣に危険性があった事を認めましたね?まあ、博士の道徳観に関しては既に諦めているので構いませんが」


「ええっと……次からは気を付けますね?」


「その言葉は改善する気のある人だけが言って良い言葉ですよ。博士にその気は無いでしょうに」


 主人を危険に晒された事で不満の半目で見つめてくるニアに耐え切れなかったのか、クレジーナが額に汗を浮かべ曖昧な言葉で逃れようとするがレイドヴィルの冷たい言葉にあえなく撃沈。

 増々小さくなるクレジーナの姿を見て嘆息しつつ、早く実験を進めようと開始を宣言する。


「それじゃあ行きますよ――」


 断鎧の起動に意剣に用いたような特別な詠唱は不要だ。

 これは鎧でこそあるが分類上は魔術具である為、他と同じように触れている部分から魔力を流し込むだけで事足りる。

 そしてこれは刻印が正しく機能するかどうかの実験、防御術式の使い分けは不必要、故に胸当てに対し魔力を流し込む。

 すると同時並行して三種の防御術式と魔力回収の術式を引き出す刻印が起動、レイドヴィルの魔術演算領域から自動的にエネルギー操作魔術が引き出され、術式が高速構築されていく。

 それらは今のレイドヴィルの大部分が封印された魔術演算領域では併用出来ず、また術式の展開と術の構築にも時間を要する防御術式であった。

 魔力装甲はレイドヴィルと彼の家庭教師を務めていた研究者イザベルが共同で編み出した防御術式で、ただ魔力を押し固めるようにして纏うだけの魔力障壁とは違い、エネルギー操作を使い押し固める過程でより強固で堅牢な組織を組み立てる事により多少の対物性能も持つ、魔力障壁の上位互換。

 圧縮空気層は学園入学後、レイドヴィルが学友のフェローが使用していた『風纏い』を参考に編み出した、レイドヴィルにしか扱えない防御術式だ。

 性能に関しては字面から察せるだろうから説明を省くとして、空気層構築の過程だけ解説を挟もう。

 まず体表五センチメートル以内に作用するエネルギー操作で以て、『周囲の空気の運動エネルギーを内側に向ける』領域と『引き寄せた空気を圧縮する』領域を生成、手近な空気を使い層を作る。

 しかしこれはあくまで五センチ内の空気を使用したものであって薄く、まだまだ十分な防御力を有しているとは言えない。

 当然空気層構築はまだ終わらず、圧縮された事で空いた空間に流入した空気を、更に圧縮する事で層をより分厚くより硬質にしていく。

 そうして圧縮、流入、圧縮、流入の手順を繰り返す事でより強く固め上げられたのが、レイドヴィルの編み出した圧縮空気層だ。

 魔力装甲が魔力・物理への耐性を有したものであるのに対して、圧縮空気層は純然たる物理攻撃への対抗策として開発されていた。

 そして最後の一つ、エネルギー分解力場は上記の二つでは対応し切れない魔術への対策を果たす防御術式だ。

 熱、光、電気、魔力、運動など複数のエネルギーを無害化するこれに関しては、レイドヴィルが普段無意識的に展開しているものと特段変わるものではない。

 しかし断鎧を通す事によりその出力は桁違いに跳ね上がり、他二つの防御術式と併用して尚、分解力は()()()()()()()とほぼ同等の出力を実現するに至っていた。

 レイドヴィルは手を握る開くを繰り返し、懐かしささえ感じる魔術の感覚を確かめていた。


「しばらくそのままでお願いします。……測定器の結果出ました。刻印は正確に機能していたようですね。では次に、レイドヴィル様の防御能力について調べたいのですが、一度魔術による攻撃を受けて頂いても構わないでしょうか?攻撃は不肖、このわたしが務めさせて頂きます」


「ええ、構いませんよ。僕も魔力装甲と分解力場、久し振りの同時展開ですし、丁度圧縮空気層の防御性能も試してみたいと思っていましたから。いつでもどうぞ」


「それでは失礼いたしまして――『紅炎』」


 レイドヴィルの真正面、車いすに座ったままの姿勢からクレジーナの手が突き出され、そこから放たれた炎弾が直撃、レイドヴィルを焼き尽くさん勢いで燃え上がる。

 複数の属性を操るクレジーナにとってこれは初歩の魔術であり、本来は簡易詠唱すら必要としないのだが、それでも術式を開示したのはレイドヴィルが対応しやすくする為だった。

 予め何が来るかを知った上で魔術を受けたレイドヴィル、炎に包まれた彼の安否は果たして。


「――防御も特に問題は無さそうですね。魔力も熱も体表では全く感じませんでした」


「お体に煤が付着した様子もないと……こうして一端とはいえレイドヴィル様の真のお力を拝見したのは初めてですが、規格外の防御力ですね。これで全盛には程遠いとは……いやはや」


 全く変わった様子の無いレイドヴィルを見て、まさか防げないと思っていた訳ではないだろうが、自身の魔術を容易く無効化した堅牢さにクレジーナは動揺を隠し切れていない。

 レイドヴィルの体表を覆う不可視の鱗は隙間が無く、鎧のように継ぎ目や縫い目が一切存在しない、魔力が許す限り再生可能の正に万能。

 故に『無縫の天衣(ランクルボリアル)』、断鎧を身に着けたレイドヴィルはあらゆる攻撃に対する耐性を有していた。


「それではこれにて予定していた実験は以上となります。ですがどうでしょう、このまま『銀聖三星(トリブズ・ステラ)』を装備して模擬戦を行ってみては?レイドヴィル様も新装備を実戦で試してみたいでしょうし、わたしとしましても有益なデータはあればある程嬉しい所。いかがいたしますか?」


 これで実験は終了と鎧を脱ごうとしていたレイドヴィルに、クレジーナが分かりやすく胡麻をする仕草で新しい提案をしてきた。

 それは明らかに実戦データを取りたいという彼女の本心だったが、その提案には一考の余地がある。

 流石に『蠍の一刺し(アンタレス)』は無理があるだろうが、実際に意剣と断鎧を使用して模擬戦を行えるのであればレイドヴィルにとっても願ったり叶ったりの状況だ。

 意剣を使用した際にちょっとしたトラブルこそあったものの誤差の範囲、体力の損耗も大して影響は無いだろう。

 多少の逡巡の末、レイドヴィルはクレジーナの提案に頷きで以て答えを返した。


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