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第135話 天才博士と銀聖三星 二

初心者マーク付きの作者です

暖かい目でご覧ください

 

 その後、実験に向けての準備を終えたレイドヴィルはクレジーナに指示され、闘技場の中央へ歩み出る。

 魔術具の実験に際したその恰好は白を基調とした騎士服であり、一目見て他の団員とは一線を画すそれは一定以上の位に立った騎士のみが着る事を許されたものだ。

 しかしこの騎士服は彼の立場からすれば着れて当然の物であり、逆に言えば実験を行うに当たって、レイドヴィルはそれ以外には何一つとして特別な装備を身に着けていなかった。

 この場の誰もが知っているが故に省かれた説明をここで言ってしまうと、今回実験する『銀聖三星(トリブズ・ステラ)』は読んで字の如く三つの武具――銃、剣、鎧からなる代物だ。

 銃は以前フェリド戦でも見せた魔道拳銃『蠍の一刺し(アンタレス)』、遠距離広域殲滅を目的とする超火力を誇るもの。

 そして今回扱うのは残りの二つである剣と鎧なのだが、これらを身に着けるには安全装置の類は邪魔だったのだ。

 それに剣はともかくとして、鎧は万が一にも装着者に害が及ぶ心配も無い。

 それ故の無装備なのだが、レイドヴィルは最初に行われる実験の要である、肝心の剣を持っていなかった。

 いくら特別な装備が必要無いとは言っても、流石に実験品本体が無ければ話にならないだろう。

 その理由は単純――意剣『乙女の対翼(スパイカ・セラフィア)』は腕が二本しかない人間には持つ事が出来ない剣であるからだ。


「それでは実験を始める前に、レイドヴィル様は既にご存じのことと思いますが意剣『乙女の対翼(スパイカ・セラフィア)』について軽く説明させていただきます。意剣に関しましては他の二つと違い、純粋な魔術具ではありません。元々ダンジョン内で発見された魔剣を基に、私の研究所で改造を施したものとなっております」


 手元の資料に目を通しつつ説明を行うクレジーナと、事前に装備の情報を聞かされつつも改めて彼女の話を聞くレイドヴィル。

 こうして専門的な話になってしまえばクレジーナも性的変態博士では無く、技術的変態博士に早変わり、レイドヴィルにとって実りのある会話が出来る相手に格上げされる。

 そんな彼の下に、四人の研究員が()()()()()()()()()集まり、計四本の剣をレイドヴィルの近くの地面に横たえて離れていく。

 刀身は80センチ前後、四方に並べられた四本の剣はいずれも同じ形をしていた。

 剣先から柄に向かって徐々に広がっていく形の幅広の刀身や、魔道拳銃や騎士服と揃えられた白を基調とした配色は、レイドヴィルの愛剣や愛剣を打つ際に参考にされた剣に似ている。

 それもその筈、意剣はレイドヴィルが扱いやすいよう形状や重心を細部まで調整して制作されていたのだから。

 しかし意剣の用途は手に持って戦う武器としての想定をされていない。

 剣は既に騎士として自前のものがあるし、仮に持って戦うにしても四本もあったのでは戦いに支障が出よう。

 とは言え四本ある内の幾本かが予備であるかと問われれば否であるし、只の飾り等では勿論無い。

 意剣には歴とした魔剣としての役割が存在する。

 その能力こそ、


「――意剣はその名の通り『意』のままに操れる『剣』。『乙女の対翼(スパイカ・セラフィア)』は励起詠唱を行う事で起動・接続、使用者の魔力を使用しつつ浮遊し自在に操る事が可能な拡張武装です。有効範囲は使用者を中心に三十メートル前後を記録しており、魔力消費自体も微量である為四本同時使用を想定しています。ただ開発段階で実験を行った際、うちの研究員が試してみたのですが、二本同時接続でめまい、三本同時で失神に至った為ご注意をお願い致します」


 最後にサラっと重大な問題を明かしたクレジーナだったが、多少の危険性については議論しても栓無き事だ。

 実験は現状と問題を洗い直す為のものなのだから、危険云々という理由で避けていたのでは実験の為の実験という、実験の意義が失われる結果になってしまう。

 拡張武装というのは、戦術の幅を広げるという意味での拡張だ。

 ヴィルが普通の魔術をあまり得意としていない事は周知の事実であり、それは『シルバー』になったとて同じ事。

 純粋な武術と絡め手だけでは、いくら『霧相の面』があっても同じ戦法を取る人物として、ヴィルと『シルバー』を結び付けて考える者も出て来る事だろう。

 そこで急務とされたのが『シルバー』が戦闘中に取れる手段の増設、即ち戦術の拡張である。

 三十メートルの射程を持ち手数を二倍三倍に増やす事の出来る意剣は、そういう意味では求められていた意図に適っていた。


「それじゃあ四本一気ではなく、一本ずつ数を増やしていった方が良さそうですね」


「そうですね、それが望ましいと思います。実験も夜も順序が大切です。それでは始めましょうか」


 レイドヴィルの同意にクレジーナが頷き、研究員達が実験開始の合図として距離を取り始める。

 それを受けてレイドヴィルも意識を集中させ、魔力を高め活性化させていき――


「――『乙女の対翼(スパイカ・セラフィア)』実験開始」


意剣起動(アクティベート)


 クレジーナの合図と共にレイドヴィルが呟いた瞬間、魔力が吸い取られ地面に並べられていた意剣の一本が一瞬ぼんやりと光り輝く。

 直後、一度びくりと震えてからゆっくりと宙に浮かび上がり、それから空中へと留まる。

 しかしレイドヴィルも初めてとあって意剣の制御は難しいらしく、ふわふわというよりは不安定に不規則に揺れていた。

 その後軽くお試しに剣を数度振るってみるが、やはり速度も精度も自身が手ずから振るう剣とは比べるべくも無い。


「いや、これはかなり難しいですね。コツを掴むまでには相応に掛かりそうですよ」


「それはそうでしょう。何せ剣が一本増えるというのは腕が一本増えるようなものですから、いくら抜きん出た才をお持ちのレイドヴィル様でも、()()()は一朝一夕にはいきませんよ」


 苦笑気味にぼやくレイドヴィルに、当然とばかりに微笑み交じりの言葉が返される。

 クレジーナとしては意剣は言わば子であり、一日足らずで使いこなされては思う所もあるのだ。

 決して使わせまいと難易度を上げたりした訳ではないが、それはそれとして出来る限り時間が掛かって欲しいという思いもある。

 複雑な開発者心である。


「次は二本、三本と数を増やして接続確認を。そこまで行って体調不良等が確認されなければ想定していた四本同時接続に移っていきましょう。レイドヴィル様程の処理能力があれば問題無いレベルだと試算してはいるのですが……」


「それを試す実験でしょう?大丈夫です、倒れるのには慣れていますから」


「それは大丈夫では無い気もしますけれど……ありがとうございます」


 冗談交じりに笑って答えるレイドヴィルに、呆れと困惑がない交ぜになった感謝を伝え頭を下げるクレジーナ。

 その後、最初に浮かせた意剣はそのままに接続数を増やしていったレイドヴィル。

 二本目までは何の異常も見られなかったのだが、流石に三本目を起動した時には脳への負荷が高まるのを感じていた。

 しかし剣の操作自体には随分慣れてきた様子で、自身の剣速の八割近い出力を出すまでに至っていた。

 レイドヴィルの剣速の八割と言えば、それは意剣が出せると推測される最高出力に等しい。

 彼は既に、クレジーナの思いとは裏腹に意剣を使いこなし始めていた。


「四本目、行きます」


「…………」


 クレジーナやニアを始めとして、研究員や万が一の負傷に備えた治癒術師が固唾を呑んで見守る中、遂にレイドヴィルが最後の一本との接続を開始する。

 詠唱と共に意剣が輝き、浮かび上がった四本の剣を見て周囲が歓声を上げかけ――


「…………ぅお」


 がくりとレイドヴィルの首が落ちた。

 それは寝落ちをしかけている人のようであり、同時に四本全ての接続が切れ、意剣が甲高い音を立てて地面に落下する。

 その音と重なるようにレイドヴィルが膝を突き、それを見たニアと、やや遅れて周囲の人々が慌てて駆け寄り声を掛ける。


「レイドヴィル様!?大丈夫ですか?」


「……ああ、ニア。うん、大丈夫。()()()()()()()だけくらっときただけだから」


 身体を支えようと腕を伸ばしたニアを手で制し、レイドヴィルはまだ万全では無いながらも自力でゆっくりと立ち上がる事に成功する。

 ……その端正な顔立ちから鼻血を垂らしながら。


「って鼻血出てるじゃないですか!今治癒魔術を掛けますから、じっとしていて下さい」


「ありがとう、ニア。……博士、またとんでもないものを作ってくれましたね。何が四本同時接続を想定ですか。僕以外がやっていたら確実に失神程度じゃ済みませんでしたよ」


「……初回の接続は脳へのダメージが大きいのです。その症状も繰り返し接続していれば馴染んでくるはずですよ。しかし、流石のレイドヴィル様でも()()()は上手くいきませんでしたか」


 治療班を差し置いてのニアの治療を受けつつレイドヴィルが非難するが、当のクレジーナはそれを受け流し後ろの研究員達に指示を出している。

 実験結果の書き留めと資料のまとめは必要とは言え、やや薄情とも取れる態度だ。

 しかしそれも当然だろう、クレジーナは趣味嗜好に問題を抱える人物だが、同時に究める事にも愉悦を覚え、更にその為には手段を選ばない節のある狂が付く研究者でもある。

 それはレイドヴィルに代償魔術という一種の禁呪を教えた、倫理観に欠ける行為からも明らかだ。

 改めて厄介な人だなと考えつつ、治療してくれたニアに感謝の言葉を述べ実験を続行する。


「これを四本同時に使いこなすには、まだ時間が掛かりますね」


「ええ、ですが使いこなせるようになれば戦術の幅はもっと広がるでしょう。レイドヴィル様と『シルバー』様の差別化も解決するかと。今すぐに練習させて差し上げられないのが心苦しいところではありますがね」


 残念そうにこぼすクレジーナの理由は歴然、まだもう一つの実験が残っているからに他ならない。

 そこはレイドヴィルも理解しており、鍛錬に移りたい気持ちを押し止めつつ次の実験へと移る準備を始める。


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