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第132話 デートの結末 一

初心者マーク付きの作者です

暖かい目でご覧ください

 

 当初の予定とは多少異なったが、フェリドと守護精霊を打倒する事に成功したヴィル達。

 その後あの場ではフェリドを銀翼騎士団(シルバーナイツ)に引き渡して解散となったのだが、後日、当事者としてヴィルとイリアナの二人は詳しい話を聞きたいと呼び出され、銀翼騎士団(シルバーナイツ)の本部が置かれるシルベスター公爵邸を訪れていた。


「これがかのシルベスター家か。ここを訪れたのは生まれてこの方初めてだよ。ヴィルは、初めてではなかったんだったかな?」


「そうですね。昔孤児院のイベントで来た事があります。財政的に孤児院を支えて下さっていた騎士の方々に日頃の感謝を伝えるのと、後は銀翼騎士団(シルバーナイツ)の見学会を兼ねて」


「その時アルシリーナ殿とヴェイク殿には?」


「まさか。いくら自分達が運営しているとはいっても、孤児院の子供相手ですよ。ましてやお二人共極めて多忙の身でいらっしゃいますから、お見かけする事も叶いませんでしたよ」


 残念ですが、と零すヴィルに対し、イリアナはニヤリとした笑みを見せる。

 というのも、今日シルベスター邸を訪れた理由はイリアナを取り巻く事件の尋問の為という前述の通りなのだが、その尋問を行うのがアルシリーナとヴェイク――銀翼騎士団(シルバーナイツ)の団長と副団長だというのだ。

 平民のヴィルが王国の生きる英雄と会える事実それ自体を見れば特異にも映るだろうが、真実はそう不思議なものでもない。

 アルシリーナとヴェイクが会うのはあくまでヴァーミリオン家当主のイリアナなのであって、ヴィルは彼女の証言を裏付け補強する、言わばおまけに過ぎないのだ。

 イリアナは銀翼騎士団(シルバーナイツ)の介入を抑える際、ヴァーミリオン家当主としての名を出した。

 であれば後日の交渉相手に、銀翼騎士団(シルバーナイツ)の団長たるシルベスター家当主が座ってもごく自然な流れというものだろう。

 だがそんな理由は横に置いておくとしてだ、本来であれば直接言葉を交わす機会など皆無な相手に会えるのも一つの事実、イリアナはヴィルがそうした機会に恵まれる事を喜んでいた。

 恐らくこれをきっかけにヴィルの存在を広く認知させ、将来的に有効な繋がりを持ってもらいたいというイリアナの善意があったのだろう、とヴィルは思う。

 しかし事はそう上手く運ばないという未来をヴィルは知っていた。


「ようこそおいで下さいました。イリアナ様、れ……ヴィル様。応接室までは不肖ながら私、エマがイリアナ様のご案内をさせて頂きます。それで、その……大変恐縮ですが、ヴィル様にはお話が終わるまでの間別室でお待ち頂くようにと、当主様より承っておりまして……」


 それは銀翼騎士団(シルバーナイツ)本部の受付にて、案内を務めるというエマが恐る恐る口にした内容だった。

 ヴィルの名を呼ぶ時に言い淀んだ時点で察しも付くだろうが、エマはヴィルの事情をよく知っている、本邸で働いているメイドである。

 だが唯一背後関係を知らないイリアナはその事を疑問に思ったようで、訝しげな表情と共にエマを問い詰め始めた。


「それは何故だ?私はともかく、ヴィルはそちらに呼び出されてここにいる。何の説明も無しに会わせられないと言われても、到底納得出来るものではないぞ」


「そ、それにつきましても、当主様が直接説明を致しますので、この場はどうか……」


「…………了解した。という事らしい。ヴィルには悪いが……」


「ええ、分かっています。お二方に会えないのは少し残念ですが、貴族の当主間でしか話せない話題というのもあるでしょう。僕の事は気にせず行ってきて下さい」


「ありがとう。それではまた後程」


 しかし最後には納得したのか渋々ながら頷き、イリアナはエマの案内の下アルシリーナとヴェイクが待つという応接室に向かって通路に消えて行った。

 そうしてイリアナと別れたヴィルは、エマの言うとおりであれば会談が終わるまでの間、別室で待たされる事になる筈だが、当然そんな予定は存在しない。

 ヴィルが両親と会えないのは予定調和であり、イリアナが一人で応接室に向かうのも予定調和であったからだ。

 本来の予定であればイリアナが向かったタイミング、即ちそろそろヴィルに迎えが来る筈なのだが……


「お待たせ致しました、ヴィル様。どうぞこちらへ」


「ニアさん?君はここで何をしているのかな?」


 その迎えがニアとあっては、ヴィルも素直に応じる訳にはいかなかった。

 お辞儀の後にっこりと微笑み、屋敷に居た頃の通りにメイド服を着用しているニア。

 これで学園に通う普通のメイドであれば何の問題も無いのだが、ニアは身分を隠して学園に通うヴィルの補佐、即ちニアもまたメイドの身分を隠して通学している訳だ。

 そんなニアがこうも堂々とシルベスターのメイド姿を晒していたのでは、ヴィルとシルベスターの繋がりもまた推察されてしまいかねない。

 その辺りを考えていないニアでは無いだろうが。


「大丈夫ですよ。私も人の目くらいは感じ取れますから」


「そこはあんまり心配してないけどね……取り敢えず案内してもらえる?」


「畏まりました。ではこちらへどうぞ」


 ヴィルもニアを信用していない訳では無いが、それはそれとして人目に触れさせたままというのもあまりよろしくない。

 二人は早々に銀翼騎士団(シルバーナイツ)本部を離れ、同じ敷地内にあるシルベスター邸へと向かう。

 ここシルベスター邸がある敷地には、本邸を含めて主に五つの施設が存在する。

 銀翼騎士団(シルバーナイツ)本部、騎士達が訓練・模擬戦を行う闘技場を有する訓練棟、一部騎士や侍従が生活を送る北棟、食糧庫や書物庫など雑多な南棟、そして現在向かっている所謂貴族のお屋敷が本邸だ。

 位置関係的には入口の門をくぐってすぐにあるのが本部、敷地の中央に訓練棟、その左手に北棟、反対側に南棟、最奥にあるのが本邸といった具合になる。

 本部を出て訓練等まで来れば周囲の目も気にならず、ヴィルはニアに案内されつつ、手を振り声掛けして挨拶をくれる騎士達に応えつつ歩いて行く。

 案内とは言っても、ヴィルは決して敷地の内に疎い訳では無い。

 ここは文字通りヴィルの実家なのだ、いくら広いとはいえ知らない場所がある方がおかしいだろう。

 ここでの案内とは、会議を行う場所への案内という意味である。


「どうぞ()()()()()()()、こちらでジャンド様方がお待ちです」


 余人の視線が消え、ヴィルをレイドヴィルと呼び口調を完全に仕事仕様へと変えたニアが、案内した先の部屋の扉を開ける。

 するとそこにはレイドヴィルを見て嬉しそうに顔を綻ばせるジャンドと、対照的に椅子から飛び上がるように立ち上がり、両手を脚の横に揃え必要以上に背筋を伸ばす、やや緊張が出すぎている()()()()初対面の少女が居た。

 その少女は同年代と比べてもかなり小柄で、レイドヴィルの身近な人物で例えればリリアと同じくらい、騎士団の制服を着ている事からメイドでない事は一目で分かる。

 と言うよりレイドヴィルは、彼女の容姿も声も知らなかったが、銀翼騎士団(シルバーナイツ)での所属と役割だけは事前に知らされていた。


「やあジャンド。待たせてしまったようで悪かったね」


「滅相もないっすよ。一人じゃありませんでしたし、実際然程待っちゃいません」


「なら良いんだけど。と、君がピノー・アルゼンかな?初めまして、と言って良いのかは分からないけど、フェリド戦の()()以来だね。僕はヴィル……じゃなかった、レイドヴィル・フォード・シルベスターだ。これからよろしくね」


「は、はいっ!もちろん存じております!ピノー・アルゼンです!わたしなんかの名前を憶えていて下さっただなんて感無量です!こちらこそよろしくお願いいたします!」


「うん。そう固くならず、肩の力を抜いて、ね?気を張り過ぎると疲れちゃうだろうし」


「はい!善処いたします!」


 十中八九レイドヴィルの気遣いは届いていないだろうが、元気良く返事を返す少女の姿は見ていて気分の悪いものではない。

 ともあれ彼女がピノー・アルゼン、銀翼騎士団(シルバーナイツ)でも特殊な役割を担う期待の新人であり、レイドヴィルの一つ年下の少女である。

 彼女が担う特殊な役割とはずばり伝令兵、それも『念話』のクォントを持ち、魔術や魔術具に頼らない遠隔通信を可能とする稀有な才能の持ち主だ。

 実はその能力はフェリド戦、正確には守護精霊戦において、重要な貢献を果たしていた。

 レイドヴィルは当初、精霊術師と戦うに際して銀翼騎士団(シルバーナイツ)を用いるつもりは無かった。

 しかし様々な想定外が起こった結果、火力と手数が必要と判断したレイドヴィルは、その存在だけは伝え聞いていた『念話』持ちの伝令兵に対し支援要請を行ったのだ。

 ちなみにピノーの念話は一対一、脳内でピノーの存在を強く意識し続ければ念話接続の要請が行き、逆にピノーからは存在を思い浮かべるだけで自由に念話を繋げられる。

 クレジーナ博士の開発した通信具の参考にもなった、優秀な人材が彼女だ。

 レイドヴィルやアルシリーナなど、目上の人物に対しやや過剰とも言える敬意を見せるのが些細な欠点だが、それも慣れで何とかなる点だ。

 レイドヴィルは微笑ましい気持ちで椅子に座りつつ、ニアを含めた三人にも着席を促して報告会を始める。

 と、その前に、


「ふむ。予定ではクレジーナ博士も来る筈だったけど、何かあったのかな?」


「はっ!博士は『蠍の一刺し(アンタレス)』の実験結果を直接見たいと、例の建設予定地に調査に向かわれました!また後日、銀聖三星(トリブズ・ステラ)の最終調整を行い、夏季休暇にこちらに持ち込みたいとの打診が来ております!どうされますか?」


「いやまあ、それは良いんだけどね?まさか会議を蹴ってまで私欲を優先するとは……今度言っておくよ」


 どこか申し訳無さそうに報告する無実のピノー、彼女にそんな顔をさせるクレジーナに対しレイドヴィルは頭痛を禁じ得ない。

 優秀な研究者は往々にして自己中心的な独断が見受けられるが、クレジーナに関しては度が過ぎている感が否めない。

 流石に看過出来ないと溜息を吐きつつ、本題へと移行する。


「さて、今回集まって貰ったのは他でも無い、フェリド戦で僕が感じた違和感と陰で暗躍する何者かについてだ。ジャンド、調べてもらった例の件はどうだった?」


「はい。既に量産体制に入っている通信具の在庫と保管状況ですが、目録上の数と実際にあった数が合致しやした。欠品盗難、共に一つもありやせんでしたぜ」


「…………クレジーナ博士はなんて?」


「試作品と量産品、どちらも欠けていないと断言出来ると」


「……そうか」


 ジャンドの正確な報告に、しかしレイドヴィルは得心がいかない様子で顎に手を当てて考え込む。

 フェリドが着けていた耳の装飾品、あれは間違い無くクレジーナが開発した通信具そのものだった。

 それが敵の手に渡っている事実、レイドヴィルは当初盗難か研究所職員の横流しを想定していたのだが、その後ジャンドから聞かされた管理体制を鑑みるに、そうした事も無さそうである。

 かといって仮に設計図が漏洩していたとして、あれはおいそれと制作できるものでは無い。

 あの通信具はシルベスターが誇る最新技術とクレジーナの叡智、それと特殊な工房と設備の結晶なのだ。

 どれか一つでも欠ければ生産不可能な代物が、どうして敵の手にあったのか。

 不明瞭な点はまだある。


「ならフェリドを陰で支援していた人物についてはどうかな?僕が伝えたリストに該当しそうな生徒は居た?」


「いえ!該当生徒48名を洗いましたがそれらしき人物は発見されませんでした!全員フェリド戦当日の所在と行動も把握済みです!」


 この銀翼騎士団(シルバーナイツ)の調査力を以てしても正体の一端すら掴めない、恐らくはアンナ誘拐を目論んだ『竜の牙』や、マーガレッタを操ろうとしたサラの支援もしていたであろう、謎の人物。

 目的も正体も不明、何か一貫した流儀も見えず悪を支援し続けるその行いは、一見悦楽目的の愉快犯的犯行にも思える。

 だがレイドヴィルの直感は、その可能性を否定していた。


(愉快犯にしては目的が散発的で凝り過ぎている気もする。それに僕の周りでこれだけ連続して付いているのは偶然なのか?僕か、それとも学園の生徒を狙っての犯行か……)


「あれだけ大規模な陣を敷いてたんです、手掛かりの一つくらいあっても良さそうなもんですが、建設中怪しい人物を見たとかの報告も特にありやせんでした」


「ジャンド様、それはあの魔力吸収の陣が、()()()()()()()()敷設されたという事ですか?俄かには信じられませんが……」


「自分もそうっすよ。ニアちゃんの考えてる通り、あれは夜中の数時間程度を使って準備が出来るような代物じゃありやせん。地面を掘って式を描いて、触媒と魔力を通して隠蔽しつつ地面を元に戻す。これだけの手順を踏んでる訳でやすからね。工事は毎日やってたって話らしいですから、日を跨ごうものなら即おじゃん。そもそも用意した方法自体がお手上げ状態ってなもんすよ」


 考え込むレイドヴィルを見て、訝しむように質問を挟んだニアに対し、ジャンドは言葉と仕草でお手上げだと匙を投げる。

 事実、今もフェリドの近辺を調査中だが目ぼしい手掛かりは皆無。

 また本人に聞こうにも……


「フェリドに話は聞けそうかな?」


「それも厳しそうっすね。『術式融解(メルトダウン)』の代償で一回も目を覚ましちゃいやせん。まあ、坊ちゃんが『精霊殺し』で術式を刺してなけりゃもっと酷かったんでしょうが」


 ベールドミナ大治癒院に収容されたフェリドだが、彼は今も治療中で一度も意識を回復しておらず、予断を許さない状況が続いている。

術式融解(メルトダウン)』とは魔術回路を代償に捧げ魔力を得る術であり、命を損なうようなものではない。

 それは今回も同じだったが、その後膨大な魔力を得て暴走した守護精霊に呑まれたのがいけなかった。

 殆ど術者の制御を外れてしまったかの守護精霊は、術者に対する遠慮無しに魔力を吸い上げ魔術を行使し、結果フェリドの沈黙だ。

 これも恐らくは黒幕による指示、怪物と化したフェリドは本来ならばあの戦いの中で死んでいる筈だったのだろう。

 あれは手加減の出来る相手では無かった、故にフェリドという唯一の手掛かりが生き残ったのは本当に偶然の産物だ。

 しかしまだ油断は出来ない、以前マーガレッタを薬物と魔剣で操ろうとした主犯とされていた人物、同じく黒幕の支援を受けていたと思われるサラはハルドラ監獄に収監された後、牢獄内で心神喪失状態で発見された。

 唐突の精神病や自害的なものではなく、十中八九黒幕による口封じだろう。

 そしてそれはサラだけに留まらず、フェリドも口封じされる可能性が高い。


「ジャンド、フェリドの警備体制を強化するように治癒院に要請を出しておいて欲しい」


「例のハルドラ監獄の件っすか?了解っす。うちからも何人か人出しておきやすよ」


「ああ、頼んだよ」


 そうしてジャンドに頼んだ警備強化だが、レイドヴィルはこの急ごしらえの対策が無意味であると悟っていた。

 敵の刺客はあの世界最高峰の警備を誇るハルドラ監獄において、誰一人にさえ気取られず口封じをやってのけたのだ。

 それが魔術の絡んだ隠形なのかそうでないのか、或いは珍しい魔眼か精神干渉の使い手か。

 いずれにせよ、現状まともな手段では侵入者を防ぐ事は出来ないだろう。

 黒幕に関して何一つ手掛かりは無く、唯一の繋がりであるフェリドもその生存が危ぶまれる。

 暗雲が立ち込める現状を何とか打開しようと、レイドヴィル達はその後も会議を続けたのだった。


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