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第130話 醜悪の怪物 四

初心者マーク付きの作者です

暖かい目でご覧ください

 

 怪物と化したフェリドとの決戦の最中、突如介入してきた銀翼騎士団(シルバーナイツ)

 普通なら頼もしい援軍として歓迎する所なのだろうが、中には彼らの横入りを快く思わない生徒もいた。


銀翼騎士団(シルバーナイツ)だぁ?……って、そりゃこれだけ派手に暴れてたら誰か一人くらい通報するか」


「でも、横から掻っ攫われるのってのはチョット気に食わないわよねぇ」


 そうザックとクレアが不満を漏らす気持ちも分からないではない。

 ここまで相当な時間、命がけの状況下でフェリドや怪物と戦ってきたのだ。

 二人共決して手柄を優先するようなタイプでは無いが、それでも友人達と立てた功績が盗まれかねないとなれば面白くない。

 相手は大貴族シルベスターだ、二人は騎士達が自分達を安全な所に逃がそうとしたり、ヴィルやイリアナが騎士団に任せ退こうと提案するのではないか、そんな事を危惧していた。

 だがこの状況を用意したのはそのヴィルであり、当然退く気は毛頭無い。


銀翼騎士団(シルバーナイツ)所属、ジャンド・アギュラーっす。この状況、詳しく話を聞かせてもらいたいんすけど……」


「騎士ジャンド殿。申し訳ありませんが今は事情を説明している暇はありません。それから提案なのですが、ここは僕達の指示に従っては頂けませんか?我々にはあの怪物を打倒する策があります」


「ええ!?いやでもそれは……」


「私からもお願いしたい。私は裁定四紅(さいていよんこう)が一家、ヴァーミリオン家当主イリアナ・リベロ・フォン・ヴァーミリオンだ」


「ヴァ、ヴァーミリオン!?なんでヴァーミリオン家のご令嬢、じゃなかったご当主様がここに……」


「話は後程。今はどうかこちらに預けて頂きたい。無論、騎士団には後日説明に伺わせて貰う」


「……分かりやした。ヴァーミリオン家のご当主直々の要請ってんなら従いやす」


 ヴィルとイリアナの心のこもった説得が実を結び、ザックとクレアは内心で安堵する。

 半ば強引に押し切られ承諾したこのジャンドという騎士だが、この一連の流れは彼の演技だ。

 ヴィルの要請に応じて駆け付けたジャンド、彼はそれまでの詳しい流れやヴィルの意図を完全に理解していた訳では無い。

 にも拘らずここまでヴィルの狙い通りに会話を誘導出来たのは、ひとえにジャンドの応用力あっての事だ。

 時折突飛な発想をする事からアイデア最終兵器と呼ばれ親しまれている彼は、こういう場面においてその唯一無二の才を遺憾無く発揮する。


「それで、具体的にはどうやってあんな化け物を倒すんすか?イリアナ様を疑う訳じゃないっすけど、作戦内容くらいは聞かせて頂きたいなー、なんて」


「それは勿論。ですが誤解の無きよう。作戦の立案者は私では無くこちらのヴィルですので」


「へぇ、そっちの坊ちゃんが。そいつは意外でやしたね。そんじゃ本人様の口から聞かせてもらおうじゃないっすか、その作戦ってやつを」


「内容としては単純なものです。それぞれが持つ最大火力を順番に怪物にぶつけ、怪物の核を叩く。以上です」


「本当に単純っすね!?」


 発揮するのは良いのだが、少々悪ふざけが過ぎるだろうか。

 ヴィルはツッコミを入れてきたジャンドに睨みを利かせつつ、騎士団が怪物を抑えている隙に生徒達の中で最も消耗が大きいフェリシスの下へと駆け寄って行く。

 決して他と比べて劣っているという訳では無く、ただ火力と効率を天秤に掛けた結果火力を選んだだけの事。

 マーガレッタに支えられながらやっとの思いで立つフェリシスの側に辿り着くと、肩に手を置き、『第二視界領域(プライベート)』で内包する魔力量を見つつ話し掛ける。


「大丈夫かい、フェリシス。キツそうなら無理せず退いていても……」


「いえ、問題ありません。あと一回くらいなら、やれます」


「あと一回って……フェリシス、あなた顔が真っ青じゃありませんの。魔力欠乏の症状ですわ。無理をせず下がっていなさいな。誰も責めませんし、責めさせませんわ」


 マーガレッタの言葉は正しい。

 魔力の消耗により青ざめた顔をしたフェリシスに余裕があるようには見えない、そしてその事を理由に魔術を使えずとも、この場に不参加を咎める者は居ないだろう。

 だが……


「ですがもし万が一、私のせいで足りないような事があれば取り返しがつきません。それに、ここで退いてはまた一歩遅れてしまう気がするんです。ですから、どうか」


 フェリシスはあくまでも参加する気のようだ。

 分かった気になるつもりは無いがヴィルにもその気持ちは多少理解出来る、故に可能な限り意志は汲みたい所。

 ヴィルは目を閉じて集中し、手の平を通してフェリシスの肉体に魔力を流し込んでいく。


「これは……」


 肉体は魂の器、魔力は魂のほつれた破片。

 魔力は人それぞれ十人十色、異なった質や波形をしており、通常ならばどれだけ緻密に魔力を操作したとて、他人に相容れない己の魔力を譲渡する事は不可能だ。

 だが、ことヴィルだけは違う。

 ヴィルはエネルギー操作という極めて高難度な魔術を授かった影響で、魔力操作の精密性においては世界有数。

 加えてエネルギー操作を併用し、魔力に干渉し調整する事で少量ではあるが魔力の譲渡を可能としているのだ。

 目に見えて顔色の良くなったフェリシスにマーガレッタが驚き、またフェリシス本人も驚愕を隠し切れない。


「疲労が取れて身体の調子が戻って……いえ、魔力が回復した?」


「ヴィル、あなた一体何をしたんですの?」


「ちょっとした気休めだよ。それよりも、そろそろ仕掛けないと銀翼騎士団(シルバーナイツ)も持たないかもしれない」


「そう、ですわね、ええ。フェリシス、今は目の前の敵に集中しますわよ」


「はい、マーガレッタ様」


 エネルギー操作については国家機密法の下に守られたれっきとした国家機密であり、それを使用する技術に関しても同様に口外禁止である。

 誤魔化された形になるマーガレッタは釈然としない表情だったが、意識を切り替えた後の彼女はその不満を引き摺っている様子は微塵も無い。

 そうしてマーガレッタが切り替えればフェリシスも自然と従う、二人はヴィルの想定通りに動いていた。


「それで、一体どのような順番で仕掛けますの?」


 気が付けば、ヴィルの周囲には指示を仰ぐイリアナと友人達が集まって来ていた。

 何か意思疎通をしてヴィルが司令塔に収まった訳では無く、信頼を伴うごく自然な流れとしてのこの形。

 ヴィルはその信頼に応えるべく、作戦の内容を構築し口を開いた。


 ―――――


「触手がまた再生したぞ!現在八本!」


「魔術がどんどん高度なものに変わってる!これ以上は防ぎきれない!」


「本体に近づくな!取り込まれるぞ!」


「こいつは……またキツそうな相手っすねぇ」


 ヴィル達が作戦会議をしている間、怪物を相手取る銀翼騎士団(シルバーナイツ)だったが、ジャンドが呟く通り戦況はあまり芳しくなかった。

 高い殲滅力を持たない騎士達では怪物の再生能力に太刀打ち出来ず、消耗するばかりで決定打に欠ける。

 これが時間稼ぎの持久戦であると最初から分かっていなければ、とうに撤退している程の酷い戦いだった。

 だがその苦戦もここまで、時間稼ぎの本懐、本命の殲滅力が到着する。


「皆さん、お待たせして申し訳ありません!今から仕掛けるので可能な限り標的から離れて下さい!」


「坊ちゃん……!」


 口の中だけでそう呟いたジャンドが振り返れば、そこには今の状況には頼もしすぎる戦力を引き連れたヴィルの姿があった。

 そのヴィルは怪物を指さし、今にも攻撃の指示を出しそうな勢いである。


「ッ!撤退撤退、撤退するっす!巻き込まれたらただじゃ済まないっすよ!!」


 慌てて指揮を執るジャンドに、慌てて怪物から離れていく騎士達。

 そうして躊躇う理由の無くなった怪物に向けて、まずは第一の矢が放たれる。


「――『風車』っとぉ!」


 まず先陣を切ったのはフェロー、彼の手の平から放たれたのは円盤状の風属性物理魔術だ。

 しかし最大火力をぶつけるという本作戦において、その魔術はあまりに小さく見えた。

 直径十五センチの頼りない魔術、だがフェローの『風車』の本領はここから先にある。

 放たれた円盤はフリスビーのように横向きに怪物へと直進していくが、よく見ると高速で回転している事が分かるだろう。

 そしてその回転は周囲の空気を取り込み、圧縮する、二つの過程を繰り返しながら円盤が超高圧の圧縮空気を纏い、今怪物に直撃する。

 ――当たった瞬間、圧縮されていた空気が解放され、回転の勢いそのままに嵐となって怪物を斬り刻んだ。

 大量の触手が捩じ切れて吹き飛び、体表を激しく削られた怪物が形容し難い叫び声を上げる。

 周囲の空気を引き寄せるという性質を付与した小規模の空気塊を撃ち出し、動線上で圧縮した空気を螺旋状の爆弾と化す、それこそが『風車』という魔術の正体なのだ。

 だがそんな魔術で付けた傷も、怪物はみるみるうちに再生していってしまう。


「――『白昼霧』ッ!」


 傷が塞がりつつある怪物を、突如発生した白い霧が瞬く間に覆い尽くす。

 あれだけの巨体、あれだけの範囲を一瞬で霧に沈める大規模魔術を行使したのは、ヴィルの()()()により魔力を回復したフェリシスだ。

 溢れ出した魔力が蒼雷と水球と化して周囲に漏れ出す彼女は現在、枷を外し出力限界を開放した状態にある。

 この状態であればあれだけの霧を生み出した理由として十分、いくら肉体に大きな負荷が掛かるとはいえ、この一度きりの魔術の為であればそこまでの影響は無い。

『白昼霧』の説明に多くの言葉は不要、理由はそれがただ何の変哲も無い霧を生み出すだけであるからだ。

 攻撃性は微塵も無く、また怪物の再生を妨げるような特殊な作用というものも存在しない、ただの水分。

 さてフェリシスの作り出したこの霧、非物理の水属性魔術が生み出す水が不純物を含まない事実は知る人ぞ知る所であるが、フェリシスのこの物理魔術はその限りでは無い。

 通常の魔法陣に加え大気中の不純物を取り込む過程をあえて追記された『白昼霧』は、続く本命の魔術師が放つ魔術の効果を最大限にまで引き出す役割を果たした。


「よくやりましたわ、フェリシス!――『百雷津波』!!」


 ――目視の叶わない怪物の上空、天の鉄槌が降り注ぐ。

 大地と大気が震える電撃、自然の産物たる雷そのものの威力を有した魔術がマーガレッタから放たれた。

 体表を裂き肉を焼く雷撃は第一発目、直前のフェリシスの魔術により濡れた怪物に直撃した事で、その威力を十二分に発揮し肉体の奥深くまで浸透する。

 霧に包み隠された奥、怪物が悶える気配。

 しかし霧が晴れる気配は未だ無く、そしてマーガレッタの魔術は『()()津波』だ――続く無数の光条が怪物に突き刺さり、霧が明滅を繰り返す。


「えげつねぇ……」


「アタシが露払いとか言っといてなんだけど、こりゃ近寄れもしないわね」


「もしかして出番、ない……?」


 絶え間無く落ち続ける稲妻と、電流を逃がさない濃霧は最早怪物を閉じ込める牢獄だ。

 檻なのだから怪物が出られないのは当然として、本来は周囲の触手を相手取る筈だったザック、クレア、クラーラまで近づく事が出来なくなってしまっている。

 それ程の迫力、それ程の威力。

 マーガレッタとフェリシス、二人の力が合わさった魔術はやがて、マーガレッタの『百雷津波』の終わりと共に霧ごと消え失せた。

 これはマーガレッタの魔力が尽きたのではなく、激しく息を乱すフェリシスの魔力欠乏症を案じての事だ。

 そうして明かされる怪物の惨状、体表はフェローが付けた傷の上から醜く焼け爛れ、霧の伝導効果による雷撃の浸透で奥深くまで見るも無残にズタズタになっている。

 しかし怪物もしぶといもので、それだけ傷を負っても尚肉体は回復の兆しを見せていた。

 だが落雷と濃霧の消失、この事実は攻め手の攻撃の終わりを示しているのではなくその逆、更なる猛攻開始の合図だ。


「イリアナ、合わせて」


「やれやれ、私はこれでもシアの先輩なんだがね」


 バレンシアとイリアナ、レッドテイルとヴァーミリオン、同じリベロの名を冠する二人の魔術師が怪物に掌を向ける

 イリアナの呪符が飛翔し、怪物を囲うように円形に等間隔に配置される。

 一呼吸置き、魔力が紡がれる。

 二人が同時に魔術を行使した。


「「――『彼岸花』」」


 怪物の足元に突如として巨大な魔法陣が出現する。

 色は赤、肉塊の鮮色も霞む赫赫たる真紅、その色から連想されるのは生命を焼き尽くす灼熱の劫火だ。

 ただこれだけの大魔術が直ぐに発動出来る訳も無く、大きすぎる魔力の胎動に危機感を感じたのか、自身の回復も後回しに触手を再生、バレンシアとイリアナへと襲い掛かる。

 二人は現在術の構築と維持に掛かり切りで、触手の対処に少しでも意識を逸らせば魔術の崩壊は免れない。

 しかし二人の表情に焦りは無い、あわや直撃という場面が訪れても尚。

 その理由こそ――


「「「させない!」」

「させねぇ!」


 迫る触手を斬り落とし、決して二人に届かせないザック達近接組の貢献の賜物だ。

 先程クラーラは出番が無くなる事を危惧していたがそんな事は無い、三人がいなければ作戦は中断を余儀なくされていただろう。

 そして怪物が自信を後回しに触手を再生する悪手を取った事で、バレンシアとイリアナの魔術は回避不可能の必殺技として怪物に炸裂する。

 ――怪物の命を彼岸に渡す、致命の大輪が今花開く。


『~~~~~~~~~~~~~~~~!!』


 身を焼く劫火に声にならない声を上げる怪物。

 簡易詠唱と巨大魔法陣の組み合わせによって十数秒、練り上げられていた魔力がようやく解放に至った。

 それは夏の虫にすら飛んで火に入る事を躊躇わせる業火、二十メートル近く離れているヴィル達ですらじりじりと肌が熱く、目を焼かれぬよう薄目でしか見れない程の高温。

 灼熱の彼岸花は半ばから断ち斬られた触手全てを灰になるまで燃やし尽くし、今まさに再生を始めようとしていた傷だらけの肉体をも炭化させていく。

『彼岸花』――炎のエキスパートたる『裁定四紅』、魔術師二人の魔力制御を要する大規模火属性物理魔術。

 試行錯誤と検証により通用すると判明した物理の火属性、しかしイリアナはともかくとしてバレンシアの方はこれの適性がそれ程高くない。

 そこで魔術発動の過程にイリアナの魔法陣を経由する事により物理の炎へと変換、『彼岸花』が咲き誇る。

 吹き上がる火の粉が飛散する事は無い、炎はイリアナの呪符に完全に制御され魔法陣の効果範囲を離れず、地獄と化してただ一点集中対象を焼き殺し続けるのだ。


(流石の出力。僕にはどうやっても真似の出来ない魔術だ。これで決まってくれれば良いんだけど)


『精霊殺し』を握り締め、心中でヴィルが呟く。

『風車』、『白昼霧』と『百雷津波』、そして『彼岸花』。

 普通に考えれば、あれだけの質量を持つ生物を殺すのに、既に十分過ぎる威力の魔術を撃ち込んでいる。

 それでも尚安心できないのは、相手が代償魔術『術式融解(メルトダウン)』を使って膨大な魔力を得た上、術者であるフェリドを取り込んだ守護精霊であるからだ。

 ヴィルが危惧する中『彼岸花』が解け、術式の終了と共に美しく燃えていた炎が散華する。

 果たして、燻る小火と上がる黒煙の向こうに見える怪物の姿は……


「燃え、尽きたの……?」


「動く様子は無い、か」


 長く息を吐くバレンシアと油断無く呪符を構えるイリアナの視線の先、大火に晒された怪物は一回り程小さくなり、表面が炭化し沈黙していた。

 より黒々しく染まった体表は見るからに硬そうで、命の気配を微塵も感じさせない。

 これは勝負ありかと、騎士達が浮足立ちかけたその時だった。

 ――ぴしり、音を立てて体表がひび割れる。


「!こいつまだ死んでないぞ!」


「総員警戒!」


 表面のひび割れは徐々に怪物全体に伝播していく。

 崩壊は止まらず、欠けた体表はボロボロと崩れ落ちていき、新しく表れた中身は元の黒ずんだ肉をしている。

 欠ける端から触手が湧いて出て、これまで見せなかった異様な動きをしだした。

 いくら『彼岸花』により質量が減ったとはいえ、あれだけの損傷を受けて尚再生するのはあまりに異常だ。

 フェローとジャンドが注意を促し、騎士と生徒の手に自然と力が籠る。

 皆が怪物の出方を注視する中、ヴィルだけはその待ちの姿勢を危険視していた。

 具体的に説明出来る根拠や確証は何一つとして無い、だがヴィルには炭化した表皮が崩れていくその様が、何か殻を破って生まれて来る新たなナニカに思えて仕方が無かったのだ。

 警戒しているだけではいけない、その前に決着をつけなくては。

 そういう考えを視線に込め、ヴィルはこの場でただ一人怪物を見るのではなく、指示を仰ぐようにこちらに視線を向けていたジャンドを見た。

 こういう時こういう場面で、ジャンドはヴィルの意図を違えない。

 ただ思わぬ方法で以てヴィルの期待に応えるのみ。


「いややっぱ警戒止めっす!待ってるだけなんて据わりが悪い、ここは自分のとっておきで止めを刺して――どわぁああああ!!」


 唐突に皆に聞こえるような独り言を叫んだかと思えば、これまた唐突に懐に手を突っ込みながら怪物へと駆け出したジャンド。

 あまりに短絡的で無策な行動に、その場の何人かが思わず声を上げるが案の定、接近するジャンドは辺り構わず振り乱される触手に打たれ遥か後方へと吹き飛ばされてしまった。

 言わんこっちゃない、それが無様なジャンドの姿を見た大半の感想だっただろう。

 体を張った忠臣の献策に見事と、そう心中から賛辞を贈ったヴィルを除いて。

 ――ジャンドが吹き飛ばされた空中から、勢いよく落下してくる物体がある。

 それはジャンドが懐から取り出そうとしていたある物、怪物に止めを刺そうとしたのではなく、ただこうして()()にヴィルに届ける為だけに演技をする奇策を用いたある物。


「――――」


 ジャンドの物ではない、ましてやヴィルの物でもないとある銃器に、ヴィルは短剣を収めてその手を伸ばす。

 ――騎士『シルバー』が有する切り札たる最大火力、『蠍の一刺し(アンタレス)』が今ヴィルの手に握られた。


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