5 クラスにて
翌週。侑都は、少しふわふわした気持ちで登校していた。
(「園芸部、一緒に入ろ?」)
先週の記憶。
聞き間違いとかでは、ないはず。
金曜・土曜・日曜と三日間、侑都はずっとぼうっとして過ごした。
「あーーー………」
何で誘ってくれたんだろう、とか。
何で自分から言わなかったんだろう、とか。
いずれにしても……
「何か、言うべきだったよなあ……」
喜び、困惑、後悔。
色々な感情が混じり合い、整理しきれていない。
あのときは呆気に取られ、固まってしまった。
すぐ電車から降りてしまったから、仕方ないと言えば仕方ない。そう言い訳することもできるが、そうしたとて何かが変わる訳ではなかった。
侑都の方とて、園芸部に興味がないわけではない。むしろ、先週の活動を経て、やり甲斐や楽しさ、そして居心地の良さを味わっている。
現に、帰り道は、侑都の方から会話の続きを求め、呼び止めているのだ。
ただ、なぜ呼び止めたのか?と聞かれても、答える事は出来なかったように思う。
楽しかった時間が終わることへの寂しさなのか。
もう少し高林さんと話していたかったからなのか。
結局、考えも纏まらないまま、学校へと辿り着いてしまった。
(えーと………)
登校してきた侑都は、席に着き、ぐるりと教室の中を見回した。
高林さんはまだ来てないみたい。
たとえもう来ていたとしても、声をかけようとかそういう訳ではないのだが……なんとなく探してしまっている。
キョロキョロしすぎるのも不審がられるかな、と視線を前に戻す。すると、ちょうど瑞貴が教室に入ってくるところであった。
瑞貴はそのまま自分の席に向かい、鞄を降ろす。今日はまだ午前中だけのはずだが、鞄の他にエナメルバッグを下げていた。
「はよ、早いな。家近かったっけ?」
「おはよ。いや、そうでもない。電車組だし」
「何か用事とか?」
「いや、違う………んだけど」
なんて言えば良いのやら。
時計を見たが、始業時間まであと30分ほどある。
「なんか、早く来たかった……ような気がする」
「なんだよそれ」
ちょっと笑われた。仕方ないけど。
「ていうか、もう部活始まったの?」
「ん?ああ、これか。部活はまだ始まってないんだけど、グラウンドが空いてるみたいで。一緒入る約束してる奴とキャッチボールしようかなと」
「へぇ……」
やりたいことが決まってる人はすごい。
「まぁ、ジャージとかはどうせ使うしな。荷物少ないうちに持ってきといた方がいいだろ」
「そりゃそうだ」
瑞貴、わりと頭いいんだよなあ。
その時視界の端に、誰かが教室の戸を開けて入ってくるのが見えた。
高林さん。
胸がほんの少し高鳴った。
「どした?」
「ああ、いや……なんでも」
がっつり目で追ってしまっていた。
「そっか。ああ、先週言ったように、野球部来てくれるなら歓迎するぞ」
「ありがと。まだ考え中だから、また返事するよ」
瑞貴はトイレに行くと言い、出て行った。
ぐるりと高林さんを探すと、一番後ろの席に座っているのが見えた。
(今日は眼鏡をしているんだな…)
連絡先くらい、聞いておけばよかった。
こう思うのも何度目なのだろう。