4 いつもと違う帰り道
雨合羽に跳ね返った雨粒が、ポツ、ポツと音を立てている。
自転車に乗っている時には、風の音や車輪が大きく聞こえるためだろうか。歩いていると、普段あまり気にならなかった音がよく聞こえてくる。
二人で、自転車を押して歩く。その非日常感ゆえに、いつもより神経が鋭敏なのかもしれない。
「へぇ。結構色々なイベントがあるんだ…」
歩き始めると同時に、園芸部の活動について聞いてみた。
中庭や花壇、畑の手入れが日々の活動で、荒天の日は中止になることもあるらしい。
あと、隣町にある植物園で開催される園芸展示会などに、育てた草花を持っていくこともあるそうだ。地域交流まであるのか、すごい。
昨日みたいな沢山のプランターを運ぶ事はあまりないけれども、土や肥料などの運搬をすることは多いようだ。
去年は二人の男子部員がいたので、かなり助かっていたみたい。
「それでね!しかもお姉ちゃん、去年の文化祭でね―――」
それよりも高林さんは、お姉さんのことについてノリノリで話してくれる。どうやら、かなり自慢のお姉さんみたいだ。
高林小町さん。3年生で、生花のコンクールにも出たりしているほど優秀らしい。元々、お母さんが生花教室をやっているらしく、憧れて始めたんだそう。
「お姉さん、すごいんだね」
「そう!そうなの!!」
目がキラキラしてる。
「高林さんも生花やってるの?」
「うーん、たまに一緒にやるけど……あんまり得意じゃないんだ。作法とか」
あはは、と苦笑しながら教えてくれた。
それよりも、種や苗から育てて生育する様を見ている方が凄く楽しいみたい。
「家の庭でもね、よく野菜作ってるんだ。今はほうれん草とアスパラガスがあったかな?」
「アスパラガスって庭で作れたんだ……」
「うん。といっても、食べられるまでに時間がかかるんだけどね」
アスパラガス、スーパーで見たりする形以外知らない。勿論花とかも咲くんだろうけど…
多分、ここで高林さんと話してなかったら、知らないまま過ごしていたんだろうなあ。
「昔お父さんがゴルフの練習してた場所があったんだけどね、お母さんに聞いたら『どうせたまにしかしないんだし、好きに使っていいんじゃない?』って言ってくれたんだ。今年はそこも畑にしちゃおうかと思ってて、楽しみ!」
庭、広そうだな…家も大きいんだろう。
というかお父さん、後でこっそり泣きそう。
「奥野くんは?何か育ててたりする?」
「僕は……小学校のアサガオくらい……?」
何年前よ、と笑われてしまった。
でも、それが変に心地良かった。
その後も質問したり、質問されたりを繰り返す。するといつの間にか、駐輪場まで到着していた。
「今更だけど、高林さんどっち方面?僕は久川で降りるけれど…」
「あ、一緒の方向。私は一つ前の新町で降りるよ」
自転車を置いて駅に向かい、電車に乗り込む。
平日の昼間ということで、乗った車両には誰もいなかった。
「流石にお腹すいたね……」
「確かに……」
もう時刻は正午を回っていた。そりゃお腹も空くわけだ。
座席に座って数駅進むと、高林さんの最寄駅が近づきアナウンスが流れる。
「じゃあね。また学校で」
「うん」
高林さんは立ち上がり、扉へ向かう。
と、またすぐに戻ってきて、僕の前に立った。
「ねぇ、奥野くん」
高林さんは、一つ息を飲み込んで。
「園芸部、一緒に入ろ?」
満面の笑みでそう言うと、ちょうど開いたドアから出て行ってしまった。
侑都はホームを足早に後にする高林さんの姿を、声も出せずに見ていることしか出来なかった。