23 理想の関係
さて、人生初の畑仕事だ。
畑になる箇所の草を軽く抜く。
そこに、用務員さんに小さな耕運機をしてもらい、柔らかくなった土を畝の形に盛っていくという流れになる。
「畝を作る前に、堆肥を土に混ぜ込んでおきます。堆肥はそこの小屋に置いてあるはずなので、撒きましょうか」
「あ、僕やりますよ」
「ありがと、奥野くん。リアカーがあるから、それ使ってね」
小屋に来てみると、袋に入った堆肥が積まれていた。沢山の農具もそこに置かれている。
さて。ここぞ、と思って名乗りをあげ小屋に来てみたが、袋がめちゃくちゃ重い。一袋20ℓ入り……ということは20kgか。
リアカーに積み、畑の場所まで運んでは袋を開け、そこに撒く。それを先輩や麻実が、クワを使って混ぜるようにしていく。それを何度か繰り返す。
……うーん、重労働………。
「よいしょ、っと……ふぅ、いい感じね」
「あ、なんか私、クワ使うの去年より上手くなってる気がします!」
正直しんどい作業だと思うのに、疲れを見せずにいるのは凄いなぁ。やはり去年もやってるし、慣れているのだろうか。
「うう、しんどい……明日、筋肉痛で学校休んでいい………?」
若干一名を除いて。
「ほら、あとは畝を作るだけなんだから」
「それが一番しんどいんだよー…」
そんな竹内先輩だが、作業はしっかりとしていた。小声で「夏野菜カレー……夏野菜カレー……」と呟きながらクワを振る姿は、少し滑稽だったけれど。
「じゃあ、始めましょうか!」
「どれくらい作ればいいー?」
「えっと……そうだね、予備も含めて12個くらいあればいいかな?一人当たり、3個くらい作ってくれると嬉しいです」
先輩方や麻実が畝を作り始める。その様子を見ながら、見様見真似で自分も作ってみる。
………なんだか、自分の作ったやつ下手だな……
形が歪というか、斜面が急な気がする。
「えっとね、こうするんだよ」
すると、先に作り終えていた麻実が隣に来て、作り方を教えてくれた。
「えっと……こんな感じ?」
「そうそう!あとね、クワはこうやって持つと使いやすいんだよ」
そして、麻実は自分のすぐそばに来て、自分の持っているクワを持つ。
その時。
軍手越しだが、手が重なった。
「ほら、こんな感じ!」
「あ、うん、ありがと……」
……心臓が高鳴って、それどころじゃない!
さっきまで土の匂いばかり嗅いでいたからか、突然鼻をくすぐった良い香りに意識が支配される。
どう、わかった?と言いながら、少し離れて笑顔を見せる麻実。
直視できないのは、西陽が眩しいからだろうか。
その後、半分ほど意識を持っていかれながらも、なんとか畝作りを終えた。
「よし、とりあえず形はできましたね」
「お疲れ様でした!」
「半年分のカロリー使ったよー………」
今回ばかりは、竹内先輩に同意。
正直、今から帰るのが億劫にさえ思える。
「もー動けない。理紗ちゃんがおぶってくれないと帰れない。助けて」
「………そっか。あーあ、部室に戻る時に、自動販売機でプリンでも買って、裕佳梨と一緒に食べたかったんだけどなー。裕佳梨おぶってたら買えないなー」
「………プリン、たべる……」
「じゃ、歩かないとね?」
「うん……」
そんな二人の様子を微笑ましく思い見ていると、肩のあたりをトントンとされた。
横を見ると、くすくすと笑う麻実がいる。
すると、そのまま麻実がそっと身を寄せてきた。
「……仲良いよね、先輩たち」
「うん。本当にね」
2人並んで、先輩たちを見る。
吉岡先輩と竹内先輩。
二人で話している時は着飾ることなく、自然に笑い合っている。
「………いいなぁ」
麻実が、ぽつりと呟いた。
どんな表情でそれを言ったのかはわからない。
でも、その声色は。
ひどく、落ち着いたものに聞こえた。
「……ね、侑都くん」
「ん?」
「ちょっと来年の話、するね」
「……うん」
麻実は、息を整えるように深呼吸をした。
そして、少し間をとり、口を開く。
「私たちが、2年になって。先輩になって。それで、後輩たちが入ってきてさ」
「うん」
「茶化しあったり、笑いあったりして」
「…うん」
「それくらい、お互いに……信頼しあう」
「…………」
「私は、ね。……侑都くんと」
肩が、コツンと触れた。
「そんな関係に、なっていたいな」