21 細かくしてくれたら…
水曜日。
今日は、園芸部のミーティングがある日だ。
学年の違う先輩方とは、基本的にミーティングの時くらいしか会うことはない。
部活用のメッセグループも作成してあるが、ミーティングの有無や活動報告くらいにしか今のところ使われてないようである。
事実、園芸部の雰囲気に惹かれて部に興味を持ったので、部員みんなが揃うこの日を楽しみにしていた。
「今日は多分、畑の方に植える野菜を決めたりとかじゃないかな?植えるなら4月のうちに、って野菜もいくつかあるしね」
「お、野菜かあ。畑で何か植えたりするの、小学校のサツマイモ以来かもしれないな」
「ふふ、一度野菜作りをやっちゃうと、収穫の時期が待ちきれない!って気持ちが分かってもらえると思うな。………今年は何植えるんだろうなー」
麻実はウットリした顔で、「ナスとオクラは捨てがたい……ううむ」などと呟きながら別世界に旅立ってしまった。
ちなみに、今は部室に向かっている所なのだが、今日は麻美が隣で歩いている。
(「待ち合わせて、2人で一緒に行かない……?」)
とか、そういうやりとりがあったわけではない。ただ、下駄箱で偶然会っただけである。ちなみにもう眼鏡はしていなかった。
麻美とは教室で全然コミニケーションを取っていないため、実際に会って話をするのは昨日の水やりの時くらいだった。なので、こういう雑談をするのはちょっと久々な感じ。
「ま、後で先輩たちといっぱい話しながら決めようっと。ところでさ、侑都くんって苦手な野菜とはあったりするの?」
「あー………。実は、一個苦手なのがあって。園芸部に入っておきながら、少し申し訳ないんだけど」
「それは仕方ないと思うよ?園芸部だから野菜全部好きじゃなきゃだめとか、誰も言わないしね。だから気にしなくてよし!」
「うん、ありがと。克服したいな、とはずっと思ってるんだけどね…」
「ちなみに、何の野菜?」
「……………………ピーマン」
食べられないわけではないんだ。
でも、どうしても苦味が好きになれない。なので、食卓に出された分は食べるけど、また欲しいとは思えないんだ。
「なるほど、ピーマン。苦手な人多いよね」
「あ、ハンバーグに刻んで入ってたら、食べられるんだよ」
「え?!…………ハン、バーグ………ッ」
「……いや、婆ちゃんが、よくそうやって食べさせてくれててさ」
「……こ、子どもっぽくて、可愛いと思う、よ?」
麻実は腹を抱え、笑いを堪えている。
俯きがちにそうするのは、最早笑ってるのと変わらないんだよなあ………
ピーマン、もっと頑張って食べられるようになっときゃよかった。
「………ふぅ。あ、着いちゃったね。鍵は開いてるみたいだし入ろっか」
麻実がガチャリと扉を開くと、もう先輩方は座っているようだった。
といっても、竹内先輩は相変わらず机に張り付くように、ぐでーっとしていたが。
「こんにちは、麻実ちゃん、奥野くん」
「うぇーい、先輩方はお待ちだぞー」
なんか知らない輩がいますよ。吉岡先輩、つまみ出さなくていいんですか。
「遅れてすみません。終わってからすぐ来たんですけど……」
「いや、全然大丈夫よ?私たちも3分前くらいに来たばかりだし」
「あ、そうなんですか」
竹内先輩をじろりと見てみた。
ひゅー、ひゅー、と口笛を吹………こうとして断念し、目を背けられた。
うん。今日も変な人だ。
「じゃあ、ミーティングを始めますね。今日の議題は、畑で植える野菜を決めることですね」
「夏野菜だー!カレーに入れて美味いやつをたくさん育てよう」
ね、言った通りでしょ?とでも言うように、麻実からウインクが飛んできた。
小さく頷き返したが、そういうアイコンタクトみたいなの、むず痒いんでやめてもらえません?
「なにか植えたい野菜の案がある人、よかったら言ってみてね」
「はい、はい!私ナスがいいなー」
挙げられたものを、吉岡先輩がホワイトボードに書いていく。
書記役とかいないのかな?今度やる時は、立候補してみよう。吉岡先輩に仕事が集中しすぎても、大変だろうしね。
「うん、いいですね。他にありますか?」
「あ、じゃあ僕、キュウリがいいです」
「キュウリ……と。じゃあ、私もトマト育てたいから、書かせてもらうわね」
他にも、竹内先輩から「オクラがいい!」と意見が出て、それが書き込まれていく。
頭の中は夏野菜カレーでいっぱいなのだろう。
「麻実ちゃん、何かある?」
そういえば、 まだ何も言ってなかったな。
そう思い、麻実の方を見た。
「あ、あります。ええと―――」
すると、麻実はこちらを向き、一度ニッコリと笑ってから―――
「ピーマン!!」
と、言った。
………………………………何故?