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”湿度高め”な姉妹との高校生活  作者: minint
第一章 
19/46

19 らしさ



 昼食を食べ終えてから、10分くらいは経っただろうか。春の陽気と穏やかな風を感じながら、ベンチに腰掛けて過ごしていた。

 


 二人の間に、それほど会話はない。



 桜っていいよね、とか。

 食べすぎたかも、とか。

 あったかいねぇ、とか。



 当たり障りのない事をどちらかが呟き、それに軽い返事を返すだけ。

 しかし、そんな何気ない時間が、ものすごく心地良く思えてくる。




 お腹もまだ満腹だし。

 なんか、ウトウトして……き…………







 ピトッ。





 頬に衝撃が走った。




「っ!?……え、なに、どうかした!?」



 ベンチから跳ね起きる。

 頬を触ってみると、少し濡れていた。



「いや……。な、なんかすっごく気持ちよさそうに目を閉じてたから……つい。出来心で?」



 高林さんを見ると、目を泳がせていた。

 ペットボトルを持ったままのポーズで固まっている。



 いつの間にか目を閉じていたらしい。

 どうやらその隙に、ペットボトルを頬にくっつけたのだろう。



「寝そうになってた……」


「いや、大丈夫だよ。実は一回やってみたかったんだよね、頬に冷たい飲み物あててびっくりさせるやつ。……というか、起こしちゃってゴメンね?」



 ドラマとか漫画でよくあるアレね。確かに、自分もやってみたいと思ったことはある。


 でも、いざやられてみると心臓に悪いな……。



「いや、こちらこそごめんね。なんか、気持ちよすぎて……」


「それならそれで、誘って良かったなって感じがするから嬉しいけどねー」



 高林さんも立ち上がり、んんーっと伸びをする。


 腰をトントンしている仕草は、なんかお婆ちゃんみたいな可愛らしさがあった。



「……じゃ、そろそろ片付けて歩こっか。写真も撮りたいしね!」


「うん、そうしよっか。このまま座ってたら、また寝ちゃうかもしれないしね……」


「あれ、まだ眠いの?じゃあもっかい……!」


「いや、もういい!もういいから!」」



 えい、えい、と言いながらペットボトルを突き出して、フェンシングの攻撃みたいな動きをしている。


 その独特な動きに、思わず笑ってしまう。


 すると高林さんも、あははと笑顔で返してくれた。







 ウォーキングコースに戻ってきた。今度はコース沿いに歩き、公園内を散策していく。


 時折立ち止まり、スマホやデジカメを取り出して桜を撮っていく。何というか、写真を撮っている姿も絵になるな、と思いながらそれを見ていた。



「スマホとデジカメ、両方で撮るんだね」


「うん。何て言ったらいいかな……用途?目的?が違うんだよね、この2つって」


「なるほど……?」



 ピンとこなかったため、微妙な顔をしてしまった。



「ええとね……私も別に、カメラとか詳しいわけじゃないんだ。何となく、自分の中で【スマホは記憶用】【デジカメは記録用】って、私の中でそういう感じに分けてるの」


「うんうん」


「後でフォルダを見返して、あんなことあったなーって思い出しながら楽しむのがスマホ。それで、綺麗に記憶を呼び起こしたり、そこのズームしておいた写真を見たりするのがデジカメかな」


「なるほど。少し分かってきた」


「特にお花とかは、手に届かないところにあることも多いからね。……だからこそ、それを綺麗な形で残したいなって思うんだ」



 にっこりと笑いながら、人差し指で頬をかく。

 これは、最近よく見る照れている時の仕草。



「なんか、いいね。その考え方。()()()()()()()な、って思うよ」



 高林さんは、少し呆けたような顔になった。

 喜んでいるような、戸惑っているような……不思議な表情だった。





「…………『()()()()』、か………」





 そう呟き、そのまま先程の言葉をゆっくりと反芻するように目を閉じた。

 

 誰も、何も言わない時間が流れる。

 さっき、ベンチに座っていた時に流れた沈黙とは何か違う感じがした。


 風の音が、やけに大きく聞こえる。


 何か、引っかかる言葉でも言ってしまったのだろうか……?




「……あの、何か気に障ったかな?」


「……え?あっ、いやいや!!全然そんなことないよ!」



 高林さんは慌てたように否定してくれた。とりあえず大丈夫そう……なのかな。



「よかった。……でも、なんかごめん、変な空気にしちゃったかも」


「あはは……私も、なんかポカーンとしちゃった。でも、本当に、何でもないんだよ」



 私もゴメンね、と手を合わせる。



「そっか。でも、何か気になってることとかあったらすぐ言ってね?出来ることならするからさ」


「別にそんな…………………あっ」



 そう言うと、高林さんは探偵みたいな格好をし、考え込んでしまった。

 やばい、大袈裟に言いすぎてしまったかもしれない。




「………じゃあ、1つお願い。いいかな」


「で、出来る範囲でなら……」


「ふふ、それはどうだろ。オーケーしてくれると、私は嬉しいけど。…………えっと、ね」



 一度話を切り、息をすうっと吸い込んだ。

 そして、改めてこちらを見る。



 葉桜は、背景を柔らかく彩っている。


 桜の花弁は、まだたくさん舞っている。


 しかし、その吸い込まれそうなほど深く色付いた瞳から、今は目を離すことはできない。


 そしてそれは今、どうやら自分だけを捉えているのだ。





「……私のこと。名前で呼んでほしい」


「……名前で?」


「うん。麻実、って。……それで、私も侑都くんって呼びたい」


「…………いい、けど」


「……呼んでみて、ほしい」

 

「……………麻実。改めて、よろしく」



 瞬間、一気に首筋や耳が真っ赤に染まった。

 自分がそうしたというのに、キャパシティーが足りなかったのだろうか。目が泳ぎ、見るからに狼狽えている。

 


「じ、じゃあ、行こっか。侑都くん」



 振り返り、自分より先に歩き出す。その姿は、少し浮き足立っているようだった。




「…………………心臓がもたない…………」





 眼鏡をそっと外し、目頭を押さえる。


 そしてそのまま、もう一度前を見る。



 葉桜などの公園の景色が、少しぼやけて見えた。




 その中で、彼女だけは………



 麻実だけは。



 何故だか、はっきりと見えた気がした。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い感じの穏やかな時間についうとうとしてしまった侑都へ麻実のお茶目が炸裂。ペットボトルを突き出してフェンシングみたいにしてる麻実が可愛い。 名前呼びのとこが良い! 名前呼びをするとこで麻…
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