15 因果応報!
お花見。
家族に誘われて何度も行ったことはあるが、最近は行かなくなって久しい。一番新しい記憶でも4、5年前ほど遡る必要がある。
桜並木と沢山の出店。それが自分の中にある「お花見」のイメージである。成人になれば、そこに焼き鳥やアルコールが追加されるのだろう。
自分が中学に入ってからは、家族とは行っていない。なんとなく気恥ずかしくなってきたためだ。
勿論、友達とも「花見行こうぜ!」となったことはない。男友達だけで花見というのも、そこはかとなくシュールだし、話題にすらならなかったのだろう。なので、お花見というものに参加すること自体、とても久しぶりであった。
去年までなら、桜を見るといっても数分で飽きてしまっていたかもしれない。
だが、今は花を見ること自体に少し楽しみを感じている。そういう意味では、ワクワクしていると言っても過言ではない。
……いや、花見に行くというだけなら、こんなに悩んでないのかもしれない。
二人きり。これに尽きる。
何でまた?とか、初めは色々考えた。
勿論嬉しかったし、正直メッセを見た時はドッキドキした。布団にも飛び込んだし。
思えば、高林さんは、僕を色々と誘ってくれる。
入部を考えたきっかけの一言も、彼女がくれたものであった。
だが、不思議と「気があるのだろうか?」といった浮ついた気持ちにはならないでいた。
先日から頭の中にある、1つのひっかかり。
部活中の高林さんと、教室の高林さん。
どちらかといえば、その事について少し踏み込めるのかもしれない、という期待感の方が大きいように思うのだ。
……まぁ、それはそれとして。やはり二人きりで出掛けるのだ。折角なのだから、楽しいお花見にしたいという思いはある。
プランなどについては考えてくれるようだったが、全てを受け身でいるというのも申し訳ない。高林さんも、お花見は今年初めてだと言っていた。いい思い出になるといいなと本気で思っている。
だからこそ。「どうすればより楽しんでくれるのだろうか?」という新たな悩みに、脳のリソースはどんどん侵略されていくのであった。
……と、いうことで。
一つ、打開策を講じてみる事にした。
「なあ、瑞貴。お花見って何するんだ?」
「は?」
瑞貴は弁当に伸ばしていた箸をピタリと止めた。目をぱちぱちとさせ、何言い出したんだコイツという顔で見られた。
今日は食堂に誘い、各々パンや弁当を持ち込んで食べている。知り合いが周りにいない方が話しやすかったしね。
「んーと、瑞貴のもつお花見のイメージが聞きたいんだ。客観的なやつでも、経験からくるやつでも構わないから」
一人で考えていても、自分には知識も経験もないので埒があかない。しかも、お花見当日までそれほど時間が無いのである。
色々気付かれる事はあるだろうが、それでも瑞貴ならおそらく大丈夫だろう。そう思えるくらいには信頼している。故に、意を決して聞いてみたんだ。
「花見、行くのか?」
「うん。そういう事になった」
「……ふぅん。ま、いいや。花見か、そうだな…」
少し探るような目をしたが、何も言わずに考え出してくれる。出来る男である。
「まぁ、オーソドックスなのだと……ブルーシート敷いて、大人数で集まりながら食ったり飲んだりって感じかな。でもこれは家族や親戚、或いは会社やサークルみたいな大人数の集まりってイメージだけど」
「うんうん。確かにね」
「あとは、特定の場所に居続けるんじゃなく、歩きながら楽しむパターン。これは夫婦や恋人みたいな少人数でするイメージがあるな。あちこち動き回る分景色も変わるし、色々な出店を巡れるから会話も続きやすい」
「なるほどねえ」
めちゃくちゃ分かりやすい。やり手の社会人みたい。
「俺もあんまり詳しいわけじゃないからな。イメージっていっても、これくらいだわ。……ま、あんま慣れてないなら散策した方がいいんじゃねえかな」
「ありがと。参考になった」
どちらにせよ、二人きりだとあまり気合を入れて物を持っていったりしない方が良さそうだ。
最低限の準備をするのは前提として、何か別のアプローチを考えよう。贈り物とか、そういうの。
「瑞貴は柚子ちゃんと行ったりしてないの?」
ぐふっ、と咳き込む瑞貴。ごめん、食べる邪魔ばっかしてるね。
「いや、まぁ……行ったけどよ」
行ってたんかい。
「でも、両方の親もいたし。さっきの話で言うなら前者のパターンになるな。お前ら二人の参考にはならんと思うぞ」
……やっぱり気付いてたか。柚子ちゃんの話を出したからだろうか?やり返されたような感じがする。
「どんな感じだった?」
「まぁ、普通だよ。普通。柚子がうっさかった。それだけ覚えてる」
そうですか。ノロケにも聞こえますがね。
と、その時。瑞貴の後ろに誰かが立っているのに気付いた。………なんか、すっごく怒っているように見える。
「親はうるせーし、柚子はなんか色々お節介するしで
正直ゆっくり花を見た記憶なんかねーよ。毎年毎年、おんなじ場所だしな。お前らみたいに、静かな所で、ゆっくり花が見てえもんだよ俺もさ……」
「……瑞貴。おい瑞貴」
「相談乗ってんだし、こっちだって少しくらい愚痴言わせてくれよ。アイツは口うるさく言いたいこと言うくせに、俺が言い返すと親が怒んだよ。俺だって言いたいことが溜まりに溜まってんだ……」
「うるさくて悪かったわね?」
「あ?………………うげぇ……なんでここに……」
うげぇって。また、火に油を注ぐような……
「侑都くん、久しぶりだね。……ここ、座ってもいいかな?」
「あ、どうぞどうぞー」
「侑都、お前……」
………南無三。
丁度食べ終わったパンの袋を置き、二重の意味で手を合わせた。