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”湿度高め”な姉妹との高校生活  作者: minint
第一章 
14/46

14 さくらさくらさくら



 登校時にある、小川沿いの道。

 電車通学の生徒は、皆ここを通って学校へと向かうことになる。


 小川沿いには沢山の桜の木が植えられており、進級時には満開の桜が出迎えてくれていたのが記憶に新しい。


 時間は放課後、17時過ぎ。

 今日は部活のミーティングがあった。一時間ほど直近の予定を話したり、世間話のようなことをして解散となり、二人で帰っている所である。



 自転車を漕ぎながらふと見上げると、その枝先からは柔らかそうな若葉が次々と顔を出していた。数は花弁と比べて少し少ないくらいだろうか。

 二色のコントラストが見目麗しく、人によってはこちらの方が好きな人もいるだろう。




(「―――――ぃ」)




 アスファルトには、所々に薄桃色がふんだんに散りばめられている。なんとなく、これにも風情がある気がする。

 なんとなく踏むのを躊躇う気持ちもあるが、流石に避け切れる数ではない。




(「―――――ねぇ、聞こえて―――」)




 この桜たちも、時期に散ってしまうのだろう。桜が咲き、そして散っていくまでの短さには少し淋しさを感じる。

 「さくらさくらさくら」から始まる有名な現代和歌が、そんな情景を詠んだものだったっけ。



 いつか、この花弁達も風に吹かれてどこかへ旅立つのだろうか―――――

 




「―――――ねぇ!」


「うおっ!?……え、な、なに?」



 急に話しかけられ、心臓が大きく跳ねた。



「何度か呼んでたんだけどね……。んっと、大丈夫?なんかぼーっとしてる」



 後ろから話しかけられ、ハッと我に返る。

 ちらりと後ろを見ると、怪訝な顔をして自転車を漕いでいる高林さんが目に入った。

 



「……ちょっと似合わない事を考えてた」


「何それ。変なの」



 後ろから、くすくすと笑い声が聴こえる。

 なんとなくばつが悪い思いがしたので、コホンと小さな咳払いをした。


 今日は「春風」という言葉がぴったり合うような、暖かく柔らかな風が吹いている。




「なんかさ、園芸部に入ってから、普段気付かなかったことに興味が湧く気がするんだよね」


「ふぅん?」


「前は、桜見ても『綺麗だなー』くらいしか思わなかった気がする。でもなんか、今はちょっと違って見えるというか……」


「ふむふむ」


「あー、その、なんだ。まぁ、そんな感じのことをぼーっと考えてた。それだけ」



 ……言ってて恥ずかしくなってきた。

 何を感傷に浸ってたんだろう。今更ながら。



「まぁ、徐々に園芸部員としての自覚が出てきたってことで。うん。嬉しいよ、私ゃ」


「誰だよ…」



 ふぉっふぉっふぉ、と謎のモノマネをしている高林さん。それを見て、思わず苦笑してしまった。



 最近、話す機会が増えてきて気付いたのだが、高林さんはかなりのおしゃべり好きらしい。しかも、話をしていて、面白いと感じることが多い。

 今みたいに少し戯けてみせたりとか、冗談を言ったりする。


 自分自身、一緒にいて、なんとなく居心地の良さを感じている。

 こうして、二人で話す時間を心待ちにしている。そんな風に思うようになりつつあった。




 ……だからこそ。



 心の中に、しこりとなって残っているある言葉が、忘れられずにいた。



(「【月下美人】。詳しくは俺も知らないんだが……みんなの前で自分を出さないとか、そういう感じなんじゃねーかな」)



 あの時、瑞貴から聞いた言葉。


 それ以来、教室でも様子が気になってしまう。

 同じ名前の人が、二人いるような感覚。

 



「でも、桜を見て何か考えちゃう気持ち、ちょっとわかる気がするな。すっごい綺麗なのに、散るのも早くて。ゆっくりと見られる時間って、ごく僅かなんだよね。……ああ、今年はお花見しなかったなあ」



 ふと振り返ってみる。

 高林さんは、桜を見上げて柔らかな笑みを浮かべている。



 ……今の姿と、教室での姿。

 明らかに違う。


 教室で自分から話している姿は、あまり見ない。誰かに話しかけられたり、グループワークになったりした時には受け答えをしている。

 だが、それだけだ。


 ()()、をすることを、拒んでいるようであった。

 


 自分とは普通に話してくれているように思う。

 理由はわからないが、正直嬉しい。

 しかし、そんな自分だからこそ、心の中のしこりはどんどん大きくなっていくのだ。



(いつか、無視できなくなる日がくるのだろうか?)



 それが、少し怖かった。



(でも、話題に出すのは、なぁ……)



 こちらから触れていいことなのだろうか、ということすら分からない。

 高林さんの方から何も触れてこない以上、自分からはどうすることもできないだろう。


 少しだけ感じる、無力感ともどかしさ。これにも、少し慣れてきた。





「……まだ間に合うんじゃない?」


「え?」


「花見。今の時期の桜、自分は結構好きだけど。……葉桜、ってやつなのかな」


「……たしかに。遅いってことは、ないのかも」


「うん。いいと思うよ」




 こうして、今日も楽しい話で締め括るのである。











 と、思っていたのだが。


 その日の夜、風呂上がりにベッドで寝転んでいると、高林さんからメッセが届いた。



『ねぇ、お花見しようよ!』


『いいけど』

『いつ?』


『土曜日、放課後って空いてる?』


『うん。大丈夫だよ』


『やった。じゃ、終わってから部室前に集合ね』


『おっけ。楽しみにしてる』



 お花見。春らしいし、微妙に園芸部っぽいと言えなくもない。

 ポケット図鑑を持っていこうかな。そうして外を歩くのも、少しだけ楽しみかもしれない。

 

 とりあえず、誘われそうなのは園芸部のメンバーと、お姉さんあたりだろうか?



『準備とかどうする?シートとか、そういうの』


『んー、まあ歩いてみて、良さげなところが有れば座って眺めればいいんじゃないかな?』



 まぁ、それもいいか。のんびり楽しもう。



()()()()()()()、そんな大きなシート持ってったら邪魔になっちゃいそうだしねー』


『そっか』


『持ってくものとかは、まとめてまた今度連絡するね。それじゃ、また明日。おやすみ!』


『うん。おやすみー』






 ………え?



 二人きり、って言った?





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― 新着の感想 ―
[良い点] できたらいいねみたいな話から麻実と花見をすることに。しかも二人でときましたか。放課後に桜を見ながら楽しくお喋りするんだろうか。侑都と二人でっていうのも特別な感じがするけど、もう少し広い視野…
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