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7話 脱出準備

「この武具は腕であり。目だ」

 ・・・何の話しだ?

「他者には扱えない力。進む為に視て、障害を破壊する変幻自在な力」

 何なんだこの声、アンタどこから話しかけてるんだ?

「嗚呼、どうしようもなく未来が楽しみだよ」

 だから何の、

「話し・・・あれ?」


 アタシは夢を見ていたようで、夢で聞こえた声に手を延ばしたら石の上に置いてある杖を掴んでいた。

 っていうかここどこ。天井に指先が触れるんだけど。

 仰向けの身体を返し、光が差し込む入口を見た。

 日の光に眩んではっきり見えないが、ノワールさんが灰色のボディバッグを足下に置き、岩の陰から覗き込む様に外を見ている。

 口が開いているバッグを見てふと気がついた。

 そういえばアタシの左腕の切り口に、何かの葉と一緒に包帯が巻かれている。葉を調べると、痛み止めや止血の効果があるらしい。

 確かに血の滲みも無くなったし、痛みも多少マシになった気がする。ノワールさんがやってくれたのか?ありがたい。そして器用だな狼なのにどうやってやったんだろう。


 ゴソゴソと腕を振って具合を確かめていたからか、音に気付いてノワールさんが振り向いた。

「うでのちょうし、へいき」

「あっはい!ありがとうございます」

 そう言うとノワールさんは前足でちょんと四角い何かの塊を渡してきた。

「これをたべる。ご、ろくにちあるくからそなえる」

 チョコレートの色をした栄養バー?何だっけ、レーションだっけ。そんなのあったんだ。

 丁度お腹も減ってたしありがたく頂こう。


 手に持って一口食べると硬い食感の中に石の味がした。本当に石の味がする。硬さも同じだ。

 何だか失礼だけど、小さい頃によく気になった物は口に入れてた事を思い出した。お母さんの半熟っぽい塩気の効いたオムレツが恋しくなってくる。

 ケチャップで絵を描いていたのも思い出した。お父さん地味に上手だったよな。

 口の中が何だかしょっぱい。

 ・・・ここで下手に憂鬱になるのはよそう。今までも散々だったのに、ホームシックになって動けなくなったらそれこそもう駄目だ。


 袖で目元を拭い、レーションを食べ終わったら荷物をまとめ外に出た。

 昼過ぎまで寝ていたようですっかり日が高くなっている

 さっきまでいたのは、山が一直線に巨大レーザーで抉れた様な場所の、地面に無数にある亀裂の中の一つだったようだった。

 壁に雌しべが長い花が咲いていたり、蛇にムカデを足して二で割った様な生物その他諸々。何だか夢で見そうなヘンテコな森だな。触ってみたいけど、まさか毒とか無いよな。


 小動物や植物を片っ端から調べているとハッとするようにノワールさんが囁いた。

「※※※」

「へ?」

 咄嗟だったのか異世界語(母国語)で話していることに気を取られていた。


 垂直に跳躍し、地面に向かって静かに素早く魔法で生成した数本の氷の杭を打ち込むノワールさんを見て、地面に何かある事は分かったが、他に気を取られていたのも相まって行動が遅かった。

 ぐんっと水かきの小さな手でズボンを掴まれ身動きが取れなくなった所に、土を押し退けスネに向かう牙が見えた。

 杖を強く握る。噛まれるのは不味い、絶対不味い。鋭く練った意識と共に杖の先にを開いた口に狙いを定め、一気に奥に突き刺し脚を引いた。

 ノワールさんは数本杭を打っていた事を考えると絶対にまだいる。どうにかして対処しないといけないが、棒立ちだと両足を掴まれかねない。

 走って策を考えるが全くいい案が浮かばない、アタシが弱すぎて選択肢がなさすぎる。


 瞬間、目の前に無数の水かきの手が生えてきた。

 あ、待ってこれは止まれない。

 障害を飛び越えようとして、癖でハードルをまたぎ越す様になってしまった。やっちまった。走り幅跳びじゃないから距離が稼げない。

 かかとが手に触れる直前、左真横で並走していたノワールさんから、ほぼ地面に水平になるように氷の杭が打ち込まれた。

 一歩二歩と杭を踏んで転びかけたが怪我は無い。

 後ろから追いかけてくる気配は感じられない。

 ってことは全弾地中の生き物に命中したのか、ノワールさんスゲェ!


 ノワールさんを見てみると何だか呆れた様子でアタシを見ている。

「もっとちゅういする。イシトビでこりろ、また、しにかける」

「ご、ごめんなさい」

 普通に叱られてしまった。でも気になる・・・いや、これはアタシが悪いよな。


 「はぁ」とため息を付くと少ししてノワールさんが言い放った。

「かんたんなことば、あるいておしえる。きゅうな、にほんご、おれ、はなせない」

 ・・・え。教えるって、この世界の言葉を⁉

「良いんですか⁉」

 スパンッ、と足首を叩かれた。じんじんする。声が煩かったからか。ごめんなさい。


 そこからノワールさんの後に続いてアタシは歩き始めた。

 まだここは強い生物や、耳が良い生物が比較的少なくまだ安全な方らしい。ここで言葉を教えてしまおう。そう考えてるのか?

「※※※。いみは?」

「走る。で合ってたはず」

「あってる。おれがのことばいう、おまえはしれ」

 こんな具合で、万が一の戦闘に備え、指示に使うであろう単語を教わっていた。

 発音が英語っぽい様な、日本語っぽい様な。不思議な言語だ。


 この後も順調に単語を覚えていったが、急にノワールさんの動きが止まった。近くから得体の知れない生物の鳴き声がする。

 音のする方向へ木の影に身を隠しながら様子を伺うと、人の半身程の大きさで、首の長い四足歩行の耳が無い猫の様な顔をした生き物がいた。

 調べて見るとフグイというらしい。生きた肉でも死んだ肉でも食うようだ。


 正直に言うとあまり愛でたいとは思えない容姿ではある。目が真っ黒で埴輪みたい。

 背中に宝石の様な花弁を生やした植物の様な毛が生えてる。

 何か臭いを嗅いでる?

 あ、こっち見た。

 あれ、これって・・・。

「きづかれた」

 うわあああああ!


 進行方向に走り出そうとしたが、その生物がただ見てるのではなく臨戦態勢になってるのをノワールさんも察したらしい。

 やだあれ怖い。

 おぉぉおち、落ち着くんだアタシ。下手に逃げたら碌なことにならない。


「こいつ、はながいい。おいかけてくる。でもたおしやすい。にげるよりたおす」

「嘘っ⁉」

 身構えて攻撃に備えるノワールさん。

 万が一の戦闘がここで来てしまった。でも一体アタシにどうしろと。

 目を離すわけにもいかずどう動こうか考えていると、獲物と目を合わせたままノワールさんが指示を出した。

「たぶん、おまえをさいしょねらう。よけてちゅういさせろ」

 要は囮ですね。アタシじゃまともな攻撃なんてできっこ無いから。


 硬直状態が相手の先制攻撃によって破られた。

 ノワールさんの予想通りアタシに狙いを定めてきたか!そりゃそうだ、絶対弱そうだもの!

 身体を翻し飛びつきを躱すが、フグイの身のこなしが軽く直ぐに体勢を戻して引っ掻いて来た。

 杖で攻撃を受けようとしてハッとした。

 左腕が無いことを忘れた訳じゃ無いが、どうしても両手で杖を握ろうとしてしまう。


 「うわぁ⁉」と、もたもたしているうちに、爪で杖がはたき落とされ、追撃の攻撃が間近に迫っていた。

「伏せろ!」というノワールさんの若干無茶な要求が聞こえ、アタシは半ば重力に身を任して倒れこんだ。

 ノワールさんの氷の杭が何にも当たらず額スレスレを横切る、まさかの回避をされてしまった。


「···っ⁉素早っ!」

「走れ!」

「え、どこに⁉」

「行け!」

 何言ってんだコイツ(ノワールさん)。と思うのもつかの間、フグイの殺気に圧され木々の間を縫っていく。

「行けっつったってよぉ!何でこんな殺気剥き出しなんだよぉ!!」


 ふと、視界に姿勢を低くして身を隠している別個体のフグイが見えた。

 不味い!挟み打ちだ。火の玉を放てば多少牽制になるか⁉

 ヤケクソ気味に放った火の玉。それを避ける為に飛び跳ねたフグイの腹は異様に膨れていた。

 身籠ってんの⁉

 そうか、コイツのパートナーか!動きも鈍い、凶暴になるだろうが、隙は狙える筈!

 アタシは次の火の玉を()()()()そいつに放った。


 右前脚に命中、()()()()()胴体じゃないが、何処かに退散はさせられた。

 そして次は、今後ろから殺気マシマシで来てる方のやつだ。予想に反して飛びついて来ない。取り敢えず、逃げて行ったフグイの方に手をかざした。

 アタシに攻撃をさせないように飛び付いてきたフグイ。

 同時に氷の杭がフグイの背中に突き刺さった。


 勢い余って地面を転がりそれっきり動かない。生き残った!

 スパンッと杖を咥えるノワールさんに脛を叩かれた。

「イ"ッ···何で?あの、アタシの顔どうかしました?」

 何か変なもの見る目でじっと見てくる。どうしたんだろう。

「···えーっと、杖ありがとうございます」

 杖に手を伸ばしたら何故かそっぽを向いて取らせてくれなかった。

 えっ何で?

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