31話 一応...集合完了
必死にもがいている内に外側からの激しい揺れと共に何かの液体と共に身体が押し出され、一気に視界が開けた。
「うぇ、ゲホッゲホッ!ゴホッ!はっ、はぁ、へっ?下水道?はぁ、何で?」
幸い点検用の脇道に出て、汚水ダイブすることは免れた。
破裂したように破れた奇妙な模様の薄い膜を払って辺りを見回す。
目の前が一寸先まで真っ暗だったさっきの状況と比べて、確かに視界が開けてるけどやっぱり暗い。ハンマーどこ行った?多分後ろに流されてるっぽいけど。
立ち上がって周りを見渡す。
『暗視 Lv1 を発動』
相変わらず薄暗いけどぼんやり見えた。良かったなくしたかと...何か奥で揺れてる?
目を凝らして暗闇を見てみてもやっぱり揺れてる。怖!えちょ近付いてくるとか聞いてない!あれ、でも何となく見覚えが...人?誰だ?
「...塊の中に誰かいると思って斬撃を飛ばしたけど、やっぱり君なんだ」
あー...あぁ?あっ!
「四季か!いつの間に斬撃なんて飛ばせる様になったんだよアンタ」
「はぁ、運良くスキルが手に入っただけだよ」
物凄く面倒くさそうなため息が聞こえたけどスルーしよう。
「つか、本当にここにいたんだな。なんだ、その、もっとこう、あるだろ身を隠す場所。郊外の森とか」
間を置いたあと、アタシの目を見つめ腕組をし始めた。
「何だよ」
「君さ、自分の発言覚えてないの?」
いや覚えてるけど。相手の視界を奪ったら四季自身の目が見えなくなるとか。アレマジだったの?勘任せの当てずっぽうだったんだけど。
「ほらさっさと行くよ。君の連れも探し出さないと」
壁に沿うようにアタシの前を通って一本道を進んでいく四季。恐らくアタシと同じ『暗視』持ちだ。スタスタ歩いて行くし、軽く振り返ってアタシの様子を伺ってるようにも見える。
「ちょっ、置いてくなよ!」
ちょっと待て、待つ気があるなら止まれっておい。
「どこに居るのか検討ついてんのか?」
「まぁ、ある程度」
ある程度ねぇ?
「ここから数十分歩いた先に下水道の中心部があって、そこに変な転移の魔法陣を見つけたんだ。多分そこ」
「変な、ってどんなだよ」
「それがわからないから君を使った」
「ぁあー、っそう」
即答かよコイツ。
四季の右斜め後ろに付き、歩調を合わせた時ふと思った。
「よくアタシに連れがいるって分かったな」
ただの独り言だったはずが
「君ってそこそこ薄情だね、セイバーさんになんの感謝も無いの?」
と返された。
「えっ、そっちかよ。いやまぁ、アイツには色々助けられたけど、てっきりアタシはケモっ子のことかと」
「ケモっ子...あぁ、あの子ね。生きてるか分からないよ」
はっ。そう喉の底から掠れ声が出てきた。
「え、でも、近くに居るんじゃ」
「ごめん静かにして」
アタシの左肩を軽く抑え、周辺を伺っている。
少し先にある十字に分かれた左側の通路に、何かスッとした嫌な空気を感じる。えっなにコレ怖っ。
しかも、今足を止めて分かったけど、アタシ達以外にも何か足音っぽいのが聞こえる。
「何か聞こえるな。足音みたいな」
こんな閉鎖空間で微かな音とか、あの森以来何か怖いからスゲェ嫌なんだけど。何か鳥肌立ってきた。
「この気配は、人間だ。やっぱり追われてるんだ」
「は!?」
「シッ」
分かれ道を警戒しながら後ずさる四季に同調する様に、より一層足音が大きくなっていく。
「ーーー!ーーーーくれ!助けてくれぇっ!来るなぁ!!!」
ヒェッ。え、ちょ。大人の男で、しかも悲鳴混じりなのが余計怖い。
しかも何だこれ、何かを物凄い速度で引きずる音も聞こえる。
「ッアアアアァァアア!!!」
悲鳴と何かが弾ける音の後に、男が顔を覗かせた。アタシ達の方向に腕で這ってる。
リアルでこんな、グロテスクを見るとは思ってなかった。か、下半身、どこやったオッサン。
「ヒッ、へへ、た、たすけ、へへへ」
鼻血と血の泡を垂らし、モツを引きずりながら目の焦点が合わない引きつった笑顔で、アタシ達に助けを求めてる。
見たくもないのに目が開く。下手に視線を外したら、次はアタシ達が殺されるかもと、クソみたいな森で学んだからかも知れない。身体も勝手にハンマーを構えてる。
「へ、ぁ、あああああああああ嫌だああっああああ」
黒い触手が音もなく一瞬で男に巻き付き、左に引っ込んでいき、けたたましい声が本当にプツッって消えていった。
は、はは、某ホラー映画だ。ははは...家に帰りたい。
嫌な雰囲気は遠ざかっていった。死ぬかと思った。
「もう、大丈夫。奥に行った」
そんな強張った声で言うなよ、不安になるだろ色々!!!!
「もう早くすすもう!下手に躊躇してたら逆に死ぬぞオイ」
「今の見てなかったの...!?」
ギョッとした目でアタシをみている。まさか、引き返すつもりかコイツ!?
「見てたっつの!多分この道が検討が付いてる場所の最短ルート何だろ?遠回りすればするほどさっきみたいなのを何度も見る羽目になるし、下手すりゃバレて死ぬんだぞ!?ならさっさと進むしかねぇだろ!」
早口でまくし立てた結果、
「...分かったよ。魔族の気配ももう無いし、行くなら今しかないか」
と気圧された様に返事をした。
「魔族って、あの黒いヤツだよな。アタシの思ってたのと違う」
十字路を越えた後、本当は静かに行動したほうが良いのは分かってるけど、どうも落ち着かなくて話しかけた。
「あぁ...あれね。僕も君からラーニングした本で見たときは驚いたよ。ゲームにいるみたいなコウモリの翼が生えたのも居るけど、スライムみたいな決まった形がないのもいるってさ。」
形のない、って事は、あの冒険者モドキみたいな感じで人間に化けられるのか?
「まさか人に化けたり?」
「するみたいだよ。分身体だけだけどね」
怖っ。多分誰かを取り込んで...ケモっ子が生きてるか分からないってそういう。
「待って」
「こ、今度は何だよ...!?」
四季がゆっくり前を進む。目線は左下を向いて刀の様な剣を異空間から取り出した。
魔族は今はいないし、それっぽい独特の取り殺される気配もないのにどうしたんだ?
「死体だ、それも討伐者の」
死体と聞いて目を背けた。あんまり見て良いものでもないし。
ただ、その前を通るときに左下の視界の端っこに、アタシ達をここに引きずり込んだ、顔がグズグズに崩れた討伐者が見えた。
「うっそだろぉ...」
「あー、アイツのことだし生きてんじゃねぇの?ほらだから地上に...」
「君の言うケモっ子はどうするの?」
クッソ進むしかねぇか。生きてるか分からないってだけでケモっ子を見捨てる訳にもいかないし。と言ってもアタシは誰かを守れる実力も無いわけだけど。でも、その。
「なぁ、進むたびに血なまぐさくなってるんだけど」
この異様な濃い鉄の臭いの元に向かうだなんて、常人じゃ絶対しない。つかしたくない。
「着いた。ここが中心だよ。パッと見誰もいないみたいだけど」
そうこうしているうちに目的の場所に着いた。
下水道の中心らしいこの空間は横に広く、四方から流れる汚水が中心で渦を巻いている。どんな仕組みかは全く分からんが何か凄いことはよく分かった。
つか本当に血なまぐさいなここ。
特にこの壁、ん?何だコレ?魔法陣?そういえば四季のヤツ変な魔法陣を見たって言ってたな。コレのことか?
《それに触れるな。貴様死にたいのか》
「うわぁ!あぁ!?四季!?ちょ、え」
いつの間にか、ケモっ子を抱っこしているプロメッサが、ぐったりした四季の首根っこを引きずり掴んでアタシの背後に立っている、とかいう変な構図が出来上がっていた。
《この人間が俺達を嗅ぎ回っていた奴だな。あの程度のスキルで俺を欺こうとするとは、嘲笑わせてくれる》
あー、うん。雑だったもんな色々。
何だろう、ちょっとざまぁと思ってる自分が居る。
《ほ、本当に、仮面の人にゃのか...?》
《そうだな...おい貴様、何かやれ》
何かやれ?って何だよおい。そうだ、ハンマーの明かりを点けよう。
スッと視界がハッキリとした。
《この明かりを灯せるのは確かに貴様位だな》
そう言って、プロメッサは四季を寝かせ首筋に剣を、ってオイ待てコラ!
待て待て待て待て待て殺すな殺すんじゃねぇ!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
《ニャッ!?》
《っ!貴様煩いぞ!》
どうしよう、流石に四季が死ぬのは嫌だぞ!そうだ!ゴリ押しで覚えた言葉でどうにか!
《プロメッサ!オトコ、ナカマ!ヤッツケル、ダメ!》
暫くの間沈黙が続き、プロメッサが若干困惑しているように口を開いた。
《...この人間が仲間だと?》
"仲間です!"とブンブン頭を上下に振る。
その呆けた顔やめろよぉ!
《仲間かどうかは別として、確かに殺すのは早計だったな》
少し考えた後、プロメッサが剣を鞘にしまい四季を担いだ。
《早急に地上に戻るぞ。絶対に逸れるな》
と言いアタシ達が来た道へ走って入っていった。
待て、アンタら待つって言葉知らねぇのかよ!
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