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炎対氷

 シーゼルの笑顔が怖い。


 だが、逃げる訳にもいかない。属性については、使えるのならば是非覚えていきたいものではある。でも一体どうやったらいいのか分からない。


「ヒースの属性は何か知ってる?」


 蒼鉱石の剣に氷の気配を纏わせつつシーゼルが尋ねた。


「分からない」

「何か魔法を使ったことは?」

「水は出せたよ。一回出すとなかなか止まらないけど」

「あは」


 シーゼルが、剣の周りに氷の(やいば)が浮いた状態でヒースが持つ剣を軽く叩いた。ヒースは先程教わった通り、剣をくるりと回す様にシーゼルの剣の刃先の進行方向を変えるが、これがなかなか難しい。


「何だろうねえ。使えるってことは魔力はあるだろうし、でも火にも特には反応しないところを見ると火属性でもなさそうだし」


 そう言っている間にも、今度は胸の高さに軽く一突き。氷の刃が腕に擦り傷を作っていった。


「ほら、火で溶かさないと怪我しちゃうよ」

「あ、そうか、そういうことか」

「意味分かってなかったの?」

「魔法はからっきしなんだ」

「そうみたいだねえ」


 クスクスと笑いながら、今度は太ももに一突き。寸止めしてくれてはいるが、確実に切り傷が増えていっている。地味に痛かった。


 ヨハンにハン、隊員達はヒースとシーゼルの様子を遠巻きにして見ている。


「余所見してる余裕あるの?」


 シーゼルがそう言うと、ピッと腹の部分の服が破けた。全く見えなかった。


「周りを見るのも大事ではあるけどね、僕がちょっと本気出したらヒース一瞬で死んでるよ」


 弾いては駄目、そうシーゼルは言っていた。思い切り弾くと次の動作まで時間がかかり、身体に隙が出来る。流していなせ、相手が軸をぶらしたら思い切り踏み込め。言われている意味は分かっても、出来ない。そもそもさっき初めて剣を握った様な初心者だ。出来る訳がない。


「うーん、出ないねえ火」


 シーゼルが攻撃を一旦止め、一瞬考え込んだ後、辺りをキョロキョロと探すとそばかすの男を呼んだ。あの片玉の男だ。


「ネビル、そこのちょっと大きい石持ってきて」

「はーい」


 素直な返事が返ってきた。何をするつもりだろう? ヒースがネビルを目で追おうとした瞬間、シュッと剣が目の前に突き出され、ヒースは大慌てで後ろに飛び退った。


「うわっ」

「油断大敵」


 シーゼルが艷やかに微笑んだ。本当に油断も隙もない。剣を持って対峙している時は、この人には気を許してはいけない、そのことがよく分かった。よく昨夜は斬られなかったものだ。


「シーゼルさん、これどこに置きます?」


 えっちらおっちらと手に抱える程度の大きさの石を運んできた片玉のネビルが、邪気のなさそうな笑顔でシーゼルに尋ねた。これがあのカイラを襲ったのか。何とも言えない微妙な気持ちになった。


「ここに置いて」


 シーゼルが剣先を向けた地面の上に、ネビルが石をドン! と置いた。シーゼルが少し首を傾げながら石を見つめる。


「うーん、思ったよりも小さいなあ。……そうだ」


 ぶつぶつと何か言っているので、ヒースは邪魔をしない様一歩下がって見守ることにした。一応念の為剣は構えたままで。


 シーゼルが剣先を石に付けた。すると、明らかに辺りの空気がひんやりとしてきたかと思うと、石の上に氷が浮き出てきた。


「え……」


 ジオの土魔法と似た感じなのだろうか。どんどん氷が大きくなってきたかと思うと、人の形の氷の像が出来上がった。


「ヒースが好きな子は女の子だっけ?」


 シーゼルが聞いてきたので、ヒースは頷いた。


「じゃあ胸も付けてあげよう」


 そう言うと、氷の像の胸部に大きな瘤を二つ作った。シーゼルが尋ねる。


「大きさはこれ位?」


 そこを尋ねるか。だが、後日到着したニアを見て、嘘だと言われるとそれはそれで物悲しい。なので、ヒースは素直に答えることにした。


「もっと小さい」

「わお」


 そう答えると、シーゼルは少し大きさを調整した。そこはそんなに重要なんだろうか?


「こんなもの?」

「うーん、もう少し小ぶりかも」

「……思ったよりも貧相な体型なんだね」

「本人気にしてるから」

「じゃあ、もう少しだけ減らして、後はまあヒースの願望ってことで」

「俺胸の大きさの好みとか言ったっけ?」

「いや、何となく大きい方が好きなのかなって。どっちがいいの?」

「そりゃまあ、多少なりともあった方がいいけど、まあ柔らかければこの際どっちでもいいかなって最近は。てこれ何の話?」

「ヒースがこれから守る子の話」

「え?」

「ふふ」


 シーゼルは氷の像の胸部を最終調整すると、改めてヒースに向き直った。


「ヒースは自分のことよりも、人が何かなっちゃうのが嫌みたいだから、この子を頑張って守ってみて」

「え?」


 シーゼルが楽しそうに笑った。


「これ、君の好きな子。今から僕がその子を殺しにかかるから、守って」

「!!」


 この氷の像をニアに見立て、全力で守れということだ。ニアを殺しにかかる? 冗談じゃない。


 ヒースは像に駆け寄り前に立ちはだかると、剣を構えた。すると、シーゼルが薄っすらと微笑みながら、でも目だけは笑っていない状態でヒースを見つめ、そして剣を構えた。


「いい顔。ぞくぞくするよ、そういうの」


 スタスタとこちらへ向かってくる。ただ話しかけにくるかの様に、警戒心などないかの様に。


 氷の像の頭に一閃。ヒースはシーゼルの剣を叩く様にして退ける。


「振りが大きいってば。ほら、ヒースの脇ががら空き」


 今度はヒースの脇腹に剣先が付きそうになる。どこうと思ったが、どいてしまうと氷の像に当たってしまう。どけない、でもこのままだと斬られる。


 シーゼルがイラッとした顔を一瞬見せると、氷の刃が方向を変え像を掠って行き、像から氷の破片が飛び散った。


「あっ!」

「怪我をしたいのか!?」


 シーゼルが声を荒げた。昨日の夜に見た、あの緊迫感がシーゼルの身体を包んでいた。


「ヒース! 出してみてよ!」


 そう言いながらも、シーゼルの剣がどんどんヒースを避けて氷の像のニアを削り取っていく。駄目だ、駄目だ駄目だ、ニアは駄目だ!


「傷つけちゃ駄目だ!」

「じゃあ出せ!!」

「……!」


 シーゼルがぐん、と後ろに下がると、剣を構え直した。今度はこれまでになかった量の氷の刃が剣の周りに浮き、牙を剥く様に開いた。


「駄目! ニアは駄目だ!」

「聞けるもんか、行くぞ!」


 シーゼルが飛びかかって来る! 


 脳裏に浮かんだのは、ニアの笑顔だった。白い花を耳に差し、嬉しそうに微笑んでいる。ニアだ、ニアが笑っている。ようやくヒースにも笑ってくれたんだ。


 胸が熱くなった。同時に目の前も赤く染まる。というか、熱い。


「――出た!」


 剣に火が纏わりついていた。出せたのだ。どうやったのかはよく分からないが。剣を振ると、炎が尾を引いて付いてきた。


挿絵(By みてみん)


 対峙するシーゼルが、ふ、と笑った気がした。


「出ただけじゃ何にもならないよー!」


 ヒースは前に飛び出すと、シーゼルの剣めがけて炎の剣を突き出した。あっさりと躱されるが、でも周りの氷は溶けて消えていった。ちゃんと効いてはいる。


 シーゼルがまた氷の刃を出し、ヒースの背後の氷の像を狙う。ヒースはそれを炎の剣で薙ぎ払うと、地面を剣先が擦っていった。そこに残されたのは炎の壁。そんなことが出来るのか。


 ヒースは試しに、シーゼルの剣に向かって炎が飛んでいくイメージで剣を振ってみた。すると、炎がぐん! と上に伸び、翼を広げる鳥の様に広がったかと思うと、シーゼルに向かって襲いかかった。

次話は明日投稿します。

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