救済と出会い
開いて下さりありがとうございます!
「あの場面は涙無しではいられないわ!初めての映画は大ヒットね!」
転生してからずっとねたぐんでいた映画観賞を達成する事が出来た。
カエルムも楽しめるように悪と立ち向かうヒーロー映画にして大成功だったわ!
「とても可愛い……じゃなくて面白かったね。」
本当はシュネ義姉さんしか見てなかったけど、ここは黙っておこうっと。
ルハと村人に変装した騎士達を後ろに、シュネとカエルムはレジェ二国レニ街の繁華街を歩いていた。
シュネ達のいるブルーレ街からは馬車で5分程先にある、日本で言うところの県庁所在地の隣にある市町村の様な所だ。
賑わいはもちろんの事、一人一人の顔つきも明るい。
しかし明るい分、闇があるのは貴族内にも噂が周りつつある。
「あれ見て……ここらへんからは居なくなったかと思えば……臭くてたまらないのよ。」
「ほんとね。居なくならないかしら。」
おばさんの井戸端会議の視線の先にある路地裏にいるのは、見るからに汚い服と髪をしたシュネと変わらないであろう少年だった。
おばさん達の話によると、あの少年のような貧困な人達はこの街から移住し自分の村を独自に作ったらしい。
あの少年は孤児という部類に入るのだろうか。
少年を視界に入れているならまだましな方で、大抵の人は視界にすら入れない。
長い髪の間から見えるのは絶望に満ちた真っ暗な瞳だ。
シュネは何かを決意したように拳を握ると、おもむろに少年へ近付いた。
『何か決断する時は頑固とする意志を持ちなさい。決して揺らがない心を持ちなさい。』
これは前世で見た映画のワンシーンだ。
ほんの数秒しか無い言葉だったけど、私の生きる道標になった言葉。
苦しい人を全員助けられる程、私は善人でもヒーローでも無いのはよく分かってる。
……でも目の前で起きている惨事をここで見過ごせる程に、私は強くはない。
驚くカエルムを他所に、シュネは壁に寄りかかる少年の前に膝をつき顔を覗き込んだ。
「私はシュネ。あなたに問いたいことがあります。」
「……。」
「あなたは生きたいですか?」
そうシュネが瞳を真っ直ぐに見つめると、その少年は微かに瞳に光を宿し、コクンと1回頷いた。
ただの野原に雨が降ったような……不思議なのに綺麗な緑色の瞳は、真っ直ぐこちらを見ている。
「分かったわ。一緒に来てちょうだい?」
そしてシュネはニッコリと微笑むと、少年の手を引き、近くまで来ていたカエルム達に
「お父様にお願いしてこの子を引き取るわ。」
と、犬一匹を飼うとでも言うかのようにあっさりと告げた。
少年もしどろもどろなまま、カエルム達も突然の出来事に頭を抱えているようだ。
「養子にすると言う事でしょうか?」
「違うわ。この子が生きやすいように道しるべを作るだけよ。」
「お言葉ですがそれは容易では……」
ルハの言う通り、口で軽々と言える程簡単なものでは無い……でもラミトネス家の爵位が公爵だという事と、遠い親戚に皇帝にも認知される騎士団があるというラミトネス家の信頼があれば出来るかもしれない。
「この子、泣いているでしょ?それ以外に理由はいる?」
辛さがよく分かってしまうからだろうか、周りから偽善者と言われても……私は。
「あなた名前は?」
そうシュネが微笑みかけると、少年は戸惑いながら
「アンソス……」
と、か細い声はシュネの耳に案外すんなりと入ってきた。
「よし!じゃあいざラミトネス家へ!」
その場の勢いのままアンソスを馬車まで乗せると、多少の気まずい雰囲気は他所に馬車はブルーレ街へ向かった。
……とは言ったものの。
お父様を納得させるまでの理由をあげないときっと追い返されてしまう。
レニ街はラミトネス家の管轄区域なのに、街だけが発達していって治安維持や人1人の環境整備がなっていなかった。
確かゲームでもそれのせいで食中毒が裏で流行ってしまうんだっけ……そしてこの物語である主人公リナの友人が亡くなることとなる。
これ以上に被害者を増やしたくなんて無い。
アンソスを気に医療を促進してもらわないと……考えなさい……考えるのよ……
医療の事を諭せる程、シュネ自体の信頼も私自身の能力も無い……だとすると弱みを握るのが1番早いんだけど。
ベルク公爵の弱みなんてゲームでは……あるわよ!ゲームで出てきた唯一の弱点が!
……と、言うことは上手くいけばアンソスを!
まだまだ続きますので暫しお付き合い下さい。
有難いコメントや評価お待ちしております。