破滅フラグの来訪〜カエルム編肆〜
開いて下さりありがとうございます!
案の定夜には雨が勢いよく降り、夜食中は雷があちらこちらに落ちていた。
「雷が酷くなりましたね。」
ベルクとマリーが結婚し、何回目か分からない長テーブルでのご飯も慣れつつあった。
ゲーム設定同様にベルクとマリーはシュネの顔色を伺ってはいるが、それを除けば快適なのだろう。
気になるのはもうひとつ。
大きな雷が鳴る瞬間……カエルムは手を震わせ、決して窓に視線をやろうとはしない。
マリーもその様子に疑問を持つことは無く、気付いたのは隣に座っていたシュネのみ。
確かゲーム設定にカエルムは雷が苦手だって書いてあったはず……それにこの手の振るわせようはきっと苦手なのね。
……これは仲を深めるチャンスなんじゃ!
風呂後も雷は収まる気配は無く、それは布団に入ってからも落ち着く事はなかった。
シュネは颯爽と掛け布団を片手にカエルムの部屋をノックした。
返事はいつも通り返っては来なかったが、部屋の鍵は珍しく空いているようだ。
「カエルム入るわよ……?」
するとベッドには掛け布団の塊があり、微かに震えていた。
シュネがおもむろに触れると、布団の間から顔を覗かしたのはカエルム。
目には大粒の涙が貯まっていた。
「なんであなた……母様じゃないんだよ……」
そう話す姿は年相応の親からの愛を求める子供で、シュネは自分の掛け布団でカエルムまで包むと、慌てるカエルムを他所にニカッと笑った。
「カエルム、大丈夫よ。私が隣にいるわ。」
するとカエルムは袖で勢いよく涙を拭い、シュネに背を向けた。
「そんな事したって僕はあなたにとって利益な事は出来ませんよ。」
「いいのよ。利益なんて要らないわ、家族だもの。」
裏表裏表の無い言葉はカエルムの涙を誘い、部屋には鼻をすする音が微かに響いている。
「そう言ったって……あなたも……僕を知れば離れていくくせに!!」
「離れていかないわ。」
投げ出されるカエルムの言葉をしっかりと受け止めると、シュネは後ろからカエルムを優しく包み込んだ。
手をはねのけようとするカエルムを他所に、シュネは口を開いた。
寂しいのに寂しいなんて言えなくて……それを抱え込めば抱え込む程に、そんな自分が嫌になっていく。
それはつい最近までの私で……それはシュネ・ラミトネスにも共通して言えること。
そんな時に私が何をして欲しくて、何を言って貰いたかったか……
「カエルムが自分を嫌いでも私はカエルムが大好きよ。噂のせいでお母様が泣いてしまったから、私まで泣かせたくなかったのよね?」
カエルムは跳ね除けた手を崩れ落ちるかのように下へ落とした。
「僕は……そんな善人じゃない……」
「うん。カエルムも怒るだろうし、悪い事だってする。だって悪魔じゃない人間だもの。」
『この低級悪魔!人間もどきがここに来るなよ!』
思い出すのは心に刺さっていた言葉。
「カエルムが悪い事をしたら私は怒る。殴り合いだって負けないわ……でも、それでもあなたを嫌いになることなんてない。」
カエルムは大人しく、ポタポタとシーツに涙を滲ませていた。
「私はカエルムと笑って、カエルムと楽しいものを見て、カエルムと喧嘩もして……ずっとずっと一緒にいたいの。」
「僕は……」
震えながら出したカエルムの声は細々としており、それは泣いているからだけではないようだ。
まだまだ続きますので暫しお付き合い下さい。