破滅フラグの来訪〜カエルム編参〜
開いて下さりありがとうございます!
それからというものシュネは頻繁に……それはそれは頻繁にカエルムの部屋を訪れた。
「扉を開けて〜!綺麗な花を見せに来たの!」
カエルムは聞こえないふりを決め込み、シュネの声が聞こえなくなるまで背を向けた。
ーー30分後
「カエルム!魔法テスト近いから魔法教えてよ〜。」
ーー20分後
「カエルム!美味しいお菓子持ってきたわよ!食べない〜?」
ーー10分後
「出かける洋服はピンクがいいかな?それとも青?ねぇカエルム〜!」
段々縮まってゆく扉を叩く音にカエルムの怒りは蓄積されてゆき、
「うるっさいな!」
と勢いよく扉を開けた。
「あ!やっと開けてくれた!」
初めは目を丸くしていたが、シュネは直ぐに笑顔へと変わり、手には花瓶とそれに生けられた花が持たれていた。
「あなたを嫌いだと言いましたよね?毎日毎日煩いんです、正直迷惑だ。」
その言葉に対し、シュネは不器用に笑顔を浮かべ、せめて花瓶だけでもと差し出す。
「私だったら1人は嫌だから……部屋に花があるのと無いのとでは違うし……取り敢えずあげる!」
僕の事なんて何にも知らないくせに……!
「迷惑だって言ってますよね!?何であなたはそんなに……」
普通の人は1回拒絶すれば直ぐに離れていった。
変に期待して裏切られるのならば、もう誰とも仲良くなんてなりたくない。
生みの親である母ですらーーー
僕が水魔法と分かったその瞬間……周りにいた大人は僕に見向きもしなくなった。
”伯爵家の落ちこぼれ”
”低級悪魔の血をひいた子供”
そう影で言われていたのは百も承知。
どんなに頭が良くたって魔法ひとつで人は豹変する。
分家が集まるパーティーではいつも影で笑われ、裏に呼ばれれば罵倒の嵐。
酷い時には腹を蹴られたりもした。
いつも仲良くしてくれていた友人も、見て見ぬふり。
母ですらそれに頷くばかりで、家では話しかけてすらしてくれなかった。
「あんたを産んだのが間違いだったのかしら……」
そう頬を叩かれた時は正直へこんだ。
でもそれで気付かされた。
期待するから悪いのだと……結局人の心などそんなものだと。
なのになんでこいつはーーー
「僕はあなたが大嫌いだ!もうどこかに言ってくれ!!」
カエルムが声を上げ手を放った先にあった花瓶は床に散らばってしまい、水は絨毯に染みている。
その音に駆けつけてきたメイド達は喧嘩でもしたものかと慌てるが、シュネはいつも通りに笑い、心配かけてごめんなさいと口を開けた。
その前で息を荒らしながらカエルムは恐る恐る顔を上げている。
「私が手を滑らせてしまったの。仕事を増やしてしまってごめんなさい……。」
シュネが口を開いた事や温和な対応にメイド達は目を丸くしている。
そりゃあ今までのシュネとは違うしね……昔ならメイドに怒鳴っていたもの。
苦笑いを浮かべるシュネ。
我に返り安心するメイド達は颯爽と花瓶の破片を回収し、カエルムはなんでだといいたげな目でシュネを見ている。
「あ、言い忘れていたけど……私はカエルムの事を大好きよ。」
そう笑顔を残すと、手を切っていては大変だとメイド達に連れて行かれた。
その日は複雑なカエルムの心を移しているかのように、空は真っ暗だった。
まだまだ続きますので暫しお付き合い下さい。
有難いコメント待ってます。