破滅フラグの来訪〜カエルム編弍〜
開いて下さりありがとうございます!
その翌朝ーーー
「カエルム!カエルム!映画に興味はないかしら!」
「無いです。」
カエルムの部屋に入るのすら大変だった(鍵を開けてもらうのが……)のに、それ以降は全く興味をもってもらえない。
本に顔を向け、シュネにはずっと背を向けたままである。
「……あなたは勉強しなくても良いのですか?」
ようやく話しかけてくれたかと思えば、それはため息混じりで半ば哀れみすらも混じっていた。
「家庭教師の先生にはちゃんと教えてもらってるし、ちゃんと復習だってしてるわよ?」
前世では夜更かしなんてさせてもらえなかった反発で最近は、寝るのも2時近くなってるとは言えない……。
勉強も前世では起きてやる事は難しかったから、何時間でも出来ちゃうしね。苦痛じゃないわ!
「あ!そうだ、いつか一緒に勉強しましょうよ!きっと楽しいわ!」
お友達と勉強会……いけない思わずにやけちゃうわ。
気分ようようなシュネとは裏腹に、カエルムは眉間に皺を寄せながらシュネを見ていた。
「勉強だって一緒にしませんし、あなたと仲良くする気はありません。あなたのような人は嫌いなんです。出てって下さい。僕は1人でも平気ですので。」
カエルムは終始目を逸らしながら、再び視線は本へと向けた。
「1人でも平気なのは嘘よね?」
「……何が言いたいんですか?」
「1人が好きな人はいても、1人で平気な人はいないわ。ここには私がいる、だからそんな悲しい事は言わないで?」
急に真剣になるシュネの声とかぶせながら、カエルムは近くにあったクッションをシュネに投げつけた。
「もう出て行ってください!煩いんですよ!」
「……分かった。ごめんね、急に来たりして。」
最後まで顔を見せてくれなかったカエルムに悲しそうな笑顔を向けると、シュネは静かに部屋を出て行った。
『ここには私がいる、だからそんな悲しい事は言わないで?』
シュネの声はカエルムの耳にずっと響き、カエルムは力強く胸を掴んだ。
「どうせ皆離れていくくせに……もうかき乱さないでくれ……」
直ぐに消えて無くなりそうなカエルムの声は微かに響いていた。
「よし!気を取り直して、今日は外でお茶しながら花を育てよう!」
本当は家庭菜園が夢だったけど、それは怒られそうだから花で我慢だ。
シュネは草魔法の適性があり、ちょっと頑張れば植物を成長させる事など他愛無い。
でも今は適性テスト前だから変に怪しまれても嫌だし、土を少しいじるだけにしよう。
ラミトネス家は大きな庭園がある。
それはキミットが花をよく好んでいた為なのだとか。
「今は春だから花の彩りがいいわ!見てよルハ!」
そう満面の笑みをルハに向けるシュネの姿は、若かりしき頃のキミットと瓜二つだった。
そんなシュネの姿にルハは目を奪われると、目を丸くし、また、瞳に涙を浮かべていた。
しかし直ぐに気を取り直すと、シュネの方へ向かい、そうですねと赤いチューリップを2人で見つめる。
「チューリップの花言葉は幸福。見てるこっちまで幸せになるわね。」
『ルハは知ってる!?』
『何をでしょうか?』
ルハはふとキミットとの事を思い出した。
『チューリップの花言葉よ。』
『存じておりません。』
『私が教えて上げよう!』
そう自慢げに鼻を鳴らすキミットはいつもの笑顔を浮かべ、ビシッと指を指した。
『幸福よ!ほんとに見ている私まで幸せになるわ。』
「ルハ?」
心ここに在らずなルハの肩をシュネは叩くと、珍しくルハは体を揺らした。
「申し訳ありません。」
「体調悪いなら言ってね?」
「大丈夫でございます。」
本当に……優しいところまでキミット様に似ておられる。
「あ!」
「如何なさいました!?」
ルハが微笑ましく眺めていると、シュネはいきなり座り込み声を上げた。
「ルハ!」
「どこかお怪我でも……シュネ様……?」
心配するんじゃなかった……と言いたげにルハは呆れた顔を浮かべ、シュネは何かを掴んだまま立ち上がる。
「ルハ!ミミズよ!」
「それをこちらに近付けるのはお辞め下さいね?」
シュネが一歩向かえばルハは一歩下がり……シュネはニヤニヤと逃げるルハを追いかけて行った。
庭園にはルハの悲鳴がひたすらに響いていた。
「……なに馬鹿やってんだか。」
そんな2人をカエルムは部屋の窓から覗き、ため息を零した。
まだまだ続きますので暫しお付き合い下さい。
有難いコメント待ってます。