表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/74

異世界闇バイト


 熱中症の警告が出ているのに、真っ昼間に買い物に出た。


 とにかく食品が弱らないように寄り道はしない。


 歩いているとそこに、幼馴染みのハー君がいた。


「おぅ」


「うん。何してるの?」


「散歩」


「バカじゃないの?」


「あ、そっちは買い物?ご苦労様ですね」


「ああ、そう」


「学校、来ないの?」


「・・・うん」


 そこに轟音が空からして、ふたりで青空を見上げた。


「慣れないな・・・」


「だね」


 住宅地の上空を飛んでいるのは軍の戦闘機。


 飛行訓練だろう。


 すぐに音が遠ざかって行った。


「そう言えばさ」


「ん?」


「リングでリンクって知ってる?」


「何それ?」


「知らないかぁ」


「何?怖い系の話?」


「違う、違う。指輪」


「え?」


「異世界バイトしてんの、俺」


「ええー、思い出したぁ。本当にそんなバイトあるの?」


「知ってるの?」


「聞いたことはあるよ。うっすらとだけど」


「じゃあ、2個あるから1個あげるよ」


 差し出された指輪を、思わず受け取ってしまった。


「右の薬指につけて、眠る。適合したら異世界でバイトできるかもしれない造り」


「なんで2個持ってたの?」


「魔法指輪売りがなぜか2個くれて、本当は姉ちゃんの」


「あ」


「いい。あれは事故だ・・・」


「うん。ありがとう」


「あっ。食べ物が弱るとアレだな、時間とってすまん」


「うんうん。またね!」


「おぅ」



 そう言って道を別れた日、幼馴染みは車の事故にあって意識不明になった。


 病院でも面会謝絶。


 お姉さんも事故にあったことがあって、そっちは骨折ですんだのに・・・


 実家をたずねると微笑されて、ありがとうね、と小声で言われた。



 もしかして、と思って、ハー君が指輪をしているか聞いた。



 自宅に帰り、小物入れに入っているハー君からもらった指輪をながめた。


 なんともなしに「そこ」にハー君がいる気がした。


 右薬指に指輪をはめて、ベットに横になってみた。


 

 ――

 ――――・・・


 ハー君。


 もしかして、異世界にいるの?



――誰?


 あ。ハー君?ハー君だ。


――ミユちゃん、こちらに来たらいけない。


 ハー君、一緒に帰ろう?こんな暗闇の中にいるのはおかしいよ。


――誰かがいないといけないって言われた。


 誰に?


――闇に。


 ダメだよ。まどわされたら。


――え?


 ハー君の居場所は、闇じゃない。


――それでいいのか?


 手をのばすから、掴んで。こっちに飛んで。



 手を伸ばすと、空中でうずくまっていたハー君が戸惑いながら手をのばした。


 手を掴んで、引っ張り上げる。



 はっ、と息をのんだ。


 突然の目覚め。



 急いで病院に向かう。


 すると病室前でお姉さんが泣いていた。



「・・・お姉さん?」


「もうダメだって言われてたのに・・・意識、戻った!お腹すいたとか言ってるから買いに行く」


「面会してもいい?」


「いいよ」


 病室の扉を開けて、そこには上半身を起こした電動式のベッドに横になっているハー君がいて、こちらを見るとはにかんで笑った。


「夢を見たよ」


「手をのばした」


「やっぱりだ。嬉しい。ありがとう」


「うんっ」



 ――

 ――――・・・後日、調べられた指輪は違法物であるとされた。


 異世界バイトのためではなく、『闇バイト』のために作られた不良品らしい。


 ハー君に指輪を提供したお店は『闇バイト合法化』を謳って捕まった。


「ってか、異世界バイト途中までしてたのに闇バイト?本当に『闇』に閉じ困られるわけ?」


「怖いな・・・」



 それから私達は人口増加による問題解決法として、


 堂々と『異世界バイト』を発表するればいいのに、と政府に言ってみた。



 どうもそれは、叶わない、らしい。



 とりあえず、あのままハー君が闇に捕らわれなくてよかった。



 ハー君は、いつか君に指輪を贈ると言ってくれた。


 今は指輪が怖いけど、


 いつかミユちゃんに、結婚指輪を、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ