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天国の庭ーヘブンズ・ガーデンー

 

 白石のなめらかな肌触りの噴水に、陽の光が水の一部に宿っている。


 うららかな快晴。


 周りにあるリンゴの木の枝から、碧い小鳥が飛び立った。


 円形の噴水のふちに腰を降ろして、ドレス姿の美少女がため息を吐く。


「・・・あの~っ・・・あの~っ・・・」


 美少女は「ああ、こちらにどうぞ」と声のした方に言う。


 広場を見つけた子供達はそろりそろりと美小女に近づく。


「ここはどこですか?」


「ガーデン」


「誰の?」


「秘密の」


「誰の秘密?」


「天国」


「天国の、秘密の庭っ?」


 美少女は微笑した。


 子供達は「これかどうしたらいいの?」と美少女にたずねる。


「君たちは頑張った。頑張って生きた。さぁ、色々あったと思うけど、天国と地獄、どっちに行きたい?」


「「天国ーーっ」」


 美少女は嬉しそうに微笑をして、空を見上げた。


「・・・だ、そうです。天国の門よ」


《分かった》とどこからか声がした。


「子供達はリンゴを食べたがっていますよ」


《よかろう》


「子供達、リンゴをひとり1個、もいで食べてもいいって」


 嬉しそうにリンゴをかじった子供達が顔を見合って幸せそうに笑う。


 そこに、背中に白い翼を持つ腰布を巻いた美青年が現われた。


「さぁ、美少女さん。もうだいぶ手伝ってもらった。あんたはどうしたいんだ?」


「名前が欲しい・・・です」


「なんで顔をそらすんや?」


「お姉ちゃんは天使様のことが好きみたいだよ」と子供達。


「・・・ほう。ラヴィング」


「ラヴィング、ってなに?」と子供達。


「愛してる、って意味合いじゃ」と天使。


「お姉ちゃんのこと、天使様も好きってこと?」


「ん?ああ、ああ、そうじゃな。嫌いやない」


「天使様は、名前なんて言うの?」と子供達。


「まだ、名前を持っていない」


「・・・なんで?」


「ベイビーから急に大人になったんじゃ。名前が長い。短くすると『ラヴィング』みたいな感じじゃ」


 美少女が少しの間を置いて、可憐な声で言う。


「ラヴィ」


「ん?」


「私、あなたがそれでいいなら、自分の名前を「ラヴィ」にしたいです」


「ほう、ほうほう。だったらそれでもええで。嬉しいなぁ」


「本当に?」


「ああ、せやで。真面目に嬉しい。あんたはラヴィでええで」


 美少女が笑顔になって立ち上がる。


「ありがとう、ラヴィング!ラヴィは天国に行きたいです」


「そうかぁ~。ほんまに今まで手伝いありがとうな~」


「はい!」


「あんたさんも、天国行きや!!」


 子供達がきゃっきゃとそこらで笑っている。


 美少女が天使に言う。


「わたし、あなたのことが好きです。正直、女として愛して欲しいと思ってました」


 ぎょっとした天使を前に、ラヴィと子供達の姿は消えていた。


 少しの間ののち天使はため息を吐いて、「ちっち」と指先を示す。


 そこに飛んで停まったのは碧い小鳥。


 天使はその小鳥に言った。


「なぁ、ハッピー?抜け落ちそうな羽根はないかい?」


《また何か善いことをしでかす気だね。協力してもいいよ》と小鳥が喋る。


「うん・・・【生まれ変わり】ってやつを、作ってあげたい」


《ほーう、なるほどね》


「賛成?」


《賛成だよ。幸先はなかなかじゃないか?》


「ハッピーだけに?」


《ははは。ハピネス。幸せの碧い鳥のうわさが経つまで昼寝でもして少し待つんだな》


 そう言うと碧い小鳥は別の世界へと飛んで行った。


 それを見送った天使は、噴水のふちに背中をあずけて地面に片胡座。


 静かに目を伏せる。


 眠りを誘う優しい風がリンゴの木の枝を揺らす頃、その姿は消えていた。




 ――

 ――――・・・


 ああ、夢だったのか。


 そう心の中でぼやいて目を覚ますと、そこは自宅のブランコの上。


 起き上るとテーブルにサンドイッチが入ったバスケットを見つける。


「どこかに行く気・・・?」


 そこにオレンジジュースをふたりぶん持ってきた女子。


「気分転換にお庭でランチでも、って」


「なるほど最高の提案だね」


 ふふふと微笑する彼女に、不思議な夢の話をした。


「どうしてかしら?その夢のお話、知ってる気がする」


「何かの本なのかな?」


「どうだろう??私の小さい頃には『天国の庭』って言う架空の場所のうわさがたったりしていたけど」


「ママ、何か隠していない?」


「さーて、ランチを始めましょう」


「それは・・・しょうがない。大人になったら、どうなるの?」


「今は知らない」


「だって僕たち、血がつながってないよ?僕はあなたが好きなんだよ?」


「知らなーい」


 十八歳でシングルファザーと結婚して、半年後に旦那は事故で死去。


 旦那の子供、つまり俺を引き取って育ててくれている義理の母は俺の初恋のひと。


「あら?何かしらこれ?」


 気づくとテーブルの上に碧い小鳥の羽根が落ちていて、俺がつまむとすと消えた。


 ぱちくりとしている彼女が、「幸せの青い鳥の羽根?」とぼやく。


 俺は嬉しくなって、にっと笑ってしまった。


「今のは俺のマジックだぜ?」


 指で感じる羽根の意思は、「ハッピー」と謳うような発音で言っていた。


 とりあえず今はむずかしいことなんて分からない。


 明日は明日の花が咲く。


 パパの口癖を思い出す。


 とりあえず明日になってそれでも夢を覚えていたら、調べてやろうと思った。



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