昔話、英雄と呼ばれた男
昔さ、本を読んだかして勇者にあこがれて
自分も立派な男になるんだって夢を持った男の子がいた。
その子は少年になるまでに、
英雄になる夢を忘れていた。
案外と色んなことが起きたんだ。
ただ、豆腐とプリンをわざと逆に言って
楽しむような妙になめらかな奴よりも
いびつな自分でいいのかもしれないって思うことがあった。
それは少年を大人にして、
やがて成人を迎えたその男は、自分が普通であるこにと悩んでいた。
ありきたりな日常について詩を作るわけでもない普通のひと。
そんなことをぼやく、
少しひとと違う所を魅力に思う者は少なからずいた。
そんなとある日、男は川で溺れている幼女を助けた。
そう言えば泳げないのに咄嗟のことだった、と男はぼやいた。
老人ばかりで子供が珍しいその街で、男は英雄と呼ばれた。
いつの間にか夢が叶った。
将来お嫁にしてくれと、助けた幼女とその両親からも「ぜひに」と言われた。
男ははにかんで「もったいないです」と言うと、
夢だった冒険の旅の支度をして、人知れず旅人になった。
彼は旅先でそのあとも何かに巻き込まれては、尾ひれのついたうわさになったそうだ。




