【抜粋】西遊記機関省
座りながら髪を拭いているカナタの膝の上に、ハルが抱きつくように座った。テレビ画面に天気予報が流れ、明日は一時雨だとキャスターが告げていた。
「出やすくなるな」
「そうね・・・」
ニュースが始まり、無表情な女キャスターが喋り出す。
【今日未明、南狂離矢区付近『カムイ公園』の池に、『河童』と思しき生物が出現し、近くに住む主婦三名と、幼稚園児三人が襲われ、重軽傷を負いました。そのうち主婦一人は病院に搬送されましたが、間もなく出血多量で死亡。園児の一人は沼に引きずり込まれ、現在も行方不明とのことです。
この報告を受けまして、日本国立防衛局・未確認生物自衛処理班、通称『サイユウ』は、近隣への影響を最小に考え、公園を完全隔離。警察・消防との共同で園児の救出と、『河童』と思しき生物の退治を行っています・・・続いては―】
「・・・チャンネル変えていい?」
「うん」
別の番組では、男のキャスターと、灰色七三頭の中年男が座っていた。
【えー、今夜は、時世評論家であられるカンダヤマガワ・ヒロノブさんにスタジオへお越し頂きました。神田山川さん、今日はよろしくお願いします。えー、さっそくですが、先日起こった『狂離矢区集団不知火目撃事件』の見解についてですが―】
【あれはね、妖怪でも何でもありません。そもそも《不知火》とは夏の時期に一部の海上に現われる自然現象であって、住宅街に現われる筈がありません】
【では、《火の玉》、という事でしょうか?】
【火の玉の出現条件は色々ありますが、この場合アスファルトの上での出現は考えにくいでしょう。それよりも私が提案するのは、集団幻覚事件、もしくは愉快犯によるイタズラです。今『狂離矢区』と呼ばれている場所は、犯罪をしたがっている者にうってつけですからね。亡霊だの妖怪だのとメディアが騒いでいる今なら、大抵の不可思議な事件はそれで片付けられてしまいます。その目撃者の何人かには、麻薬の常習犯がいたのでしょう?】
【実際、『サイユウ』という集団が公にされてからは、人間による妖怪模倣、というのですか・・・奇怪な生物を装う愉快犯的な事件が数々と起こっていますが、神田山川さんは今回も、それだとお考えなのでしょうか】
【そうだとしか言いようが無いでしょう】
「消していい?」
「うん」
ブツン、と画面が暗くなった。部屋がしんとなり、数秒の沈黙があった。カナタは抱きついたままのハルに気づいた。胸が大きく上下している。
「寝てる・・・」
「寝かせてこようか」
カスガはカナタからハルを引き離し、ぐずるハルの背中を叩きながら寝室に向った。その後姿を見送り、カナタは壁に寄りかかる。寝室から出てきたカスガは、キッチンの冷蔵庫を開けた。二本の缶ビールを取り出し、一本をカナタに渡すと近くに座った。
「《召喚師》って知ってる?」
カナタは微笑した。
「異空間を繋げ、異空間から呼び出す者。精霊、鬼獣、神獣、神の順に高等能力が必要になっていく」
カスガは頷いた。
「私の母方の家は、そういう血筋らしい」




