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黒羽根の天使
最果ての地・・・少なくともそう呼ばれている場所に来た。
そしてその端であろう、崖の先っぽへと向かって厳かに歩む。
幾重にも紗を使った絹基調の白いドレスは、風にその裾を躍らせた。
束ねてある髪の毛を自らが短剣で切り取り、残った髪が風に芳香した。
そのすらりとした身体を運命に任せて崖先から飛び降りた彼女を、
空中で黒い羽根の天使が抱き留めた。
彼女を抱いて羽ばたいていく黒羽根の天使に、見張りたちは無言。
そして彼女の置いて行った髪の束を見て、意地の悪い婆が高笑いをした。
「これを食べればきっと美しくなるっ。
まさかそれだけの理由で冤罪の罪に問われようとは思いもせなんだなっ
概念の天使すらもっ」
ふたりいた見張りは顔を見合い、うなずきあった。
はしゃぐしわくちゃの婆の襟首をつかむと、ひょいと放った。
悲鳴が遠くなっていく。
「あの婆も、なにかが助けてくれるのかね?」
「さて、殺しても死ぬかどうか分からない印象を残した」
様子を見に来た一族に、婆も飛び降りたと言うと、皆が事情を察して逃げて行った。