彼岸花と金平糖
蝶々がひらひら飛んでいる。
お菊虫だ。
ジャコウ揚羽とも言ふらしい。
一面の彼岸花は血肉のように赤く赤く、時折風にそよがれて揺れる。
砂利道の中を進んでいると、花畑の中に人影があった。
花畑の中には入ったらいけないので、注意しようと思って近づいた。
すると着物を着た美女がこちらに気づいて振り向いた。
長い黒髪の、赤い口紅をひいた高飛車に見えなくもない女。
高飛車と言うより、高値の花、か。
その美女はこちらに微笑み、「こちらに来ませんか?」と言った。
「いえ、そちらへは行かれません。君もこっち来て」
「あら・・・残念な気もする」
着物美女は砂利道まで歩いて来て、そして巾着から小瓶に入った金平糖を出した。
「あちらにまだ行ってはいけないのね?」
「まだ、って意味がよく分からないけど、なんかダメでしょうに」
「分かった、分かった」
美女が差し出した金平糖を受け取ろうとした時、に、ふと目が覚めた。
なんだ夢か・・・
病院の個室のベットのへりにもたれて、いつの間にか眠っていたらしい。
ベッドに横になっているのは、祖母。
そして添えてあった手を、ぎゅっと握る感触がしてはっとする。
意識がもうろうとしているはずの祖母がぼやいた。
「あの時、お前が止めてくれなかったら三途の川を早めに渡っていたよ」
「何を言っているの?」
「金平糖、食べられるか分からんがとってある」
祖母の荷物の中から瓶に入った金平糖を発見して、奇妙な心地・・・夢と同じ形だ。
葬式の時に祖母の昔の写真を見て、あの美女が若き日の祖母だと気づいた。




