バカ
誕生日のお祝いにもらった彼からの薔薇の花束はかぐわしく、周りの精霊も喜んでいる。
花束をくれるようなひとだと思っていなかった。
精霊がこの男は運命の男だよ、とさっきから小声で言っている。
「、ってな感じの、バカな話」
彼の話を一通り聞いて、感動しようとしている時だった。
私は怒った。
「何がバカな話なんですかっ?なんで半笑いしながら話すんですっ?誰かのために、みんなのために動くことの、どこが『バカ』なんですかっ?」
彼は驚いたようで、数秒、意外そうな顔をした。
そして「ははは。お前、どうしようもないバカだな」と笑いながら、私の頭を撫でた。
怒ってしまった私もバカだと思ったのか、彼はきびすを返す。
オフィスへと戻るようだ。
「なんで答えてくれないんですっ?逃げるんですかっ?」
「ちょっと、あんた・・・」
振り向くと、いつもマニキュアを気にしている受付嬢が寄ってきて、耳打ちした。
「さっきの話、彼の実体験よ」
「は?」
「彼はその運動の、リーダーだったの」
私は思わず息をのんだ。
まだ見える彼のうしろ姿に言う。
「なんで・・・なんでいつも肝心なこと言ってくれないんですか、このバカっ」
遠くの方で彼が笑った声がした。
それからというもの、彼を中心とした世界が、違って見えるようになった。
今では私も、立派な協会員の銀バッジよ。
そうそう、それから、彼は素敵な旦那様。
私からは時々、「おバカさん」と呼ばれているわ。




