ロード・ピリオド・グッド~RPG~
天気雨が降り出した頃、
女勇者と病弱魔法使いが街にまだいた。
中年だが美女の女勇者と、
美形のまだ若い白髪の魔法使い。
通りに現れた恐竜と言うカテゴリーの獣が、
雄叫びをあげている。
その奇病でも持っていそうな面の恐竜を、
黒髪の青年が素手一発で吹き飛ばすかのように
殴り倒した。
魔王を倒すと悪獣はいなくなる、と言う。
その話をすると、村人だった黒髪青年が仲間に入った。
いざ『魔王の城』へ向かった女勇者の理由は、
魔王に魔法でさらわれたかもしれない
旦那の居場所を知ること
そして魔王が犯人なら倒すこと、だ。
魔法使いの少年の目的は、恋愛。
魔法使いとしての才能と病弱が相まって、孤独感。
そこに現れた「おばちゃん」は女勇者。
うわさには聞いていたけど女性として魅力的。
恋をした。
だから、女勇者を補助しようと思ってここまで来た。
そして『魔王の城』内部、芯間。
そこはまさに「心臓部」で、
その『心の臓』を動かしているのは
女勇者の旦那が裸で張り付けられていて、
ほぼ吸収されそうになっていることから、
電気系統の能力者である彼の体質を見込むに、
旅路の諸々の会話なりと今対面している雰囲気で、
彼がエナジーの精製に使われているのは
明らかだった。
「あなたっ」
心臓部に駆け寄ろうとする女勇者を、
人差し指いっぽんで
空気圧を変え、
踏ん張ったその足を元の場所に戻したのは
黒髪の村人だった。
「どういうことっ?」
「大丈夫。こちらに敵意はない」
「・・・どういう意味っ?」
黒髪の村人が指をパチンと鳴らすと、
何かの内臓深部が、
女勇者の旦那を解放した。
ずるりと落ちた彼が落下するのを、
「浮け」と
バリアをクッションに、
黒髪の村人が助けた。
旦那のもとへ駆け寄る女勇者。
そして呆然としている白髪の魔法使い。
「・・・まさか、魔王っ?」
黒髪の村人らしき素朴な姿をしている青年が
そうなんだよ、と言った。
「僕は魔王です」
「なんで?」
「生まれつき」
「あっちの、倒れてるひと、なに?」
「女勇者の旦那」
「なんで、ここに、あんな風にいるの?」
「僕の見た目は素朴すぎた」
「よく分からない」
「うん、女勇者の旦那の美貌は『魔王』を思わせた。それが彼の悩みだった」
「うんうん、で、なんであんな風に?」
「ひとりで会いに来たんだよ。この僕に」
「・・・ん?」
「心配だ、って言ってくれたから、相談したんだ」
「なにを?」
「見聞してみたいことを言ったんだ」
「なるほど、それで?」
「うん・・・僕がエナジー精製をしていないと恐竜が暴れるんだ」
「つまり、悪獣の状態になるってこと?」
「そう。そして彼は、僕ほどでもないけどエナジー精製に向いていた」
「それで、なにっ?」
「本人に承諾を得て、期限つきで『魔王』と『村人』の立場を交換した」
「はぁっ?」
「うんうん、驚くのも仕方ない。もうすぐ息を吹き返すよ」
羽織っていたローブをそちらに投げ渡し、
黒髪の青年は「ただいま、コア」と心臓部に言った。
ドックン、と鼓動がする。
「これは・・・誰の、何なの?」
「古代兵器・・・僕がこの生き物をいさめる役割・・・
ただ、生まれた時からだった・・・
百聞は一見にしかずってやつとか・・・
一期一会だとか・・・
そういうのを、試してみたかったんだ・・・」
「ずっとひとりで、特殊エナジー精製役を
このコアって言う心臓部でしている者のことを
この世界では『魔王』って言うのかっ?」
「そうなんだよ」
「ひどいっ」
黒髪の青年は微笑し、白髪の魔法使いに言った。
「今から『魔王代理』をしてくれていた彼に、
エナジーを戻そうかと思う」
「分かった、白魔法だよな?必要なら手伝う」
「うん、君たちと一緒に旅ができてよかった」
ドックン、とひときわ大きな鼓動がして、
黒髪の青年すら意外そうにした。
「どうしたんだろう・・・?」
「《魔王よ、その魂が適合するなら、人間にしてやろう。我らがコア、天に願う》」
稲妻に撃たれたかのような衝撃のあと、
黒髪の青年は姿を消していた。
そして芯間で目を覚ました女勇者の旦那さんは、
どこにいるのか、
知ってる気がする、と言った。
そしてこの世界から、『魔王』はいなくなった。
歴代の魔王たちの願いで、
「素朴な姿の次」を願ったコアの記憶があると彼は言った。
本来なら『魔王』に選ばれていたかもしれない自分を、
両親は隠し育てて村人にして、
自分は恋愛をして結婚もした、と。
彼がどこにいるのか、知っている気がする・・・
女勇者の旦那はそうつぶやいた。
――――
―――――――・・・数年後。
白髪の魔法使いが、足元に雑草めいた花を見つける。
そこに、綺麗ねぇ、と可愛らしい声。
振り向くとそこには、女勇者とその旦那の子供。
なにやらお互い情がわいて、
白髪の魔法使いは
あのあと女勇者とその旦那の里に移り住んだ。
今では彼らの子供のお守役だ。
抱き上げた赤子を抱き寄せ、もう帰るぞ、と白髪の魔法使い。
赤子は嬉しそうに魔法使いに言った。
「僕、前に魔王だったよっ」
少しぎょっとした魔法使いだったが、すぐに冷静に戻った。
「外では言ってはいけません」
赤子は意味がまだ分かっていないのか、きゃっきゃと笑った。




