金色に咲く白い花
夢に見たのは大きな花が咲く場面で、開花したその白い牡丹を刺身みたいだと思った。
ほろりと一弁が事切れて舞い落ちる。
なんだか見入ったその光景に、金色の背景から声でない声がした。
どう思った?
『夢みたいだ』。
そこですと目が覚めて、「ああ夢だったのか」と起床。
顔を洗い、歯を磨き、着替えて、一階の厨房に降りる。
仕事はまだ青二才だが板前で、なんやかんや仕込みだので開店。
予約してあった白身魚の刺身を見た客が、「すごい、夢みたい」と高揚している。
「金色の夢の中で、お花もこんな風だったよ」
不思議に思って耳を傾けようかと思った矢先、カウンター席の客が言った。
「あのお寺みたいな所の、絵のうわさで夢を見たんだろう」
「どういうこってい?」
「意味はよく分からなねぇんだが、金色の屏風に描かれた牡丹が散ったんだと」
「は?」
「意味はよく分からねぇって言ってるだろうに」
「散った、って?」
「俺が思うに、咲いてるほうが本物で、散ったニセモノと差し替えたんじゃねぇの?」
「なにか一品、おごってやろう」
「ほう、オススメがいいな」
足りない成分は汁物だろうと思って、卵焼きを花のように飾り切りして出した。
まるで夢のようだ、と喜んでくれる客を前に、夢も現実も嫌いじゃないと思った。




