表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/74

コンビニエンスストア


 週に四日、コンビニエンスストアで僕は働いている。

 夜勤担当。

 時計を見る。

 現在、十時二十六分。


 そろそろだろうか、と思っている。


 いつもの美人なお客さん。

 二・三日おきぐらいにいらっしゃる、ご贔屓様。

 仕事帰りなのか、いつもスーツ姿だ。


 毎日立ち読みに来る、パジャマの男をちらりと見る。

 何度も同じものを読みに来るなら、買えよ。

 あんた、毎回楽しそうでうらやましいんだよ。

 僕、漫画系は一度であきるタイプなんでね。


 ちょうど男が、肩を揺らしてくつくつと笑っている時だった。


 待ちわびていた彼女が入って来る。

 そのさっそうとした姿では、年齢が分かりにくい。

 

「しゃーせー」


 彼女は迷い無く、店の奥へと向かう。

 今日もハイヒールが似合っているなぁ、とか、いけないかもしれないことを思う。

 男の性です。

 ええ・・・。

 呟いてみただけです。

 すいません。


 買い物の内容で年齢や生活習慣が何となく分かるようになってきた。

 彼女は来る度に、甘いものを買っていかれる。

 それで仕事帰りっぽいので、第一印象は、疲れてるんだろうか、だった。

 その時に珍しく煙草を吸いたいな、と思っていたので、覚えている。


 新しい客が入って来る。


「しゃーせー」


 半ば条件反射になっている、いらっしゃいませ。

 僕が入った時にはもう、しゃーせーでした。

 お客だった時から、何故かこれが言いたくて、ね。


 ちょっとぷくりした体つきのお客さん。

 

「ああ、山口さん」


 僕は声に反応し、目だけで、彼女を見る。


「ああ、帰り方向こっちなの~?」

「そうなんです~」


 どうやら二人は同じ会社に属しているらしいことが分かる。


「お疲れ様です」

「ほんとにもう、疲れたよ~」

「スイーツ・コーナー、こっちですよ」

「ああ、今は塩気欲しいから」

「ああ」


 ああ、なるほど。

 ポテチ、ですね。


 僕の予測通り、ぽっちゃり系のお客さんはポテトチップスを手に取った。

 コンソメ味。


 塩味じゃないんかい。


 小さな紙パックの野菜ジュースと共に、レジにやって来る。

 お会計。

 バーコードを読み取る、ピ、って僕が心の中で呼んでる機器は、お気に入りです。

 まぁ、興味ない方には、どうでもええ話でしょうが。

 ぷっくりめの女性客に、おつりを渡す。

 何故、オフィス・レディさん達は、妙に大きな財布を持っているんだ? 

 昼間勤務の時を思い出した。

 そう言えば最近は、大きな財布が流行っている気がする。

 なにもOLさん達ばかりでは・・・ないような?

 なんでOLさんにこの話をしたら、怒られそうなんだ・・・。


 おつりを渡し終える。


 それとほぼ同時に、スイーツ・コーナーにいた彼女がレジに来る。

 帰り際の同僚的なあの女性客に声をかける。


「気をつけて~」

「ああ、ありがと~」


 彼女は自然に笑顔。

 背中を向けた同僚にまだ手を振っている。


 ガラス扉の向こう側で、相手が振り返る。

 手を振り返した。


 小学校の頃、帰りの方向が一緒の同級生がいた。

 ほどほど仲が良くて、おしゃべりをしながら歩く。

 別れ道で、バイバイをする習慣がいつの間にかできていた。

 僕は一旦、バイバイをして、少し歩いて振り返るタイプだ。

 その時に視線に気づいて、振り返ってくれる確率はどれぐらいだろう?

 同級生の彼女は、そのまま背中を向けて帰るタイプだった・・・。


 何でそんなことを思い出すんだ。


 ああ、あ。

 今、仕事中だ。

 しゃっきとしなさい、僕。


「お待たせしました」


 彼女がレジに置いたのは、ミニケーキとチョコラスク。

 それとカフェオレと・・・

 いつもの、ブラック・コーヒー。


 彼女はいつも、車から降りてくる。

 誰の分の飲み物だろうか、と、毎回思う。

 きっと、恋人だろう。


 切ないッスね。

 叶わぬ恋って・・・けっこう辛いんスよ。


 お会計。

 

 僕の想っている彼女は、少し変わった方のように思われます。

 それとも、僕の知らない所でまた、流行っているのだろうか?

 それにしては、見かけない。

 がま口財布。

 彼女はパチンと音のする財布を持っている。

 何故かそれが、僕のツボなのです。

 何だか毎回、手元を見てしまいますが、別にいやらしい気持ちではないです。

 千円札を出される。

 おつりを渡す。


 彼女は僕に向かって笑いかけてくれた。


「ありがとう。お疲れ様です」


 僕ははにかみ笑いを浮かべる。

 いえ、とんでもございません、お客様。

 

 彼女はおつりの一部を慣れた様子で片手の指で別け、募金箱にいくらか入れた。

 さもそれが当然かのように、去っていく。


「ご協力、ありがとうございます」


 僕は彼女を見習って、コンビニのお客の時には、なるだけ募金に協力してます。

 だから本気で、お礼が言えるのです。

 それも彼女、お客様のおかげ。

 この仕事をしててよかったなぁ、と、彼女が訪れる時には特に、自覚できるのです。


 なんやかんやある夜中です。

 

 パジャマのお客がようやくレジに来る。

 一度読んだ雑誌を買われる、少し変わったお客様。

 特に会話をしたことがない。


 お会計。

 おつりを渡す。


「ありがとう」

「え?」


 極自然に、出てきた言葉らしい。

 ん?って顔をされる。


「ああ、いえ」


 彼はガラス扉に向かって歩いて行く。


「ありがとうございました~ぁ」


 初めて彼に、お礼を言われた。

 何だか嬉しくて、語尾が強くなってしまった。


 そのパジャマのお客が振り返る。


「がんばり~や~」


 意外だ。

 僕は思わず会釈。


 背中の翼と淡い光の幻覚のあと、ふわりと姿を消し店内からお客さんがいなくなる。

 がらんとした雰囲気。

 いきなり、暇を感じる。


 あのお客様、天使か精霊?はたまた疲れによる幻覚なのか・・・

 煙草吸いたいな・・・。


 今度はどんなめんどうくさいお客だろうか?

 何だか次のお客様が来るのが、待ち遠しい。



 ご来店、お待ちしております。


 はい。


 何度でも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ