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指輪のピアス


 一年先輩の男子から交際を申し込まれ、肯定的返事をする女子。


 女子の名前はアンネと言って、外国風に聞こえるかもしれないが生粋の日本人だ。


 コウサクという名前の男子高校生と交際するに、何度か共に外出しただけの仲。


 友人を通して知り合い、その頃には彼に恋人がいたが、自分のために別れたという。


 そんな事情に、普段から好感触の彼の告白に断る理由が特に見つからず、


 ただ「周りの成熟の雰囲気的に乗り遅れたくないから」と交際に踏み入った。



 その日ケガをした猫を動物病院に連れて行って、帰宅までに疲れはいつもの倍。


 引き取りてもなく心配だった猫について両親を呼び、飼うことになった。


 その猫の耳にダイヤの指輪みたいなピアスがしてあって、


 もしかしたら飼い主が他にいるかもしれないから「保護」という形になるらしい。


 前に猫を飼っていたが、ずいぶん昔のことで食べ物などは持ち合わせていない。


 両親が車を出してくれたので、動物病院の帰りにペットショップに寄った。


 結局前の猫を思い出して母が少し泣いたりして、アンネの部屋で猫は眠ることに。


 外食して帰宅する頃には夜になっていて、疲れで妙に眠い。



 自分の部屋のベッドに横になり、猫を抱き上げからかうように様子を見てみる。


 名前つけた方がいいのかなぁ、とぼやいて、猫を腹部に乗せて考え込む。


 そうしているうちに段々と眠くって来て、まぶたが閉じていく。


「おやすみ、にゃんにゃん」


 猫の口に軽くキスをするアンネ。


 アンネの寝息をじっと観察していた猫が、側に横になると尻尾をくねらせた。



 ―――――


「誰だ?」


 ・・・誰?


「ほう、我に抱かれに来たわけではなさそうだな。貴殿、何者なり」


 ・・・なんて?


「面妖な衣服である・・・何者か答えよ」


 アンネ


「確認をしたいのだが、貴殿、体の性別は男であるか?」


 なぜ、そう思ったんだろう?


「アンネとは普通、男の名前なり。貴殿、どこぞの身だ?」


 日本人です。女子高生。彼氏有りです。


「訳されて聞こえるが、貴殿、その「彼氏」という者と婚姻予定か?」


 はぁ?そんなわけないでしょうに。


「・・・ん?何か事情があるのか?」


 どういう意味ですか?


「事情があるのか?」


 ・・・うーん・・・事情?ないかも。


「・・・うん、さがりたもう?」


 なんとなく何て言ってるのか分かるんだけど、ここって、どこ?


「我の宮殿なり。どこぞ普段の女たちとは違うので、そち、明日も招こうぞ」


 ―――――


「・・・ん?」


 目が覚めて、カーテンの隙間から朝の日が差している。


 起き上がろうとすると、横にいる手が遮り、戻した。


 不思議に思い横を見ると、そこに、こちらを『暇のポーズ』で見ている美丈夫がいる。


 叫ぶのも忘れ唖然としていると、「どうした叫ばないのか?」と聞かれる。


 声まで美しいその若い男は、耳にダイヤの指輪のようなピアスをしていた。


「そのピアス・・・」


 アラビアンを思わせる高級な金糸銀糸の刺繍が首周りと袖にある衣。


 黒髪は長くつややかで、その顔立ちや雰囲気が厳かをはらんでいる。


「あなたはまさか王族で、王子とかで、継承権とかが関わってるのか、今?」


「なぜ分かった?我は王子で、後継ぎ問題できょうだいの誰かに呪いをかけられた」

  

「それで、何故、ここに?」


「君が連れて来た」


「まさかとは思うけど、猫に変身する呪いをかけられたんですか?」


「そうなり、我、昨晩まで猫だった王子なり。呪いとかれた」


「・・・なにがあったのか聞いてもいいですか?」


「聞きたいか」


「そうですね、気になるので」


「乙女の心からの口づけ、さすれば呪いは解け、我はいずれ王になり、その娘と結婚する」


「・・・ん?呪いは解けたんですよね?」


「そうなり」


「口づけしたその娘と、なんて・・・?」


「我の住んでいる世界では、夫婦である契りにしか口づけをしない。


 顕著な所、子供を生んでくれた女の唇を吸うたことがない歴代の王もいるそうだ」


「どういう意味?」


 押し倒されるように、優位な体勢になった王子。


 指先で優しくアンネの唇をなぞる。


「我、年端二十二。子供もおるかもしれぬが、よく分からぬ。


 唇に真実の愛で触れたのだから、呪いは解けたし、お前に、惚れた」


「・・・なるほど・・・」


「・・・納得したのか?」


 そこに、コウサクからの携帯電話への連絡が来る。


 着信音には慣れんな、と王子。


 ベッドから脱出してカーペットの床に座り、連絡内容を確認。


「なんて書いてある?」


「えーっと・・・あの・・・いつ、そういうことをさせてもらえるのか、と・・・」


 王子の顔を見上げ、携帯電話を再度見て、しばしのち王子を見る。


「どうした?」


「住んでるの異世界ですか?」


「そうなりな。魔法領国は異世界とも呼べるだろう」


「・・・なるほど」


「納得したのか?」


 携帯電話を簡易の可愛らし気なゴミ箱へ投げて捨てるアンネ。


「器用だな」


「どこらへんですかね、あなたの住処?」


「ん~・・・地理に詳しくない」


「従者とか呼べないんですか?」


「意外なり・・・そこまで見切るのか。なんの力だ?」


「おとめぢから、ですかね」


「ずいぶんとこの状況に肯定的すぎる」


「本とかで聞き知るに、魔法領国に行ってみたかったんです。


 もう自分に歯止めをかけたくない。


 これが本当に起こっていることなら、見聞とかの理由でオーケーですよ」


「正妻になるのを?」


「よく分からないけれど、それを前提に、昔封じた自分を解放したい」


「ほうほう、君の命、今、輝きだしてる。何かの思し召しかもしれない」


「今すぐですか?式を挙げてからですか?」


「そうか、もう、我を心に決めたか、ぬしを天が定めたと聞いたが、誠やもしれぬ」


 床に妖しい光の魔法陣が現れる。


 そこから従者らしき者がはえてくるように出現し、かしこまっている。


「王子、どうかお許し下さい。呪いではなく魔法をかけたのは父王でございます」


「王宮に帰る前に、色々と視察しておきたい」


「は」


「それから、妻を見つけたから連れて行きたい」


「は」


「奇妙だ、迷いはない・・・」


 小荷物をまとめているアンネに、必要ない、と肩を抱き寄せる王子。


 従者が、うやうやしく挨拶をしてアンネに名前を訪ねる。



「アンネ」


「・・・男性?」


「夢の中に出てきたの、多分、王様ですね」


 動揺に息を整える従者に、王子が「愛称を『アンヌ』にしよう」と言う。


「は。姫、魔法陣の内側にどうぞ」


 素直に移動して、魔法陣の中に入るアンネと王子。


 王子が「アンヌとは、我の故郷に咲く美しい花のことなり」


「最高かもしれないな。ぜひ、そのアンヌ、見ておきたい。もう、行こう」


「何かが違う女が欲しいと思っていたが、色々あった・・・もう、甘えたい」


「不慣れですけど、頑張りますんで、よろしく」


「ああ、分かった、分かった」


 魔法陣の端がついには天井に届くほど強く光ると、ふたりの姿はなくなった。


 術師である従者が、着信音とバイブレーションの発動した携帯電話を見つける。


「おかしな鳴き声のネズミだ・・・魔法のかかったなにがしかではなかろうな・・・」


 相手側があきらめたらしく、着信音とバイブレーション機能が止む。


 その頃には魔法陣は消えていて、術師の姿もない。


 誰も、いなくなった。


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