コードネーム「颯」
自由の男神に礼拝しているシスターは素朴に見える美少女で、
教会の持ち主フラワ・フォーター神父がやって来ると、
「こんな時間に何事だろうね」と神父はぼやいた。
気配を感じとり、神父から礼拝堂の外用出入り口に振り向くシスター。
神父の顔色をうかがうと、「きっと彼だ、行っておいで」とどこか不機嫌だった。
―――――
赤子を毛布に包んで抱きしめている美しい少年は、庭にいた神父に言う。
「このこを預かって欲しい。戦いが始まるから・・・」
「このことの関係は?」
「妹みたいに思ってる・・・親友の子供だから」
「分かったよ」
―――――
その赤子はやがて美しく成長しシスターになっていた。
彼女は街の路地で、ヴァンパイアが狩られるのを目にしてぎょっとする。
姿の変わらぬその美少年は、「お兄ちゃんなの?」とシスターに聞かれ、
しばらくの沈黙のあと、「なんだって?」と返事を返した。
「だって、覚えてるよ、姿変わってないっ」
駆け寄って来るシスターは、美少年に抱きついた。
「レイン・・・」
「私達、きょうだいなんだよね?」
無理やりみたいにシスターの唇にキスをした美少年は、そのあと体を突き放した。
「血は、つながっていない・・・拾って、あずけた・・・もう近寄るな」
去っていく背中を見つめながら、少女は唇に手をやった。
―――――
空が暗くなっていて雨が降っている。
神父の許可を得たシスターは、来客の気配に教会の扉を開け、驚く。
引っ張られそのまま閉まった扉に押し付けられ、大けがをした美少年を見つける。
「どうされたのですかっ?」
「・・・はは・・・まるでシスターの喋り方だ・・・」
「・・・どうしたの?」
しばらくの沈黙ののち、「助かるか分からない」とつぶやく美少年。
少しの沈黙に、美少女を目を伏せた。
「分からないよ・・・」
そのアゴを、ついと持って顔を上げさせる美少年。
「俺のことは、分からなくていいよ・・・」
「・・・知りたい」
軽いキスからはじまって、深いキス。
雨脚がその姿も、熱っぽい肌を吸う音も、その先も、
まるで洗い流すかのようにかき消していた。
―――――
「レイン」
「はい、神父さま、どうされたのですか?」
庭で洗濯物を取り込んでいるレインが、洗濯カゴに真っ白なシーツをたたむ。
横を向いた彼女のお腹は、臨月を迎えている。
「あれ?」
「レイン、いい加減、神父さんと俺の声、間違えるなっての」
美少年のままの『彼』が、どすどすと不機嫌に歩んで来て、洗濯物を担当する。
「声が似てるって言うか、なぜか間違えちゃうんだよ・・・」
「お腹大きいんだから、無理すんなって言ってんだろが」
「少しは運動したほうがいいって聞いたから・・・」
「誰に?」
顔を向けられ、
少し困った様子のレインは、少しうなって、唇をとがらせた。
ちゅ、っと唇を奪った美少年は、「まぁ、これでいいや」と言って少し笑った。
そのまま洗濯カゴを持って、室内へと入る途中、神父とすれ違う。
「おっす」
「うんうん、お茶の用意ができたから」
唇に手を当てるレインが、神父の姿を見つける。
近づいて来る神父に、自然と唇から手を放し、微笑を浮かべた。
「戦いは、本当に終わったんですね」
年を取らぬ神父が言った。
うららかな快晴、心地よい風が吹いた日だった。
「ああ、きっと最後の戦いが終わった」




